2009.04.06   

第27話  すべての治療の基本「栄養療法」
−薬だけに頼らない医療を目指して  その2

前話からタイトルにあるとおり、すべての治療の基本と考える「栄養療法」についてお話をしています。最近は、かなり多くの方が何らかのサプリメントを摂られているのではないでしょうか。またその一方で、サプリメントを摂ることに抵抗を感じている方もいらっしゃると思います。今回は、病気の予防や治療効果を最大限に発揮するために、さらに健康を維持し、より活力を生むために、「栄養療法」では何故サプリメントを用いるのか?についての話となります。

何故食事だけではダメなのか?「栄養療法」でサプリメントを摂る理由

「栄養療法」の治療には「食事療法」と、「サプリメント」の2つの柱があります。(もちろん運動することもとても大事ですが、今回は特に、この2つの治療についての話をします)

「食事療法」に関しては、現代人に共通して言えることとして、過剰に摂取している糖質の制限と、不足しているタンパク質やビタミン、ミネラルを多く摂れる食事に切り替えることが重要となります。「栄養療法」は、何よりも先ず食事の改善が基本となります。毎日摂る食事がとても大事なのです。そして、この食事に加えてサプリメントによる栄養素の補充がさらに必要となります。ここでよく聞かれる質問です、

 「食事だけではダメなのですか?」
 「何故サプリメントを摂らないといけないのですか?」

これらの質問に対する答えは、前話でも少し触れたように次のとおりです。これが分子整合医学に基づいた「栄養療法」でサプリメントを摂る大きな理由です。

「栄養療法」は、欠乏予防だけではなく、より健康的な最高の状態を目指しているから。

厚生労働省が発表している日本人の食事摂取基準のひとつに、「推奨量(RDA:Recommended Daily Allowances )」があります。これはほとんどのひと(97〜98%)が欠乏症を予防できる栄養素の量のことをいいます。欠乏症には、前話で述べたようにビタミンA欠乏による夜盲症やビタミンC欠乏による壊血病、ビタミンB1欠乏による脚気などがあります。従来の栄養学は、この推奨量を基準にした栄養指導となり、この推奨量以上の栄養素を摂ること、それもサプリメントで摂ることに疑問を持たれている方たちがいます。

しかし、この推奨量は、健康なひとだけを対象にした欠乏予防のための最低量であって、健康なひとたちにとっての最も望ましい量でも、平均的な量でもありません。ましてや、病気の人にとっての必要量や治療目的のための量でもありません。ですから推奨量さへ摂っていれば充分健康が保てるということにはならないのです。

では何故サプリメントが必要か?例えばビタミンCの推奨量は、一日当り100mgとされています(第7次改定日本人の食事摂取基準より)。レモン1個にはビタミンCがおよそ25mg含まれていますから、欠乏症を予防する意味での推奨量を満たすには、単純に一日レモン4個を摂れば良い訳です。この程度の量ならば確かに食事だけから摂ることは可能です。

しかしすでに述べたように、分子整合医学に基づいた「栄養療法」は、欠乏症予防だけではなく、もっと健康的で、より理想的な健康状態を得ることを目指しています。そのために、この「分子整合医学」の提唱者である2つのノーベル賞受賞者(化学賞、平和賞)ライナス・ポーリング博士は、詳細な研究結果から、健康なひとでもビタミンCを一日当たりおよそ2,500mgすなわち2.5gは摂る必要があると唱えています。

ポーリング博士が、このようにビタミンCを大量に摂ることを提唱する根拠となった研究とは、次のようなものでした。それは、動物実験用のサルの健康を保つためには、1日にどれほどの量のビタミンCが必要か、つまり1日の餌の中にどれほどのビタミンCを入れる必要があるか、を慎重に研究したものでした。その結果、サルを健康に保たせるために1日に必要なビタミンCの量は、1960年当時アメリカにおける人間のビタミンC推奨量1日60mgのおよそ50倍、すなわちおよそ3,000mgつまり3gものビタミンCが必要であることがわかったのです。

さらに、ポーリング博士に大量のビタミンC摂取の重要性を気付かせた、アメリカのアーウィン・ストーン博士は、人間にとってのビタミンC至適量は、1日2,500〜20,000mgすなわち2.5から20gの摂取が必要であり、闘病中の人はさらに多くの摂取が必要であることを強調しました。ちなみに、ヤギは人間に換算すると、1日におよそ14gのビタミンCを体内で合成しており、病気にいたったときには、1日におよそ100gのビタミンCを体内で合成しています。こういったことからポーリング博士は、少なくとも人間は1日2.5gのビタミンCの摂取が必要であると提唱しているのです。

ほとんどの動物は、体内でビタミンCを作ることができます。しかし、残念ながら人間とサル、それにモルモットとオオコウモリだけは、体内でビタミンCを作ることができません。したがって、ビタミンCを作る能力を失った人間などのごく限られたこれらの動物は、生存のためにどうしても食物などのかたちで、体外からビタミンCを摂取しなければならないのです。ポーリング博士の提唱した、ビタミンCの1日の摂取2.5gという量は、現在の1日100mgというビタミンCの推奨量の25倍、レモンにしておよそ100個分の量となります。他の食物と併せても、食事だけでこれだけの量のビタミンCを摂るのは困難です。そこで、より健康的な状態を維持するためにも、どうしても栄養素の補給としてサプリメントが必要となるわけです。

さらに、食事だけでなくサプリメントが必要な理由として、

1.食物に含まれている栄養素自体が以前に比べて著しく減っており、すべての栄養素をバランスよく食事で摂ることが難しい。
2.栄養素の需要量は、人それぞれに大きく異なっており、20倍以上の個人差があると言われている。
3.各個人においても、生活環境や体調、ストレスなどによって栄養素の必要量や吸収状態が異なる。
4.ビタミンやミネラルは共同して働くため、足りない栄養素の影響を受ける。つまり、いくらひとつの栄養素を大量にとっても、他の栄養素が足りないとその影響を受けて充分に利用されず、摂取量より実際は少ない量しか有効に働いていないことになる。そのため、バランスよく栄養素を底上げする必要がある。

以上の理由があげられます。特に上記1.の「食物に含まれている栄養素が減っている」ことに関して、たとえば、50年前のホウレン草100gには、ビタミンCが150mg、鉄が13mg入っていました。しかし、今のホウレン草100gにはビタミンCが35mg、鉄分が2mgしか入っていません。なんと5分の1から6分の1にまで減ってしまったのです(日本食品成分標準表三訂1950年と五訂2000年より)。ですから、もし同じ量のビタミンCや鉄をホウレン草から摂るならば、単純には5倍から6倍の量のホウレン草を食べなければならなくなります。これは現実的ではありません。

また、上記4.の「ビタミンやミネラルは共同して働くため、足りない栄養素の影響を受ける」事に関して、「桶の理論」というのがあります。桶は何枚かの同じ高さの板を使った液体を入れる容器ですが、この板一枚一枚がそれぞれの栄養素であるとします。もし、一枚の板の高さが他の板の高さに比べて低かったならば、この桶に入る液体は、この低い板の高さまでしか入りません。つまり板の高さが低い、言い換えると一番少ない栄養素のレベルで代謝が行われてしまい、充分量の栄養素をいれたとしても活用されずに排泄されてしまうということです。

各栄養素がバランスよく取れた食事をすることは確かに理想です。厚生労働省が、疾病の一次予防に重点を置いた健康づくりの運動である「健康日本21」の中で、一日の野菜の目標摂取量を350gと決めました。これはおよそ一日で野菜5皿分以上の量となります。しかし、実際にこの量の野菜を摂れている方はどれほどいるでしょうか?やはり現実的にはかなり難しく、理想どおりにはいかないものだと思います。

そうした理想的な栄養素のバランスに近づける意味でも、サプリメントで栄養素を補う必要があると考えます。そしてサプリメントを摂る際には、様々なビタミンやミネラルが入ったマルチビタミンおよびミネラルをベースに摂ることが基本となります。その上で、その人の症状とってさらに重点的に補うサプリメントの必要性も出てくるのです。

以上が、「栄養療法」において、食事だけでなくサプリメントが必要となる理由です。誤解のないように、今一度申しますが、毎日の食事はとても大事です。口から食事として栄養素を摂ることがあくまで基本です。そのために、できるだけ理想的な食事に近づけることを目指します。ですから、けっしてサプリメントだけを十分量とれば食事はおろそかでよい、というのではないことをご理解下さい。世界的「栄養療法」の大家、アール・ミンデル博士の言葉ではないですが、『健全な食生活と健康を気遣うライフスタイルがあってこそ、サプリメントは最大の効果をもたらしてくれる』のです。

次回は「栄養療法」で使うサプリメントについて、言い換えると、よりよいサプリメントを選ぶ基準についてのお話となります。

 

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