2011.10.24
第4話 『ストーリーを創る』
お客様を招待するとき、ただ、真心をこめて準備するだけではなく、ストーリーを用意することができます。
季節は七月中旬、自転車が大好きな友人三名を私の自宅に招いて、昼食会をしました。自転車で通勤したり、週末に自転車に乗ってリフレッシュする人たちです。
テーマを決める
七月に、自転車が好きな友人を招待するという点から、今回のストーリーのテーマを考えました。
それは、百年を超える歴史を持つ自転車のプロ・ロードレース「ツール・ド・フランス」です。このロードレースは、フランスおよび周辺国を舞台にして、毎年七月に行われるもので、自転車愛好家なら誰でも知る存在です。
このテーマを決めて初めて、食事会のストーリーを組み立てる事ができます。ストーリー性を持たせる上で、使う食器や装飾品といった「道具」は大きな力を貸してくれますが、道具に頼りすぎると道具をひけらかすことになってしまい、せっかくのおもてなしが台無しになります。
ストーリーは三段階で構成する
豊富な道具を使うよりも、足りないぐらいが丁度いいと考えています。足りないからこそ、アイデアや見立て使いをして、取り合わせていく過程に楽しさがあります。また、友人のことを想いながら、アイデアを組み立てる時間もおもてなしの大切な準備段階です。最終的に、取り合わせで間に合わない部分は、言葉で如何ようにも補うことができます。
まず、第一段階は、ファーストインプレッションを用意することです。玄関の下駄箱の上に、ブリキの廃材を使用して作ったミニチュア(5×10×3cm)の自転車を一台置き、背景には黄色のひまわりを用意しました。ひまわりは、ツール・ド・フランスを意味する花です。
私自身は、さりげないおもてなしが好きなのですが、友人たちは30代とまだ若いので、おもてなしのテーマがわかるように、少し目立つようにしたのです。
そのミニチュアの自転車とひまわりを見た友人は、すでに、こちらの意図を察知した様子でした。
第二段階は、ストーリーの展開を行います。
「ツール・ド・フランス」は毎年コースが変わります。
今年はフランスの北西部にあるノルマンディー地方を走ることから、ノルマンディーの特産物であるカマンベールチーズとシードルをウエルカムドリンクとして用意しました。
メインデッシュは、野菜たっぷりのシチューにしました。あえてシチューにした理由は、鍋敷に見立てて、フランスの新聞紙を使うためです。そのために、シチューのお鍋を食卓まで運び、友人の前でシチュー皿に取り分けました。
なぜ、フランスの新聞紙を趣向として使ったかというと、1903年に、フランスのロト紙(スポーツ紙)が購買部数の上昇を狙って、ツール・ド・フランスを設立しました。 このストーリーを話題にしたいためにメインデッシュをシチューにする事を思いつきました。
第三段階は、締めくくりです。これまでが良くても最終段階がうまくいかないと画龍点睛を欠きます。デザートとお茶で締めくくりです。
デザートは直径30cmほどの丸くて白い大皿に、チョコレートでコーティングした細長いクッキーを放射線状に置いて友人の前に出しました。自転車の車輪を見立てて、盛り付けたことを気づいてくれた時は、一同、笑いが起こりました。
友人の一人が、ご主人とフランス旅行へ出かけた時の珍道中を話題に挙げてくれました。今回の食事会でなければ聞けなかった話が飛び出すのも、リラックスしてくれたからでしょう。
皆が、デザートを食べている間に、私は黄色いシャツとジーンズに着かえました。
なぜ着かえたかというと、ロト紙の新聞紙は、特徴ある黄色であったので、レースの優勝者にはマイヨ・ジョーヌと呼ばれる黄色いリーダーシャツを着用する習わしがあったからです。
クッキーを食べ終わるのを見計らって、黄色いシャツを着て、お抹茶を点てました。
こんな風に、日常で使っている道具をストーリーに組み合わせることで、遊びが生まれます。その遊びに友人は肩の力を抜いて、その場に居る事ができるのだと思います。
通常、私はおもてなしをするときには、食事、お酒、お菓子そしてお茶を勧めるときに、ストーリーをさりげなく話題にしていきます。
友人が話題を汲み取ってくれるタイミングを見計らって言葉を一つ二つと増やしていきます。一度に説明するとしらけてしまうので、さりげなく言葉にしていく事をポイントにしています。
そのタイミングが合えば、友人からも「そういえば・・」とストーリーに参加して、食事会に膨らみが出てきます。
今回のおもてなしは、若い友人たちなので少し目立つくらいのしつらえに意図的にしました。私の好きなさりげないおもてなしも、時と場合によるからです。あくまで、お客さまの視点が大切なのです。
茶道では、まず、型を学びます。この型を習得すると、次の過程は、創意工夫する段階へ入ります。さらに、創意工夫を踏まえると自由な発想で関わる器量が具わってきます。
この自由な発想をもって日常の暮らしに生かすことができると茶道経験者も未経験者も関係なくどんな人とも垣根を越えて関わることができます。
また、茶道ではストーリーをおもてなしする側とされる側の双方で創ることを大切にします。そのことによって、主客の一体感が生まれ、お互いに尊敬した関係が生まれます。
このようなかかわり方を続けていると、豊かな人間関係を築いていけると、私は確信しています。
皆さんも、ストーリーあるおもてなしをしてみませんか。