2006/12/11   

第6話「自己管理にかわるもの」

<メタボリックな大人たち>

 

パーソナルトレーニングを受けるクライアントの中には色んな要望があります。中でも一番多いのは「3〜7kg痩せたい」です。しかしこの要望ほど、結果に差がでるものはありません。膝や腰が痛いとか、姿勢の歪みからくる筋バランスの改善などでであれば、綿密な計画を練り出来る限りのことを尽くしてクライアントと一緒に頑張り、改善の方向に持ってゆくことができます。

でも「痩せたい」というのはお客様に色々やってもらうことが多いのです。食事の量やバランスを気をつけて頂くこと、こまめに運動量をふやすことなどです。お客様の心がけが結果を左右すると言っても過言ではありません。3〜7kgというのは、「完全に健康というわけでもないけど、病気でもない」という生活習慣病予備軍の人たちが多いのです。既に糖尿病や高脂血症と診断されている人は健康に関して切実で、結果も出やすいのですが、この予備軍の人たちは危機感が薄く、なかなか本気になれません。したがって、ダイエットの結果はあまりでないことが多いのです。また落としたとしてもリバウンドしてしまうケースもみられます。

 

最近の私のクライアント「出口さん」の例をみてみましょう。

 

出口さんは心理学で博士号をとり、ビジネスの世界で誠心誠意、世に貢献するため色んな趣向を凝らした仕掛けを作り、志に生きる侍のような方です。

 

「心というものはコロコロ変わるから、ココロっていうんだ」

「ココロに振り回されてちゃ、自分の志がはっきり見えないよね」と言いました。

 

私は「じゃあ、甘いものや余分な脂肪に振り回されてちゃ、身体のキレが悪くて志に生きられないですよね」というと、一本とられたような表情でダイエットを決意して下さいました。

 

脂肪というものは身体に悪いものでは決してありません。ただ過剰に蓄積すると今、さかんに言われている「メタボリックシンドローム」と言う現象に陥ってしまうのです。

最近、高血圧や糖尿病、高脂肪血症など、それぞれが独立した別の病気ではなく、特に内臓に脂肪が蓄積した肥満が原因であることが分かってきました。このように、内蔵型肥満によってさまざまな病気が引き起こされやすくなった状態をメタボリックシンドロームといいます。

 

 このメタボリックシンドロームを解消してほしいと願っていたことが、実現に向けて動き出しました。

 

<志なくしてダイエットなし>

最近は研究がすすみ、健康を維持しながらダイエットするためには、多角的に目標を決めることが重要だとわかってきています。単に身長と体重のバランスだけではなく、内臓脂肪値、体脂肪、ウエストとヒップの割合などから判断し、目標の数値をきめてゆきます。そういった目でみて判断できるものとは別に、私はその人の「覚悟の度合い」も聞くようにしています。どうして痩せたいのか、痩せてどうしたいのかを再確認して、「腹をくくってもらう」のです。確固たる信念がないと欲を制することは難しいのです。

 

不必要な脂肪を落とすとき、今までの日常生活で少しずつ太っていったなら、今後の日常生活を改善して痩せやすい習慣を身に着けるのが体にとって一番自然なのです。ですが、お金を頂いて、痩せたいという要望を受けた以上、短期間で結果を出さなくてはなりません。

 

そのために、出口さんがコロコロに振り回されないよう、「魂」に火をつける必要がありました。「志に生きるため、身体を健全に保つ」という強い覚悟をもってもらわなければなりません。

 

<できないと思ってるでしょ?>

ダイエットの大原則はとてもシンプルです。摂取した食事と消費した運動のバランスで太ったりやせたりします。相談して決めたダイエット期間は身体に刺激を与えることで日常の「太る習慣」を一度ぶち壊す効果があると思います。ですが、人間の集中力は長続きするものではありません。だから1ヶ月という期間を設定しました。しかも本当の努力はダイエットに成功した後、リバウンドを防ぐために、いかに「痩せやすい習慣」を日常になじませるかがポイントなのです。

 

出口さんがダイエットを決意するとき、信念を再確認するだけでは少し不安があり、私は「痩せたい」という言葉に対して、すぐに「分かりました」とは言いませんでした。なぜなら、今まで長い間一緒にトレーニングしてきたにもかかわらず、「病気ではない」出口さんはジムでトレーニングするのはただのリフレッシュにすぎないと考えていたからです。私は本当に成功させる気があるのか疑問でした。

 

すると、心理学博士である出口さんは私の表情を観て察したのか、「どうせできないと思っているんでしょ」とおっしゃいました。

 

私はドキッとしましたが、少なくとも信頼関係ができあがっていると思っていましたので、「はい」と答えました。出口さんが負けず嫌いなのは良く知っていたし、そんなことで怒るような器の小さい人ではないこともよく知っていました。

 

すると案の定、「絶対にやる!かけてもいいよ」と、やってやろうじゃないのとばかりに、半ば楽しんでいるかのように断言されました。いつもはトレーニングとして肉体を刺激しているのですが、今回は精神を多少つついたわけです。

 

そうして、見事4週間後、目標体重まで落とし、筋肉量はキープできたのです。そして今もなお、その体重をキープされています。

 

つい先日まで世界バレーが行われていました。日本チームは男女とも、メダルは届かなかったにせよ、格上の相手に迫る勢いで大健闘をおさめました。彼らの成績は本当に実力があって成し得た結果だと思いますが、日本開催の中、力強いサポーターの「ニッポン、チャチャチャ」にどれくらい励まされたことでしょう。同じ場で応援してくれる人に応えたい、自分の実力を出し切ってそれを認めてもらいたい、サポーターにはそういう想いを引き出す効力があると思うのです。「応援」という言葉は暖かく応える、と書くのですね、愛にあふれたその単語からは人と人が支えあっている素晴らしさを感じます。

 

「自己管理」という言葉があります。皆さんは自分自身のことを完璧に自己管理できている人間だと思いますか?もし100%自己管理ができる人がいたとしてても、魅力を感じるでしょうか。リーダーが完璧な人であったら息苦しくなるのは私だけでしょうか。

 

人間の心はコロコロして不安定なものですが、覚悟をきめることで人の行動は一貫していく気がします。また、自分ひとりの努力では時にはくじけそうになるとこともあります。

 

応援してくれる存在があって、監視される目があってその行動は力強く推進してゆくものだと思います。自己管理は難しいけど、覚悟することや身近な応援者を作ることもリーダーの力だと思います。

 

ダイエットに成功しながら、ニヤッと笑って、それでもやっぱり砂糖たっぷりのコーヒーを飲んでいる出口さんをみて、私は、あ〜あ・・・という表情をして見せました。内心、「こういう人こそリーダーなんだなぁ」と思いながら。

 

 

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