2007/09/17   

第14話「行動力は、体感力だ」

日々、パーソナルトレーナーとして仕事している一方で、スタジオインストラクターとしても活動しています。今回はエアロビクスのレッスンを担当しているクラスのお客様の話です。

 

<人間を理解したい>

 

 ある時、スポーツクラブに、私あてに手紙が届きました。私のクラスに参加されているお客様が、この文章が記載されている「志のためのリッチエイジング」の「寺子屋」塾を読んで、ご自身の中に起こった変化を書いてくれたのです。

 

 その方の文章はこんな内容でした。 

10年間、保育士として勤め、数年前から、身体の疲れとともに、心の息切れも感じるようになったこと、仕事に自信をなくし、手抜きしたい自分とそれでも子供の前に立つとそんな事を言っていられない自分が相反して苦しいこと、エアロビクスのクラスに参加して身体を動かす楽しさと、自分の身体に向き合う時間を知ったこと、今まで、頭で身体と心を支配して来たけど、「寺子屋」塾を読んで、身体を無視してきたことに気づいた、頭と身体と心が和解した・・・などなど心の込もった、正直で、誠実な文章でした。

 

 そして、最後に「私は人間を理解したくて保育士という仕事に就きました。世に羽ばたくという意味で、自分達を超える人間になるように、人間の根幹を作る、というのが私の仕事のテーマです。志ある人間が育つといいです」と書いてありました。

 

 なんてステキな人なんだろう、と思いました。こんなステキな志を思いがけず聴くことができ、こんな格好いい女ザムライに会うことができたのも、スタジオで同じエクササイズを共有したからです。

 

 

<感じたことしか動かない>

 

 

 スタジオとは、不思議な空間です。

 一面のガラス張りに明るい照明、若い方からご年配の方まで幅広い層のメンバーさん、アップテンポの音楽、一体感のある動き・・・。

 そのお客様は、私と同年代の女性でした。一緒に、その不思議な空間に身を置きました。

朝起きて、通勤して、仕事して残業して、出張や会議や締め切りや接待などには関係の無い空間です。非日常の空間で30人以上の見知らぬ人同士が、同じ動きを音楽に乗せて、基本的にはノンストップで、次から次へと展開される動きに、夢中になって動きます。

 

エアロビクスとは有酸素運動ですので、30〜45分も動き続けたら、心拍数も上がり、気分も高揚してきます。そして、一緒に汗をかいて持久力をつけたもの同士、単に動きが一緒ということだけでなく、一体感が生まれてくるのです。以前にも書きましたが、レッスン開始から30分以上経過した頃から、息苦しさは少なくなり、「ランナーズ・ハイ」のような感覚になります。そうなると、少なくとも、そのレッスンを受けている45分なり60分の間は、仕事でのストレスや日常の心配事、くよくよ悩んでいたことなどが、どうでもよいくらい気にならなくなり、ただ、ズンズンというビートと自分の動きに身を投じていられるのです。

 

これは、多分、経験した人にしか分からない感覚です。

 

保育士のお客様が、わざわざ手紙に書いて送ってくれてまで、伝えたかったのはきっと、自分でその感覚を掴んだからだと思います。私は、何がいいたいかと言うと、人間は、自分で掴んだ感覚しか、身体に覚えこまないんだということです。物事の違いを区別したり、頭でどんなに理解していたとしても、心の底から本当に掴まなければ、魂をゆるがすくらいの感動や、覚悟をきめた行動力は生まれてこないと思うのです。

 

それは小さな子が痛い思いをして、危ないことを知ってゆくのと似ているような気がします。

 

<身体を起こす>

 

トレーニングを指導するとき、身体のどの部位を使っているか、お客様自身が感じ取って、意識してもらう必要があります。そうしないと効果が半減するのです。そのため、わざと、目的の部位をたたいたりすることもあります。筋肉を伸ばしたいのに、直前にわざと収縮させたりすることもあります。

 

例えば、背中の筋肉を意識するのは、トレーニングを行っている人でもなかなか難しいものです。背中といっても本来、何種類もの筋肉で成り立っていますが、一般的には、首からおしりまでを全部、一つのかたまりのように考えていらっしゃいます。そんな所から筋肉を伸ばしたり、たたいたり、局所的に収縮させたりすることによって、肩甲骨の内側や、背骨の両脇、腰の上、肩まわりという風に感じる部位が具体的になってきて、徐々に繊細に、鋭く感じるようになってくるのです。

 

それは、眠っていた身体が、少しずつ、目覚めるような感じです。

 

同じように、有酸素運動では、心拍数が運動の刺激になります。エアロビクスのビートに引き上げられるように、全身を動かすことによって、心臓は強く鼓動し、身体だけでなく、ココロも一緒に目覚めるのでしょう。

 

<身体が掴めば、ココロも掴む>

 

保育士のお客様とレッスン後少しずつ話す機会が増えてきて、ある会話の中で、「エアロビクスを始めて、身体の代謝だけでなく身のまわりの空気の代謝も良くなった」と話してくれました。レッスンに参加するために時間のやりくりを工夫するようになったこと、やろうと思っていたことの保留がなくなったこと、一時、疲れて寝てばっかりだった頃は、自分で、時間の流れや世の中との関係、人との関わりを止めていた気がする、と。

 

 適切な表現がみつからないからか、こんな出来事を「趣味に夢中になる」とか「エアロビクスにハマる」という言葉では、表現したくありません。それは私があまりにも深く思いいれをしているからなのでしょう。なにか、そんな軽いニュアンスで言い表せるものではないように、思うのです。

 

 私も10年以上前、仕事の締め切りに追われていたころ、頭の中は仕事のことばかりだった自分の時間の流れにぽっかり穴をあけてくれたのはスタジオにいる時間でした。頭を休めて、身体を動かしていると、24時間悩んでいたことが、23時間で済んだ、というくらい救われた気分になりました。そうして自分が今度はレッスンを創り、世で頑張っている人に「スッキリして、また明日頑張ってもらいたい」と思いはじめたのが私の志の原形です。

 

 保育士のお客様は、「人間を理解するために保育士になった」と手紙に書いてありました。

そして、真剣に志すほどに悩み、頭でココロと身体を支配しようとしていました。あるときエアロビクスに参加して、何も考えずに身体を動かしたら、身体が喜んだ感覚が分かったといいました。

 

 健康に対してだけでなく、世の中はあふれる情報に惑わされ、効果とスピードを求められています。健康であるためには、いつまでも若くいるには生活習慣を見直す必要はあることは誰でも知っています。でも一人ひとりが今の自分から違いをつくる、ということは、身体に響き、ココロにしみるほどの刺激や経験が必要なのです。

 

 エアロビクスによって、人生を変えることができる。私は本気でそう思います。

 

 何も考えないで、身一つでスタジオに来ればいいのです。頭を休めて全身を動かせば、心拍数とともに、あなたの志がズンズン、音をたてて見えてくるはずですから。

 

続く

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