2007/01/15   

第9話 人の聴き方を知る

 

人や自分の聴き方を知る

 

「一人の人が幸せになれば、他の人は不幸になる。幸せの量は、一定でゼロサムゲームだ」という人がいます。

 

実際にこのような人ばかりになると、奪い合いの世の中になってしまいます。私たちは、果たして全員が幸せであることはできるのでしょうか。

 

「出口さん、甘いこと言わないで。現実の世の中はそうでしょ」

 

でも私は、そうは思いません。

なぜなら人は、本当はそれぞれ違うものを求めているからです。

 

 その違うものを求めるために、人には特有の聴き方が備わっているのです。

 

◆四魂によって、こんなにも聴き方が違う

人には「勇」「親」「愛」「智」という「四魂」があり、それぞれの魂の強い人たちが、それぞれ異なる世界を見ていることを知りました。それは、そのベースの違いによって、同じことを聞いても、話の聴き方や感じ方に大きな特徴があり、驚くほどに異なるからです。

 

ただ、全ての人は四魂を持っていると同様に、人はもちろん全ての聴き方を併せ持っていますが、そのなかでも強い聴き方があると捉えてほしいのです。

 

肝心な話になればなるほど、その強い聴き方が出てきます。どうでもいい人に会っているときは、当たり障りのない話をすればすみます。ところが、真剣な話になると、どうしても自分の本来の強い聴き方が出てくるのです。

 

 では、私たちは、どのように人の話を聞いているのでしょうか。自分の四魂、周囲の人たちの四魂を思い浮かべながら、見ていきましょう。


 

◆勇の聴き方 −「できるかどうか」と聴いている

「勇」ベースの人は、目的や目標を達成することに価値を置いています。人生で求めるものは「達成」であり、そのために行動することが特徴でした。自分の周りに起こっているできごとについて、「自分は達成できるかどうか」という世界に住んでいるのです。

 

勇ベースの人は、人の話を「それが自分にできるのかどうか」と考えながら聴いています。人が話すことを「あなたには、それができるかどうか」あるいは「やるかどうか」と言われているように聴いてしまうのです。勇が強くなると、なんでも「できる」という反応が出てきます。日ごろから「私にできないことがあるというのか!」という人が、あなたの近くにいませんか?

 

私は以前、ガンジーのドキュメンタリー番組を見たことがありました。ガンジーは、インドの独立のために非暴力・非服従を貫いた人です。何十回と投獄されながら、自分の意志を貫いた人生を送ったのです。

 

勇ベースの私は、それを見たとき、「おまえにできるのか」と問われているように聞こえてしまいました。

 

 

このように、私のみならず勇の強い人は、「できるかどうか」と考えながら聴いています。少し専門的な言い方ですが、これを「達成的傾聴」と私は名づけています。

 

相手から挑まれ、邪魔されているように聴こえるのも、達成的傾聴の特徴です。「今後は、この新規事業を成功させるために、全力をつくしたい」と言ったことに対して、「もっと慎重に考えるべきだ」と言われるとどのように聴こえるのでしょうか?

 

自分の言ったことに対して何か意見を言われると、相手から自分の目的達成を邪魔されたように聞こえてしまうのです。

 

会社の社長など組織の長は達成的傾聴の強い人が多いです。組織の長には、業績や組織の拡大の責務があり、必然的にこの聴き方の強い人がなり、また、鍛えられていくことになります。

 

 

●勇マイナスの聴き方 −「できない」と聴いている

同じ「勇の聴き方」でも、「勇マイナス」とも言える聴き方をする場合があります。「勇」がマイナスに作用するときですから、このような場合には何を聞いても「自分にはできない」「自分には無理だ」と聞きます。

いつも人の話を「できるかどうか」で判断しているのですが、「私にはできない」と考えるのです。ですから、「やってください」と言っていないのに、「私にはそんなこと、とてもできません」と言うのです。

 

 

◆親の聴き方 -「自分に関係あるかないか」と聴いている

「親」ベースの人は、自分のグループの「仲間かどうか」「利益があるかどうか」ということに価値を置いています。平和である、調和を保つということが、このタイプの人には非常に重要なのです。そのために「自分の役割を果たそう」と考えるのです。

そこで、人の話をいつも「仲間の利益になるのか」「自分に関係あるかどうか」、関係があるなら「自分の役割は何だろうか」と聴いています。

 

その場の平和が大事で、人に合わせながら聞いていますから、なるべく波風が立たないように「なるほど、なるほど」と言ったりします。このときは、必ずしも相手の考えと自分の考えが同じだと「なるほど」と同調しているわけではありません。「あなたの言うことはわかった。だけど自分は別だ」ということで、「なるほど、なるほど」と言うわけです。

たしかに「なるほど、なるほど」と聞いてくれると、話す人は話しやすくなります。話すエネルギーが出てきて、会話がさらに進み、親しくコミュニケーションがとれるものです。

 

ただ別の人がまったく逆のことを言っても、「なるほど」と言うのです。これは、あたかも二股をかけているようにも見え、「一体どっちが本当なんだ」「八方美人」「風見鶏」と思われることになります。

 

このような聴き方を、私は「親和的傾聴」と名づけています。

 

「親の聴き方」は、人と話しているとき「自分に、役に立てることがあるのだろうか」と聴いています。自分に役割がないとなると、関係ないと判断することになります。皆に、自分はどんな役割を果たすことができるのだろうかということが、最大の関心事となるのです。

 

●親マイナスの聴き方 -「関係ない」と聴いている

「親の聴き方」のなかにも、「親マイナス」があります。自分とはかけ離れた人生を送っている人には興味が湧きません。「確かに素晴らしいけれど、私には関係ない」「自分の仲間ではない」と聞いてしまうのです。

 

親の聴き方がマイナスに働くときは、何を聞いても「それは自分に関係ない」と聞きます。あるいは、「自分の会社や仲間のためにならない」「自分のグループと関係がないことだ」と聴くのです。

それゆえ、相手の話にはあまり興味を示さず、情熱がなくおとなしい印象をもたれ、ただ合せて聴いている主体性のない人のように見えることになります。

 

◆愛の聴き方 -「好きか嫌いか」と聴いている

「愛」ベースの人は、好きか嫌いかが、大前提です。話している相手を「好きか嫌いか」と判断しながら聞いています。話された内容を感情で聞き、人間同士の思いやりや優しさを大切にするという聴き方をしています。気持ち、すなわち感情がとても重要なのです。

 

好きな人であれば「この人に尽くそう」と思い、「この人に何をしてあげられるだろうか」と考えます。人間同士の暖かい思いやりや感情の交流の話を聴くと感動し、「私はこの人のために何ができるかしら」と考え、情熱的に行動します。そして、他の人も同じように感じているし、感じるべきだと思っています。

 

また「自分は必要とされているかどうか」と考えながら聞くのも特徴です。相手に自分の心情や思いやりが理解されないと、共に仕事はできないと思うのです。

 

これを「献身的傾聴」と私は名づけています。

 

愛ベースの人は、情報として、一般論として話されたことでも、自分に対して言われたことだと聴く傾向にあります。

私が「統計的にみると、最近、三〇代、四〇代のシングルが増えていて、なかなか結婚しない風潮がある」と話をしたとします。ところが、献身族の人は、「ごめんなさい」「私に早く結婚しろというの!」といった思いが出てきます。

 

話す側は一般論の情報を話しているのに、自分のケースで答え、好きか嫌いか、と感じているのです。私がこのようなことを書くと、あなたは私のことを嫌いになってしまうかもしれません。この文章を読んで「こんな人だめだ。買うんじゃなかった」と思ったら、あなたは「愛の聴き方」が強いことになります。

 

 このようなことを書くことは、私には大きなリスクを伴います。でも本当にココロをわかり、すばらしい人間関係をあなたに創ってもらいたいと思って敢えてこのココロの機微を取り扱っています。

 

女性は、一般に「愛」が強い人が多いようです。子どもを育てるという生物学的な理由から、愛が生得的に強いものだと考えられます。

 

●愛マイナスの聴き方 -「あの人、嫌い」と聴いている

「愛の聴き方」のなかには、「愛マイナス」の聴き方があります。これは、誰を見ても「あの人は嫌い」「私には理解できない」「私のことをわかってくれない」となります。TVを見ていても、「あ、あの人嫌い」と言う人がいますが、これは「愛マイナス」の聴き方といえます。

 

 

 

◆智の聴き方 -「面白いかどうか」「理解できるかどうか」と聴いている

「智」ベースの人は、「面白いかどうか」「理解できるかどうか」「わかるかどうか」で聴いています。それは、真善美を峻別することが基準で、人生で求めるものは真理の追究であり、そのために物事を観察し、分析し工夫するという視点を持つのです。

たとえば、企業の繁盛の話を聞くと、「どんどん組織が大きくなるのは、どうして、どのようなやり方で大きくなるのだろうか」と分析しながら聴いているのです。

 

相手の言っていることを情報として聞いて、評価しているわけです。話の内容が「わかるかどうか」「面白いかどうか」「本物かどうか」を、自分なりの基準で評価しながら、話を聴いているのです。

この「智の聴き方」を「評価的傾聴」と私は名づけています。

 

智の聴き方は、自分なりの解決方法や代案を考えながら話を聞いています。あるいはまた、未来の結末はどうなるのかとシュミレーションするなど、分析的に考えながら話を聴いているのです。

 

●智マイナスの人 -「面白くない」と聞く

「智」の聴き方のなかには、「智マイナス」の聴き方があります。この人は、何を聞いても「わからない」「理解できない」とか「面白くない」と言います。こうなると、コミュニケーションは難しくなります。

 

「何を面白いと考えているの?」「如何したら良いと思う?」と聴くことで、興味のある分野や解決策が出てくる場合があります。それは、智ベースの人は、基本的には真理を探究しようと話を聴いているからです。

 

人には、それぞれ異なる聴き方があり、それには4つの基本パターンがあります。あなたの聴き方はどれに当てはまったでしょうか?

 

次回は、自分の聴き方と相手の聴き方がどのように異なり、それをどのように克服できるのかを見ていきましょう。

 

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