2007/02/26  

第12話 コミュニケーションの文脈を創る

 

 

コミュニケーションをするには、その目的や意図を明確にし、それが実現できるコンテクスト(文脈)を創る必要があります。

 

相手の聴き方と自分の聴き方がわかれば、コミュニケーションの何が問題なのかがわかります。さらに自分のコミュニケーションの目的や意図を自分自身でつかむことで、それらの問題を事前に解消するコンテクストを創ることができるのです。これまでの四魂の探求を踏まえ、それをどのように応用すれば良いのかを、いつくかの実例をお話ししましょう。

 

上司と部下との関係

お互いに気持ち良く、生産的に仕事をするために、どのように話し合いや会議を運営したらよいのでしょうか。会議の席で、勇の聴き方の強い私が、智ベースの人によく腹を立てたことがありました。それは、私がある計画を「実行に移したい」と言ったときのことです。すると首をかしげながら、不満そうな顔をして、「もっと考えてから。慎重にすべきです」というのです。このようなとき、私は、自分のやりたいことが邪魔されているように聴こえてしまうのです。「やってみないで初めから結果がどうしてわかる。理屈ばかり言うな」と、思わず机を拳でドンと叩いてしまいました。

 

愛ベースの人たちは、上司の私にやらせてあげたいと思うか、どうして自分に事前に話してくれなかったのかと思います。親ベースの人たちは、様子見をして大勢に合せるという図式になってしまうのです。

 

そうすると智ベースの人たちは黙ってしまい、心のなかで「バカだな。何も考えないで無駄なことばかりしている。間違いなく失敗する」と思うのです。そして、私を軽率でモノを考えないダメな上司と思っているのです。

 

智ベースの人は「それは成功するだろうかと吟味し、もっと他に効率的なやり方がある。こうすれば無駄がないのに」と考えながら聴いているのです。智ベースの人は、さらには自分の考えを基本的には聴いてもらいたいのです。

 

これは笑いごとではありません。組織にとっては深刻なことです。

 

このようなことがわかるまで、私は自分の言ったことに対して、首をかしげられるだけでムカッとして、ときには怒鳴っていたのです。しかし、智ベースの人が、自分なりの考えを検討しながら聞くという聴き方をしていると気づいたとき、私の会議の場は、劇的に変化したのです。勇、親、愛、智の全ての聴き方で吟味しないと、計画はうまくいくはずはないのです。

 

このようなとき、「どうしたらうまくやることができるのか、教えてほしい」と智ベースの人たちに言うと、喜んで自分の考えを述べてくれます。つまり、智ベースの人は、いつも「こうしたらうまくいく」「モット他にやり方があるはずだ」と分析しながら聴いているのです。

 

智ベースの人たちからの意見は、私が達成したいと思っていることに役に立つことになるわけです。この聴き方を知ったことによって、以前は腹が立っていたことでも、腹が立たなくなってきました。

本当に怒る回数が劇的に少なくなっていったのです。

 

 逆に、智ベースの人は、勇ベースの上司に常に「邪魔をしているのではない」というコンテクストを創って話をする必要があります。「私の意見は、目標を達成するために役に立つと思いますので、まず聴いていただけないでしょうか。さまざまな角度から検討すると、その企画の成功の確率は高まります」という意味の話をするのです。

 

また、「勇」は、黙って場を伺っている親ベースの人には、「自分の意見はないのか!はっきりと言え」という代わりに、「この計画を皆で成功させるために、どのような役割を果たせるのか聴かせてほしい。ここで自分の考えを言うことは皆が成功する道だ。役割に徹してほしい」という意味のことを伝えます。

 

「親」の部下は、場に適切かどうか、皆から浮かないかどうかと心配でなかなか意見がいえないのですが、自分の意見をもっと言うことが、むしろ「勇」の上司に歓迎されるのです。「親」が自分の意見を話すときは、恐る恐る話しがちで、そのため「親」の話し方は自信がないように聴こえてしまいます。自分が、どのような役割を果たすのかをはっきりと言うことが大切なのです。

 

「勇」の上司は、「愛」の部下の聴き方には、「あなたと一緒にやりたい」という意味のことを訴えます。事前に個人的に話しておくことも大切です。

 

また、「愛」の部下は、情熱的に受け取ってしまい、上司のみに目が向いてしまいがちです。周りに何が起こっているのか、場を観ることが不得意なので、「勇」と「愛」だけで情熱的に盛り上がってしまい、場は白けたものになるかもしれません。場の空気を読みながら、ここぞというときに応援の言葉を発すればよいのです。

 

私の会議のやり方は、一変しました。なぜなら、相手の世界に訴える場を創ることができたときには、皆が積極的に提案し、お互いの仕事は協力的になり、結果的に、私の意図である目標達成を促進することになったからです。

 

もうあなたは、会議がうまくいくセンスがつかめてきたでしょう。

「愛」と「勇」だけでは盛り上がっただけで現実化しない。そこで「智」と「親」だけでアイデアや計画を練って「親」が取りまとめても、「勇」がいないなら、誰も責任をとって果敢に実行する人はいない。「愛」も論理だけで進められても応援しないでしょう。

 

「勇」がリードし、「智」がアイデアをだし、「愛」が情熱的に応援し、「親」が役割をまとめて実行の構造を創ることができたら、すばらしいですね。これは、なにも4種の人が必要だと言っているのではありません。自分の中にある勇親愛智を、場を観て、どれを出すべきなのかを判断し、適切に出すことができれば、話し合いや会議は大きく前進していくことでしょう。

 

夫婦の関係

 「夫は、私の辛い気持ちをわかってくれません。思いやりがないのです。人が困っているときにも、平気な顔をしているのです。仕事ばっかりやって、家庭を顧みることはなく、何が起きているかにも関心がないのです。子どもが小さいとき、泣いているのに平気で本を読んでいました。家族のことなど何も考えていないのです。これは一生許せません」

 

 「妻は、家に帰ってもグチしかいいません。子どものことにも必要以上に干渉して、子どもの成長と自立を妨げていると思います。子どもは自分のやりたいことが見つかれば自然にやる気を出して自分の人生を切り開いていくでしょう。しかし、このようなことを言うと、あなたは子どもの気持ちが分かっていない。第一家庭に責任を全くとっていないと言われてしまうのが落ちです。私は、家内に家庭を守ってもらって、一生懸命、仕事をしてきたと思っています。家族と仕事とどっちが大切なのということは、全く愚問だと思っています」

 

 「思いやり」「気持ち」「平気な顔」「許せない」という妻の言葉から、いかに感情や気持ちを大切にしているのかがよくわかります。つまり、愛ベースの人なのです。

「成長」「自立」「やりたいこと」「やる気」「切り開く」という夫の言葉には、いかに前に進むことが大切だと思っていることがわかります。つまり、勇ベースなのです。

 

 勇は、仕事一筋にやることが、引いては家族のためにもなるし、家族のために一生懸命やっていると思っています。愛は、お互いの気持ちが分かり合えることを望んでいるのです。したがって、きつい言葉を投げかけ感情の交流を起こそうとするのです。愛は、人が困っているときにはものすごいエネルギーを出し、救おうとします。相手の感情を感じ取りそれを増幅させて聴く傾向があり、自分の感情量も膨大なのです。だから自分の辛い気持ちを相手にも感じ、それで相手のために一生懸命尽くすのです。

 

 ところが勇は、気持ちはそれほど重要ではなく、それを乗り越えて目標を達成することのほうが、大切なのです。したがって、愛の人から見ると、勇は相手の気持ちを無視しているように思われるのです。これは、親や智に対しても同じです。親や智が思いやっているつもりでも、その基準は、愛と比べてはるかに低いので冷たい人だと思ってしまうのです。

 

 しかし、最初は、両者とも情熱的であり行動的なので、意気投合することも多く、男女だと情熱的な恋愛をし、結婚することも多々あります。ただ、一緒にいると、目標重視と感情重視の違いによって、ココロのすれ違いが起こり、衝突が起こるのです。

 

 次のような夫婦はどうでしょうか。

 「どの携帯電話会社のサービスが最も良いのかを徹底的に調べて、目的にあった携帯電話を買いたいと思っていますが、家内は全く興味を示さず、メールの返事を出さないとか、くだらないことばかり言って、一向に話が進みません。どうしてもっと物事を合理的に考えないのか、驚きです」

 

 「夫は、携帯電話会社のサービスや機種選びに熱中し、私の気持ちを全くわかってくれません。

メールを出しても返事は返ってこないし、読んでくれているかさえわかりません。どんなサービスや機種を選んでも意味がないと思います。夫は根本がわかっていないのです」

 

 説明するまでもなく、夫は「智」で妻は「愛」であることはお分かりだと思います。

 

 もしお互いがこの聴き方の違いを、理解しあうことができたらどうでしょうか?お互いの欠点というよりも、お互いの特性であると見ることができれば、異なるコミュニケーションができます。

 

実際には、人は4つのどの聴き方も持っていますが、どの聴き方が強いのかを見抜き、また、あなたが話しているときに、どのような聴き方をしているのかを捉えながら、話すことができれば、あなたのコミュニケーションにコンテクストを創ることができます。それは、コミュニケーションにパワーが出てきて、人間関係に大きな違いが現われることを意味しているのです。

 

 

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