2014.11.25    

第17章―12 ガンの特徴と対策 その6
       − ガンは遺伝子の狂いが
        本当の原因か???  (1)

今回のタイトルに疑問符(?)をわざわざ3つも付けたのは、ガンの遺伝子説に大きな疑問があるからです。

細胞がガン化するのは、なんらかの原因で遺伝子に異常、あるいは狂いが生じたからだ、という考え方が圧倒的主流です。遺伝子に異常、あるいは狂いが生じるのは、細胞内に侵入したフリーラジカル(活性酸素)や重金属、人口の食品添加物などによって、遺伝子を格納している細胞核が傷ついたからだとか、細胞分裂に関係する遺伝子が生まれつき狂いやすい性質を持っているという遺伝的特徴があるからだ、といった説がいろいろありますが、ともかくガンを生じさせるのは遺伝子の狂いだ、と多くの人は考えています。

ガンの一番の問題は、周囲の組織との協調を無視して、一方的に細胞分裂を繰り返し、どんどん肥大して周りの組織を圧迫したり、機能を邪魔したりすることです。これがひどくなると、臓器などが機能停止に追い込まれ、ついには体全体の死に結びつく、と考えられています。細胞は通常、周りの細胞と連携して細胞分裂を調整するうえに、一つの細胞が分裂する回数の限度が例えば何十回と決まっていて、それ以上は分裂しないという歯止めもかかっていています。そしてこうした細胞分裂は主に遺伝子がコントロールすると考えられています。細胞分裂をむやみやたらに繰り返すのがガン細胞であり、細胞分裂をコントロールする遺伝子が正常でなくなったために細胞がガン化するというのが、ガンの遺伝子説です。

遺伝子の研究が進み、遺伝子操作によって遺伝子の狂いを修正したり、薬品によって遺伝子の誤作動を抑え込んだりすることによって、ガン治療に画期的な成果をあげることが期待されています。ガン細胞では実際、細胞分裂に関係するいくつかの遺伝子から製造されるタンパク質が多すぎたり、少なすぎたり、あるいは製造されなかったりしていることが分かっています。細胞分裂などの細胞の主な機能は、遺伝子をもとに製造される指令タンパク質、酵素(これもタンパク質)などの働きによって実行され、コントロールされていますから、これらを修正できれば、ガン細胞は通常の細胞に戻るか、少なくとも細胞分裂の暴走に歯止めがかけられ、ガン腫瘍の増殖を抑えられるのでは、と考えられているわけです。

ガンの遺伝子説は心もとない

今から35年ほど前に、通常細胞から細胞核を抜き取り、そこにガン細胞の細胞核を移植する、という実験が行われました。ガン化の原因はこの細胞核の中に収納されている遺伝子の狂いが原因だとしたら、その狂っている遺伝子を植え込まれたわけですから、この移植された細胞はガン化するはずです。細胞分裂の制限が効かなくなり、無制限に細胞分裂を繰り返すガン細胞になるはずです。ところが、細胞分裂は全く正常で、制限で止まり、それ以上は細胞分裂をしませんでした。何度やっても結果は同じで、細胞核をガン細胞のと取り替えても、細胞のガン化、つまり細胞の無限増殖は起こりませんでした。

そこで、細胞核を取り囲む細胞質(細胞内で、細胞核以外の、細胞の生命活動をするすべての部分)を通常細胞から抜き取り、ガン細胞の細胞質と置き換える実験が次に行われました。これはつまり、ガン細胞から細胞核を抜き取って、通常細胞の細胞核に置き換えたのとほぼ同じことです。細胞核の遺伝子の狂いがガン、つまり無限増殖の原因だとしたら、狂いのない遺伝子に置き換えられたわけですから、細胞分裂に秩序が戻り、細胞分裂は限度で止まるはずです。ところが、細胞分裂は全く止まりませんでした。細胞核を狂いのない通常細胞のと置き換えても、ガン細胞はガン細胞のままだった、ということです。

この実験が行われた当時はまだ、ガン化を引き起こす元になるとみられているガン遺伝子(Oncogene)の最初の一つが発見され、特定されてから間もないころで、ガン遺伝子と同じようにガン化にからんでいるとみられているガン抑制遺伝子(Tumor Suppressor Gene)はまだ発見されていませんでしたから、この実験は公表されても、あまり注目されなかったようです。ガンの遺伝子説はもはや当たり前のように言われている今、この実験をしたら大きな議論を呼び起こしそうですが、ガンの遺伝子説に疑問を抱く人がいない、あるいは極めて少ないためか、この実験のようにガンの遺伝子説を否定するような試みはなかなかお目にかかれません。

遺伝子の狂いは、遺伝子の変異と呼ばれていますが、狂っていない本来あるべき姿の遺伝子は正常遺伝子というわけです。この35年前の実験を持ち出したのは、ガン遺伝子と呼ばれている変異した遺伝子が、ガン細胞に存在することを否定するのが目的ではありません。細胞分裂に関係する正常遺伝子が変異したとみられているガン遺伝子は、確かにガン細胞の細胞核に存在しているでしょう。また、変異した細胞を見つけてそれにストップをかけるガン抑制遺伝子が、やはり変異してストップ役を果たしていないために細胞分裂の暴走が防げない、と考えられていますが、これを否定する気も全くありません。

35年前の実験が示唆していることは、遺伝子を取り替えてもガンは治らないし、ガンの遺伝子を移植してもガン化は起こらない、ということです。そこで私が提示したいのは、細胞のガン化は遺伝子の変異が原因ではなくて、遺伝子の変異はむしろ、ガン化したために起こったのではないのか。そしてこの遺伝子の変異は、狂ったのか、それとも意図的に引き起こされたのか、といった疑問です。
(続く)

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