2007/10/23
2008.07.14 

3話 サムライを生む環境

武士道の消滅と復活の予言

新渡戸稲造は、「守るべき確固たる教義や公式を持たないために、武士道は朝の一陣の風であえなくも散っていく桜の花びらのように、その姿をまったく消してしまうことだろう」と、武士道の消滅を予言している。

 

 ただ新渡戸は武士道の復活を次のように予言しているのである。

「武士道は一つの道徳の掟としては消滅するかもしれない。しかしその力は地上から消え去ることはない。その光と栄誉はその廃墟を超えて蘇生するに違いない」と。

 

武士道とは何か

新渡戸稲造は、武士道とは、「戦士たる高貴な人の、本来の職分のみならず、日常生活における規範」であるとしている。その規範は、義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義という7つの徳目から成り立っている。

 

つまり新渡戸稲造がいう「武士道の再生」は、この規範が蘇生するという意味になる。感傷に浸るのではなく、現実にどのようにすればその再生が可能なのだろうか。

 

それには、サムライの徳目の起源はどこにあるのかを探る必要がある。

なぜサムライはこれらの徳目を持つことができたのだろうか。

 

新渡戸は、武士道を儒教、仏教、神道の教えに起源を求めている。実際にはそれらの教えが伝えられたからという意味だろう。確かに武士道は、江戸時代になって武士の教育として教えられてきた。つまり、それは教育にあるということだ。まさに、江戸時代に武士道という言葉が生まれ、上級武士たちはこの教育を受けた。

 

ところが私は二つの理由から、教育で徳目を教えることに限界を感じている。

 

一つは、封建時代と異なり、民主主義の時代に、たとえば儒教を国の教育の根幹として据えることは困難である。政治は、政党が政権を握るためには、国民の生活の改善を第一義としなければ難しい。

 

もう一つの理由は、江戸時代に武士道教育を受けた上級武士たちは、明治維新のときに、脆さを露呈している。明治維新の原動力は下級武士や町民であり、その勢力の元に、脆くも佐幕派は崩れ去ってしまった。平和時の教育は、武士道の徳目を、単なる教え、戒律に形骸化させてしまったのである。

 

江戸時代に書かれた葉隠れにある「武士道というは死ぬことと見つけたり」という教えも役に立たなかったということになる。

 

武士道の起源

 平時には、もはやサムライが顕れた環境は無く、徳目は、教義や戒律として、形骸化したことは瞠目に値する。

 

私は、サムライが持つという規範あるいは徳目は、死に直面する戦乱の時代の中で、サムライ自身の中から顕れてきたものだと思っている。それらは、人間が本来備えているものであって、教育で「無から有に」創り出されるものではないということである。

 

私は「これはグッドニュースだ」と思っている。体系化された教義がないがゆえに、武士道が滅びると新渡戸稲造が言った、まさにその原因が、宗教や倫理と言った分野ではないところで、復活する可能性を残したのである。

 

つまり、武士道が現われた環境をなんらかの形で再構築する可能性が残されていると私は思っている。

 

それでは、どのようにすれば私たちの中に現われるのだろうか。ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーは、「人は死に直面したとき本来的な姿が現われる」と言っている。

 

 私たちは、昨日やることを今日、今日やることを明日へ、明日になったらやるべきことを忘れている。

 

私たちは、いつか優しい人になりたいと思っているのではないか。今日ではなく、明日勉強しようと思っているのではないか。また、明日勇気を出そうと思っているのではないか。

 

私たちは本来今日やるべきことを明日に伸ばして生きている。

 

 では、なぜ私たちは、明日に伸ばすのだろうか?

 

 それは、明日があると思っているからだ。もしあなたが24時間後にこの世に存在しなくなることがわかったらどうだろうか。あなたは何をするのだろうか。

お金を稼ぐことは意味をなさなくなる。

 

 私は大学で教えているころ、学生にこれから六ヶ月間何をしたいかというアンケートをとった。そのあと、あなたの命が半年でその間、健康でいられるとするなら何をするかというアンケートを取ったのである。

 

 ただ半年間何をしたいかという質問には、バイトをする、旅行をする、など日常やっていることを記述した。

 

しかし、半年の命となると、行動が一変したのだ。親孝行する、好きな人と一緒に暮らす、生きた証を残す、というものだったのである。

 

 明らかに、私たちは「人生は有限だ」と生きていないのだ。

 

 次回は、その方法論を語ろう。

                         出口 光

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