2013.09.30    

第2章 症状は病気の現れか

私は、この不思議な女性と疲れの問答をした前後で、特に食事を変えたわけではない。このときは独身だったので、ほとんど外食ばかりしていた。この後、仕事などが忙しくなり、コンビニの弁当とかファーストフードがやたら増え、食事内容はむしろ貧弱になった。

規則正しい生活をするようになったわけでもない。忙しいので家に帰るのがどうしても遅くなり、むしろ不規則になった。忙しいのに仕事の後には相変わらずよく飲みに行っていて、タクシー帰りも多くなった。

健康のことを勉強して、ビタミン剤などのサプルメントを摂るようになったわけでもない。健康になったためか、健康のことに興味がわき、本などを読んで大分勉強したけれども、それは“不思議な体験”をして健康になってから1年後、米国に引っ越して、ちょっと落ち着いてからだ。米国に渡る前の1年間は勉強している暇など全くなかった。

おもしろいもので、自分が不健康だと思っているときは、健康のことについては全然興味がなかった。というより、むしろ健康の話題を避けていた。へたに知識をつけたら、自分が不健康であることを、さらに再認識することになるかもしれない。自分が不健康で、もしかしたら父のように早死にするかもしれない、という“現実”から目を避けたかったのだろう、と今では思う。

健康のことに、がぜん興味がわいて勉強を始めたのは、健康になってからだ。勉強したために健康になったわけではない。私に起こったことはどうやら、病気は本当なのか、ということに疑問を持ったとたんに、「自分は不健康だ」という意識が消えただけだ。その後、自分の体に起こる現象のほとんどは、どう見ても「自分は健康だ」ということを示唆している。「自分は不健康だ」という意識が、「自分は健康だ」という意識に置き換わった。

では、どうしたら、この意識の変化が起こるのだろうか。病気がちで病院通いばかりしている人が、「自分は健康だ」とはとても思えないだろう。ガンと宣告され、レントゲン画像に腫瘍がはっきり映っているのに、「自分は不健康だ」という意識を消し去ることができるだろうか。もしできたとしても、それだけでガンのような重い病気が治るのだろうか。

この病気というのは普通、体に起こる症状を見て判断するだろう。ガンの場合は、腫瘍が増殖するのが一つの決定的な症状だし、ガンのような重い病気でなくとも、咳、鼻水、喉の痛み、発熱は風邪の典型的な症状だ。これらの症状は病気であることを示唆している、と少なくとも医師は考えるだろう。このような症状が頻繁に出る人は、健康であるとはあまり思われないだろう。いままで症状がほとんど出ずに、健康に自信のあった人が、腫瘍が発見されてガンを宣告されたら、そのときでも自分は健康だ、という自信を保てるかは疑問だ。

この自分が健康であるかどうか、という意識を左右する体の症状、特に、いわゆる病気の症状は、本当に病気がちで不健康であることを示唆しているのだろうか。このことについて考えるために、ルドルフ•シュタイナーが1920年にドイツで、医師や看護婦を集めて開いた20日間のレクチャーを眺めてみよう。彼はここで、結核の症状について述べている。

「(結核の初期段階の人は)咳をしてのどが痛く、胸や手足にも痛みがあるはずだ。また、体がだるくて、疲れているだろう。特徴的なのは、寝汗をよくかくことだ。……………これら一つひとつの症状は、少なくとも初期段階では、先ほど説明した上半身と下半身のやり取りがうまくいっていないから起こる。しかしこれらの症状は同時に、病気の進行をとどめるために体が格闘していることの証でもある。」

シュタイナーの言う上半身と下半身は心臓が境だ。心臓より上の上半身が、下の下半身をうまくコントロールしているのが、健全な状態だ。

「まず最初に、単純でわかりやすい咳を検討しよう。まず知っておかなければならないのは、咳はどんな状況でも止めようとしてはいけない、ということだ。咳を止めるのは、(特に結核の場合)大きな間違いだ。むしろ、人工的な方法を使ってでも、咳を誘発することが必要な場合もあるくらいだ。咳は、上半身が下半身をコントロールできなくなったことに対する、体の健全な反応だ。外的の侵入を防ごうとしているのだ。(上半身が下半身をうまくコントロールできなくなったため)体に害を与える菌などが入って来やすい環境なのだ。そんな時に咳を止めようとするのは、あらゆる状況で体にダメージをもたらす。咳が出るということは、外敵の侵入が容認できず、侵入前に退治したいことを意味している。」

「また、結核にかかりやすい状況であることがうまく発見できれば、そのときに軽い咳や、体にだるい疲れを誘発することは、(結核を予防するためには)非常にうまいやり方かもしれない。体にだるい疲れを誘発することは、ある種の食事療法で可能だ。そして、体重の減少も防御手段になりうる。体重の減少を伴わない下半身の活動は、上半身がうまくコントロールできていない場合が多く、体は体重を減らすことによって、この下半身の活動を停止させようとする。この体重減少は非常に重要なことで、詳しく研究する必要がある。体重が減ったからといって、単純に肥ろうとすることは、考えがないと言わざるをえない。ある意味、体重減少は体が必要だから起こっている。」

シュタイナーが言っているのは、結核の様々な症状は、菌の侵入を防ぐために、また、結核の主要原因の一つを消去するために必要な、体の健全な反応だ、ということだ。シュタイナーによると、心臓を境にして、その上が上半身で、その下が下半身となる。上半身が下半身をうまくコントロールできないのが結核の一つの原因だから、体重を減少させることによって下半身の活動を止める、あるいは鈍らして、上半身でコントロールできるようにする。つまり、病気にかかったから体重が減ってしまったわけではなく、むしろ病気の原因を断つために、体が意識的に体重を減らしている、ということだ。体重減少は病気を治すために必要な、体が起こしている症状の一つ、であるわけだ。

シュタイナーが示唆しているのは、これらの症状は決して悪いことではない、ということだ。逆に、症状が出るということは、体自体は正常に機能していて、体に起こったことに適切に対処している、ということだ。正常に機能するのは、体が健全であるからできることで、むしろ正常に機能しない体だったら、きちんと症状が出せない。症状が出るということは、体が正常に適切に機能している、体が健全であることの証、とは言えないだろうか。

 

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