2010.12.27      

第46話:能登島キッズランド 
        合格達成セミナー合宿(2)

今回も次回に引き続き、合格達成セミナーのお話をさせていただきたい。

2010年8月13日、塾生29名を乗せたバスは、朝8時半に京都駅を出発して、順調に能登へ向けて走っていた。

途中昼食を摂るまでは、自己紹介以外に取り立てて何をするでもなく車内は、静かな雰囲気が保たれていた。そして、13時を過ぎたころ、「無意味な体操」なるものが開始された。

その名の通り、これは体操としてまったく無意味ものであるわけだが、子どもたちに、この合宿への参加意義を認識してもらうためには重要なセレモニーとなる。

目的は「日々リラックスした自分との決別」そして、45話で述べた「グランドルール」の実践を徹底させることである。

5つのグランドルールは、バスが出発した後、社員が読み上げた後に子どもたちに復唱させることによって、認識させたわけだが、「認識」と「実践」とは違うものだということを体験してもらおうというもの。体操は社員でいちグループリーダーである、りきし(キャンプネーム)のマネをして上半身を動かすだけだ。

「これからあるゲームを行いますから、ぼくと同じポーズをしてください。まず、その前に・・・このゲームをやりたくない人がいたら手を挙げてください」

手を挙げる塾生はいない。想定内のことである。

「じゃあ、開始!まず右手を挙げて・・・はい、今度は反対の手を挙げて・・・」

最初は、簡単な体操だけに、にやにやと笑いながら手を挙げている子もいる。

5分ほどが過ぎた。

「このゲームのルールは簡単ですよね。ぼくが言うとおり動くだけです。ぼくが終了というまでやり続けること。それだけのゲームです。それと、もうひとつ大事なルールがあります。しゃべらないこと。わかりましたね?」

その瞬間バスの中の子どもたちの表情が硬くなった。

ただのゲームじゃない、何かあるんだな、と気付いたのである。

「じゃあ、ゲームの続きを行います」

再び、頭に手を当てる、右手を挙げてこぶしを握るなどが15分程度繰り返された後、りきしが、両手を前にまっすぐに挙げたままの状態で目を閉じた。

そして子どもたちに問いかけた。

「君らは何で今、手を挙げ続けてるの?どんな気分?」

「マネをしろって言われたから・・・」ガーリックと名乗る塾生が言った。

「自分のため・・・弱い自分を乗り越えるため・・・」とコイルという塾生が言った。

「しんどい・・・」という意見もパラパラ出てきた。

塾生の顔は、両手を挙げたまま、だんだん歪んで来た。辛いことは紛れもない事実だ。

「今、何人かの人に感想を聞きましたが、他のみんなも同じ?マネしろって言われたからか?言われたからしんどいけどやってるんか?」

この頃から、りきしの言葉の語尾が強くなってきた。

「ぼくはこのゲームの前になんて言った?やりたくない人は手を挙げてって、いったやろ?でも誰も手を挙げへんかった。ということは、君らが自分で“やる”って決めたんとちがうんか。自分が決めたんやったら、その言葉に責任持てよ!」

塾生たちが歯を食いしばり始めた。そこにさらに追い打ちをかける。

「手が下がってきてるぞ!誰がおろしていいって言った?まだ下ろしていいって言ってない!君らの今までも、そうやったんちがうんか!学校の宿題するのもお母さんや先生に怒られるから。塾に来るのも お母さんに言われたから・・・。自分で今までやるって決めたことあるんか!この合宿は、ほんまにハードや!誰かに言われたから仕方なくでは、やり通されへんで!」

余談になるが、この間、各グループリーダーやスタッフたちは全員が塾生と同じように両手を挙げ続けていることを明記しておきたい。

苦痛にゆがんだ子どもたちの顔が並ぶ様子は、一種異様な雰囲気を車内に醸し出していた。時はお盆休みの真っただ中。帰省や行楽で笑顔いっぱいで車に乗っている他の子どもたちとはまったく正反対の世界がここにはあった。

しばらく沈黙が続いた後、トレーナーのサムライが言った。

「今の気持ち、忘れんといてくださいよ。では・・・ゆっくり手をおろして・・・。目はそのまま閉じておいてください。はい。深呼吸しましょう!」

ゆっくりとした呼吸を何度か続けた後、塾生たちを瞑想への時間へと導く。

この間、合宿アシスタントのスタッフ、ラブ(キャンプネーム)はせわしなく何度時計を見ながら、「あと何分くらいで、能登大橋ですか?」とバスガイドに事細かく確認していた。

ラブからの合図を見ながら、りきしが、塾生の瞑想を上手に声かけしながら引っ張る。

そして―、遂に、能登大橋が見えてきたところで、ラブがトレーナーのサムライに合図を送った。

「やる!と決めたことをやらずに生きて来た自分に気づきましたか?やれないことに対して、しんどいもん!とか、難しいやん!とか、理由をつけて、自分や周囲をごまかしてきたことがわかりましたか?みんなは、自分との約束を果たすために、自分で決めて、ここへ来たんや。覚悟はええか?今までの弱い自分を捨てて、新しい自分になる覚悟はできてるか?」

塾生はみな真剣にサムライの話を聞いている。頭は微動だにしない。目は緊張からか、必要以上に強く閉じたままだ。

「弱い自分は捨てよう!胸に手を当てて!そう・・・そして、今までの自分をその手の平でつかみだしてみよう!」
 この時、バスはちょうど能登大橋の上を走行しているように計算されている。

さきほどからアシスタントのラブがしきりに時計を気にしながら、バスガイドと距離を見ていたのはこの一瞬のためなのである。

「じゃあみんな、目を開けて!ばいばい!今の自分!」

塾生が目を開けると、そこには能登の海がパノラマで広がっていた。

「さあ、この海に、弱かった自分を捨てよう!それ!」

サムライや他のグループリーダーたちが海に向って窓から何かを投げ捨てる仕草をした。

それを見て、塾生たちも一斉に握りこぶしを窓の外に向けて振りかざし、それぞれが「えい!」と声を上げながら手の平を海にかざした。

「自分で決めたことや!誰から言われたことでもないで!絶対、なりたい自分になって帰るんやって、気持ちで合宿に臨んでください!」

こうして、バスは午後3時前、キッズランドに時間通り無事到着。

ベランダにて到着式が行われ、その後に各グループごとの敷地内散策が20分ほど行われた。

散策の後、私は戻ってきた塾生に聞いた。

「散策して何が見えた?どんな色やった?何が聞こえた?どんな音やった?どれくらいの色と音があった?」

「ばったが飛んでた!」「葉っぱの緑がきれいでした!」「ヤギみたいな変な動物の声がした」「セミが鳴いてた!」

子どもたちらしく、塾生は次々と答えた。

「うん!そうやな。例えば葉っぱの緑・・・。一言で緑って言っても、いろんな色があるはずや。集中して、おんなじ緑の中にある違う緑を探して、違いを見てごらん。たとえば、違いを見たいと思う気持ちがあれば、葉っぱの見方も変わるやろう。葉っぱの見方が変われば、考え方もかわる。考え方が変われば、自分の生き方もかわってくるんや」

集中すると様々な発見がある。自分の中にも気づきが生まれる。それを子どもたちに体感して欲しかった。

私は続けて言った。

「さっきのバスのゲームで、みんなの中には“いややなあ”というつぶやきが心の中であったと思う。その心の中のつぶやきを、観察してください。グランドルールの3つ目は何やった?

今、何が起こっているかを観察し、何をすべきかを判断して行動する、やったな。

 グランドルールは認識するもんじゃなくて、実践するもんや、いうことを忘れるな!」

子どもたちが大きな声で「はい!」と返事をした。

次いで、入村式が行われ、キッズランドの旗がゆっくりとフラッグポールに上り始めた。

この4日間、塾生、そして我々スタッフを見守り続けてくれる旗である。

「旗が上に上るまでに、自分自身への誓いをもう一度立てよう!」

心が変われば、態度が変わる。態度が変われば、習慣が変わる。その習慣の変化こそが大切なのだ。

この合宿が導くのは学力の変化だけではない。集団で生活することの基本を身につけ、リーダーシップをとれる力を得ることも大きなメリットだ。

教科教育なしのメンタルのみを鍛える合宿がどうしてそこまでの成果を上げることができるのか−。

入村式を終えた午後、いよいよ合宿本番がスタートした。

*続きは次回です。


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