2012.02.8       

73話 「神に仕える者の組織のあり方」

19995年。マザーテレサの晩年。

 ニューヨークの街を一望できる高級ホテル最上階にて、いまや世界中に広がったマザーを支援する協会の会議が開催された。

長テーブルにはマザーを支援すべくスーツ姿に身をやつした多くの役員が席を埋めていた。マザーはいつもと変わらぬ白い布切れを覆った衣服を身につけている。

厳粛な雰囲気の中で議長が議題を進める中、マザーはルーム内で接客するホテルのボーイを手招きして呼んだ。

そして、各席上に置かれている飲み物を指差してボーイに聞いた。

「これは一本いくらですか?」

ボーイ「3ドルです」

「3ドル?・・・」マザーはしばらく唖然とし、その後ぼそっと言葉を続けます。

「3ドルあれば子供が一年間学校に通えるわ・・・」

それを聞いた議長はあきれて言います。

 「マザー、我々はいま大きな問題に直面しています」

議長は、そのような小さなことを言っている場合ではないのだと言いたげです。

 そして、マザーに構わず「では、多数決によって決めます」と議題を進めます。

マザーは「分かりました」と言って席を立ちます。

議長は困惑した表情で「マザー、協会の規約に基づく採決です」

マザー「それは昨日までのことです。今日からこの協会は存在しなかったことにします」

議長「それは法に反することです」

マザー「銀行口座も閉鎖、会報の発行も、ホテルでミーティングを開くのも中止です。私たちは初心に帰りましょう。貧しい人たちの中でも、もっとも貧しい人たちのもとへ」

マザーはそう言いながら静かに退席されます。

議長は、あきれてマザーの側近である神父に訴えます。

「神父さま、黙ってないで反論してください!マザーは一瞬にしてあなたの30年の努力を無にしてしまったのですよ」

神父はマザーの支援体制を築くべくこの日のために一所懸命身を粉にして頑張ってこられたのでした。

しかし神父はうなだれて力無げに答えます。

「そうだ、その通りだ。私は30年もかかってやっとわかったよ。マザーが正しい・・・」

その二年後の1997年、マザーは天に召される。


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