2009.11.02   

第34話:自分史を作ろう   

前回は、従業員に理解を示し、彼らを支援する21世紀型リーダーシップ、「サーバント・リーダーシップ」についてお話させていただいた。(詳しくは第33話を参照)

このリーダーの在り方は私が目指すリーダー像であることは前回触れたとおりであるが、そうなるために力を入れたいと切実に思う組織ワークのひとつに社員研修がある。

一企業として数字を上げ、結果を出すことは最も重要とするところだが、私が目指しているのは「数字のよい成績結果」だけでなく「質のよい成績結果」にある。

人材の質が上がれば顧客の信頼度も上がり、質のよい結果を生むこととなる。

人材の育成と従業員のモチベーションアップは、サーバント・リーダーとしての資質が必要不可欠だ。人こそが企業の宝と考えれば、当然のことであるが、通り一遍の研修では真の人材育成には繋がらない。

ご存知のとおり私は今までいくつかの研修会を行い、私自身ファシリテーターとして参加し、その様子を見守ってきた。

プロバスケット・ボーラーの森下雄一郎を講師に招いて、夢の実現化を具体化させることを目的とした「夢現塾」(詳しくは第6話第7話を参照)、そして、それぞれの「自分史」を発表することで、「自分を今一度振り返り、パーソナルミッションを血肉化しよう」と行った「喜感塾」(詳しくは第25話26話27話を参照)。

これらはいづれも有志対象のセミナーであったが、私はこのふたつのセミナーで社員研修に本当に必要なものは何なのかというセンスをようやく掴みかけていた。

弊社では以前、その「夢現塾」「喜感塾」と平行して全社員を対象に自分の夢や人生目標の明確化を 目的としたパーソナル・ミッション・セミナーを行ったが、社員たちは日常で、常にパーソナル・ミッションをリマインドできるほど、自分自身の掲げた目標や夢を咀嚼しきれていないことに気がついた。

そこで、その消化不良となっているパーソナル・ミッションをより具現化し、かみ締めてもらうためにBDBT(ブレイクダウン・ブレイクスルー)セミナーを補足として行うことにした。

これはパーソナルミッション創作によって起こったブレイクダウン(失敗や落ち込み等)を具体的に書くと同時に、ブレイクスルー(成果・創作前との違い等)を具体的に書き、自らのパーソナルミッションをもとに、より素晴らしく生きるための課題があるとすれば見極め、パーソナルミッションをより日常的に具体化してもらうためのものであった。
が、やはり100%具現化しきれていないのが現実だった。

こうして様々なセミナーの流れと社員たちの変化を見ながら、そもそも最初に始めなければならなかった大切なことが何なのかをようやく確信することができた。

そのキーワードとなるのが「インナーチャイルド(誰もが持っている子ども時代のトラウマ)」へのアクセスだ。

つまり、トラウマとなった時期の子ども(自分)と対話することによって、まずは自分を客観的に観察し、自分の感情を自覚する。そしてその上で、過去に起こった自分以外の何かに責任転換をせず、自分の道を選択し、自分次第で未来を生き抜くのだと確信することが最も重要だったのだ。これこそが、パーソナルミッションへの具現化に繋がるのである。

私は、このインナーチャイルドへのアクセスから始めるセミナーを、社内で実施することにした。名づけて「自分史セミナー」。

ところで、なぜ社内研修で自分史セミナーなのか?

まずは、何のために自分史を作るのかを考えてみたい。

成基コミュニティでは現在、マニュフェスト達成のため「繁盛店創出」に向けて真剣に取り組んでいるが、そのための大きな目標に「生涯顧客」の創出がある。つまり、顧客の夢の実現をサポートするヒューマン・ドリーム・サポートカンパニーとして、「人づくり」という観点から真に社会貢献する企業グループでありたいと願っている。

生涯顧客とは価格やサービスなどの比較で弊社を選択するという意味だけではなく、我々の理念やメソッドに共感して信頼を寄せ支持・支援を続けてくれる「ご贔屓の顧客」のことだ。

そういった顧客を得るために有効となるのが、自己開示である。

自己開示とは「名刺」や「履歴書」といった自分の公的な部分を明らかにするものではなく、本来伝える必要性のない、個人的な情報を相手に伝えることを意味する。

こうすることで、自分の人格に対する相手の理解を求め、より親近感を得ることができるわけだ。
つまり自分史を作るということは、この効果を上手く使って、顧客との信頼関係を高めるところにある。

弊社社員の場合「自分がなぜ教育産業界で働いているのか、何のために自分はここにいるのか、何をしたいのか」そのパーソナルミッションを掲げたバックグラウンドを明らかにすることにも大いに役立つだろう。

多くの人には昇華されていない過去の思い出がある。自分史を作ることは封印されていたその思い出との場を作ることになる。

「自分史セミナー」とはこれを機会に自分を見つめなおし、過去を肯定できるようになることで、自分自身のプレゼン能力を高める研修なのである。

さらに、教育現場、例えば教師の自己開示が生徒の好感度を著しく向上させることも多くの研究調査で明らかになっている。このことから自己開示を上手く行うことが人生の様々なステージで役立つことはおわかりいだだけたと思う。

さて、一般的に自分史というと自伝として文学作品を世間に公開するというのが誰もが思いつくところだ。自分の生きてきた証として主に壮年の人が親しい友人等に自費出版した著書を配布したりすることが多い。これらの自分史は人生のゴールとして「我が人生、悔いなし」的に作成されることが多いのではないだろうか。

しかし、弊社で試みようとしている「自分史」はこれと大きく異なる。

先に述べたように、ここでは「自分がなぜ、教育産業人として今ここにいるのか、そしてこれから何をしたいのか」を明らかにし、よりパーソナルミッションを明確化・具現化するためのものなので、ゴールではなく、「明確なスタートライン」の結成が目的となる。
未来の目標を描き、今後どうしていきたいのか、どんな自分になりたいのかが明確に謳われていないと顧客の前で自己開示し、顧客の信頼、支援を得ることはできないのである。

こうして、2009年7月から一年をかけ、10回のコースに渡って「自分史セミナー」が始まった。

参加者は有志ではなく全幹部社員62名である。

 様々な状況において顧客に対し、プレゼンテーションする機会が多々ある管理職にとって、その能力に磨きをかけることは「生涯顧客」創出の基本方針に大きく関わってくる。

プレゼンテーションは聞き手への「プレゼント」でもある。

しっかりしたプレゼントを顧客に贈るためには話し手である弊社幹部社員の存在がしっかりと芯のあるものでなければならない。

 例えば入園説明会、保護者会など、単なる塾の代表として商品説明をするだけではなく、自分史を踏まえた人間味あるプレゼンテーションを行うことで、その話は大きな説得力を持ち、顧客である保護者の心に染み入ることだろう。

 さらに、直接子ども達に接しているメンター・コーチ(講師)に関しては言うまでもない。

さて、自分史を書くにあたり注意したいことが三つあるので参考までにここに挙げておこう。

 壱: 自分史には自分の過去に対する自分なりの「解釈」が必要である。
     (既成事実だけを連ねたのではただの日記になってしまう)

 壱: 自分史(歴史)の中で一番大切なのは、現在の自分とどこか繋がってる過去がないか「探求」することが必要である。
    (今の自分を創った原因となるようなものの探求)

 壱: パーソナルミッションにおける自分の在り方と繋がっている過去の原因を思い出し、見つめなおすことが必要である。
    (何故自分がそのようなパーソナルミッションを持ったのかを探求)
 
 まずは、自分はどういう存在なのかを詳細に書き出し、自分の過去を振り返って、出来事を年表形式にまとめる。

そして作った年表の中で自分の気持ちの浮き沈みをグラフで示したのち、過去の出来事から特に重要なものを2,3個選びその出来事がクリアリング(昇華)できているかどうか自問自答してみる。

こうした出来事を節目として、自分史の時代を区分し構成を考えるのだ。

自分史とはその名の通り、自分の歴史であり、自分の過去である。

過去は変えられないと考えるのが一般的だろう。

しかし、過去は変えることができる。

既成事実は変えることはできないが、その事実の捕らえ方ならクリアリングと受け止め方次第で変えることができるのだ。

これが成基コミュニティの「自分史セミナー」の大きな特徴なのである。

 

*次回も自分史作成についてお話します。

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