第142話 「多々良」2015.04.14
吸気は鼻より入りて腹中に納まる。
呼気は腹中より出て口から出る。
この時、音となって虚空に響く。
鼻と腹を使いたる息は深くして量多し。
人は虚空に漂いたる水と火を体内に取り込みて生命が保たるるなり。
人は食物や水分などは無くてもすぐには死なぬが、空気が無くなればすぐに死ぬ。
空気は最もありがたき神の賜物なり。
虚空に漂いたる気体に含まれる水と火を水火(イキ)と言う。
いにしえよりこれを「コエノコ」と言う。音声を生み出す元のゆえなり。
コエとは神なり。
ゆえにコエノコに神霊原子と言う字を当てるなり。
息を吸う時肩を微動だに動かすことならじ。肩を動かしなば息は胸に入るなり。
胸に入りし息は体の上部に留まる表面のみの浅い息なり。
浅き息は浅き思考、浅き行動、浅き言語となって現れる。
腹に入れたる息は身体の下部に落ちる。下部に落ちた息は腹に圧を加え腰を働かせる。
腰動きなば手足稼働す。
息はまさに活動力の元なり。
腹は強き鉄を造る製鉄所の如くなりしかば、いにしえにおいてここを天津多々良場とも称するなり。
腰は炉、腹は燃え上がる火なり。
虚空中に漂いたるコエノコを腹に取り込み声を発するは、さながら剱を作製する如くなり。
見事なる剱を造るため、多々良にふいごで空気を送り込み高温に熱するなり。
天帝に献上する強き美しき剱を造りあげるが我らの道なり。