2007/02/19   

第8話「人間は小宇宙」

突然ですが、γ―GTP。

健康診断を経験した方であれば、一度は目にした項目ではないでしょうか?

γ―GTPとはたんぱく質を分解する酵素の一つで、肝臓や胆道に病気があると異常値を示します。特にアルコール性肝障害の指標として有効です。お酒をよく飲む人はこの数値が高くでる傾向が多いのです。

 

 また、身体の臓器の中で肝臓は、血液の門番と呼ばれ、血液から必要な成分を取り出し、身体に必要な物質に作り変えます。アルコールやニコチン、食べ物に含まれる毒素や細菌を分解し、解毒します。血液が固まるために、または固まらないために必要な成分をつくったりと、血液と身体を健全に保つ大切なセキュリティーなのです。

 

 人間の身体にとって害になるものは分解し、必要なものは取り出して作り変える、こんな機能がココロにもあるとしたら――そんなことを思わせる人との出会いがありました。

 

<忘れられない女性>

 

今から数年前、第1話でもお話したとおり、父の会社は倒産し、家族は路頭に迷っていました。やりきれない時間が流れていても、お客様の前で笑顔でレッスンするのは当然のことだと思っていました。ところが、その想いをそっと受け取ってくれる人がいました。

 

当時、私はスタジオでラテンのクラスを担当していました。六本木という場所柄、そこに集まる人たちは気まぐれそうな女の子や優雅なセレブリティが多く、黒のウエアは華奢な女性を華やかに映していました。

そこに、風貌がミステリアスで、雰囲気のある髪の長い女性がいらっしゃいました。彼女は静かに、でもこころからラテンダンスを満喫されているかにみえました。年齢はおそらく50歳を少しまわったあたりではないかと思います。私が彼女と話してみたいと思ったからか、自然と会話が弾むようになりました。

 

あるときドキっとすることを言われたのです。ちょうど家族が一番大変だったころ、レッスンが終わって駅にむかっている途中にばったり彼女に会いました。

 

「あなた!余計なことかもしれないけど、何かあったのかしらと随分気になっていたら、まさかこんなところで会うなんて」

とおっしゃいました。

「今日は、とても忙しかったんだけど、何故か、どうしてもあなたに会いにいかなければいけないような気がして無理に来てしまったのよ」

 

私はプロとして、人前に立つときは自分の日常を切り離してレッスンをしようとしていました。ところが彼女に言われた一言で、自分を振るいたたせていた緊張感が一気に崩れ、私は信じられないくらい素直に、レッスンを参加されるお客様に向かって今の心境を話してしまいました。

 

実家が倒産し、親戚や従業員に迷惑をかけていること、そのことで両親は生きているのか死んでいるのかわからないくらい追い詰められていること、しなくてもいい親子ケンカ、夫婦ケンカ、兄弟ケンカばかりで家に帰りたくないこと・・。

 

私の話を彼女は自然に聞き入れてくれました。そうしてしばらく立ち話をしているうちに、彼女が占い師さんだということが分かりました。ご本人は決して自分の口からはおっしゃいませんが、政治家や名の知れた方へのお仕事をなさっているような感じがしました。私は、誰にも言えなかった自分の想いをわかってくれたというような安心感を感じました。

 

「その経験は大変だったと思う。でもあなたはそれを人に言えたから大丈夫よ。世の中には決して言えないで、苦しんでる人たちもいるのよ。」

 その言葉の裏に、いくつものすさまじい現実が隠されているような気がしました。

 

私は、ようやく自分が血液の通った、体温のある人間であることを実感できたような気がしました。まるで、彼女は毒素やばい菌を解毒し、必要な成分を作り変える肝臓のように、多くの人の不安や憎悪、強いストレスを解毒してくれ、その人らしい活力を与えてくれるような存在でした。あれから彼女にはお会いしていませんが、きっと今も誰かの心のそうじをしてくれているのでしょう。

 

<人間は小宇宙>

 

話しは変わりますが、あるとき片岡鶴太郎展を観に行きました(私は鶴太郎さんの作品が好きなので)、そこでご本人の著書「無画夢中」という本を買いました。その中に「肝臓はすごい!」という題ではじまるエッセイがありました。――肝臓はお酒などの毒素をろ過する働きをし、その肝臓と同じ働きをする工場を造ったら、東京と同じくらいの敷地を用意しても足りない、ということを知り、びっくりしたと。大宇宙の中に銀河系、その中に太陽系、その中に地球があり、人間の身体がある、身体の中に肝臓などの臓器があり、それらは細かい細胞からなっている・・・。そう考えると自分自身の身体だってわたくしのものなんていえない、極大から極微までつながっていて一体なんですね。このいのちは大宇宙からの預かりものだから大切にしなくては。魂と肉体が分かれるとき、死ぬときまで大事に大事に使わなければなりません――という内容のものでした。

 

人間は小宇宙だと言います。宇宙にあるものは人間にもあると。

肉体に肝臓があって体の解毒や再生をしているなら、魂にも肝臓のようなものはあるのでしょうか。彼女が私にしてくれたように、人のココロの掃除をしてくれるものが。

 

<人との深いつながりが魂を輝かせる>

 

これは私の解釈ですが、それは人と人とのつながりだと思います。

 太陽と地球の関係のように、お互いがなくてはならない大切な存在だと気付くことにより、人は解毒され、再生されるような気がします。世の中をリードする壮大なリーダーは、きっと宇宙レベルの人とのつながりを持っているのでしょう。

 

 IT社会の現代はインターネットで世界中がつながっています。産業革命の時代は、宗教でつながっていました。私は彼女との出会いによって忘れられない魂のつながりを感じました。今度は私がこのブログでつながっている皆さんの肝臓を心配しています。

 

 

γ―GTPの基準値

 

男性:6〜60IU/I

女性:5〜40IU/I

 

人間の健康は決して健康診断の数値だけでは計ることはできません。とくに魂の健全性は、もしかしたらあなたの一番近くにいる人が知っているのかも知れません。お酒はひかえめに、といいたいところですが、お酒を一緒に飲む相手が、魂の鮮度をチェックしてくれる人であれば、どうぞお酒を飲むのも忘れるくらい、ひとの壮大な宇宙観を覗いてみるのはいかがでしょう。

 

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