2014.12.23    

第17章―14 ガンの特徴と対策 その8
   − ガンは遺伝子の狂いが
      本当の原因か???   (3)

ガン細胞が、ミトコンドリアで酸素を使った好気性のエネルギー生産をしないで、そのかわりに酸素を使わない発酵方式による嫌気性のエネルギー生産をしていることを突き止めたドイツのオットー・ワールブルク(Otto Heinrich Warburg)医学・生理学博士は、「ガン細胞の遺伝子が変異しているのは、むしろミトコンドリアが機能しなくなったのが原因だ」と述べていたようです。

今年(2014年)7月の東京公演で崎谷博征(ひろゆき)医学博士はさらに突っ込んで、Myc(遺伝子発現をコントロールする遺伝子の一種)、Ras(Rasタンパク質の元の遺伝子)、Akt(プロテインキナーゼBの別称)、Hif-1(低酸素誘導因子-1)といった、ガンの発生や増殖にからんでいると知られているいわゆるガン遺伝子は、そもそもは発酵によるエネルギー生産のスイッチを入れる遺伝子であり、危機に陥っているというミトコンドリアからの信号によって活性化する。つまり、ミトコンドリアが危機に陥り、停止に追い込まれているためにこれらの遺伝子が活性化され、その結果として細胞の無限増殖がもたらされた、ミトコンドリアの機能停止こそがガン化の原因であり、遺伝子の変異、あるいはガン遺伝子の活性化はその結果である、と説明されました。

もしこれが本当なら、ミトコンドリアの機能停止こそがガン化の引き金であり、この機能停止を補うために活性化されたガン遺伝子によって、細胞の無軌道な増殖が繰り返される、つまり、ガンは遺伝子が大元の原因ではなく、ミトコンドリアの不調こそが原因であり、ガン遺伝子の活性化、あるいは変異、そしてガン化はともにその結果である、ということになりそうです。

崎谷博士の遺伝子レベルの説明が本当であるかは、私には確認のしようがありませんが、ミトコンドリアでのエネルギー生産がなくなるのは、細胞にとって致命的に近い大きなハンディキャップですから、わざわざ自分から大きなハンデキャップを背負いこむとはちょっと考えにくい。ガン細胞がサバイバルするためには、エネルギーを効率良く生産するミトコンドリアは一番確保したいはずです。それなのに、ガン化したからミトコンドリアでのエネルギー生産をやめた、あるいはなくなった、というのはどうも説明がつかない。言い換えると、細胞核の遺伝子の変異、あるいはガン遺伝子の活性化によって細胞分裂のコントロールが効かなくなってガン化した、それがミトコンドリアの機能停止の原因だ、というのは私にはどうしても納得がいきません。

ミトコンドリアの機能停止は、ガン細胞に共通する大きな特徴のひとつですから、これの原因が遺伝子の変異、またはそれによる細胞のガン化でないとしたら、ガンの遺伝子説はどうもあやしい。そして、ガンが背負っているハンディキャップは、ミトコンドリアの機能停止ばかりではないようです。

ハンディキャップだらけのガン細胞

(1) 免疫の標的になりやすい

ガン細胞が背負っているもうひとつの致命的に近いハンディキャップは、細胞膜、つまり細胞の表面がプラス(正)の電荷を帯びていることです。通常の細胞は細胞膜がマイナス(負)の電荷を帯びています。これが何を意味するかと言えば、私たちの免疫システムが、対象の相手を敵(体にとっての異物)かどうかを判断する決め手のひとつは、この電荷であり、電荷がプラスであることが敵であることの一つの証である、ということです。つまり、ガン細胞は細胞膜がプラスの電荷を帯びているため、免疫の攻撃対象になりやすい、ということです。

この事態を避けるためか、あるいは別な理由からか、ガンは自分たちの周りを、タンパク質の膜で覆(おお)っています。このタンパク質の膜はマイナスの電荷を帯びているため、免疫が敵であることを認識することが難しくなっています。この膜がガンの隠れ蓑(みの)の役割を果たしているわけです。

抗ガン剤、放射線といった非常に苦しい副作用を伴う荒療法をなるべく避け、他の方法を駆使してガン治療に当たっているメキシコ・ティワナの医師の多くが、タンパク質消化酵素のサプリメントを多用しているのは、消化酵素でこのタンパク質の隠れ蓑を分解し、ガンを免疫にさらしてしまおう、というねらいがあるからです。

(2) 電気ショックに弱い

ダニエル・ヌーザム(Daniel Nuzum)整骨療法・自然療法博士によると、雷(かみなり)に打たれて幸運にも生き残った人のうち、たまたまガンにかかっていた人はすべて、雷のショックでガンが死滅してしまったそうです。雷ほどの強い電気ショックでは、通常細胞は持ちこたえることができたとしても(持ちこたえられないことの方が多いかもしれませんが)、少なくともガンはひとたまりもない、ということです。

このことと、ガンの細胞膜がプラスの電荷を帯びていることと関係があるかは私にはよく分かりませんが、葉酸(ビタミンB9ともビタミンMとも呼ばれる)のように電子を多く放出するものを大量に与えると、ガンは弱るか死滅する、とヌーザム博士は指摘しています。

(3) 熱に弱い

写真などで、ガン腫瘍と、その近くのガンでない組織を見比べるとよく分かるのですが、普通の組織は血管の構成がすっきりしているのに、ガン腫瘍の周りは血管がからまりあっているように見えるほど複雑に張り巡らされています。これは、ガンがエネルギー生産のハンディキャップを背負っているため、特に糖分が多く必要ですから、糖分を供給する血液をより多く自分のところに持ってこようとして、やたらに血管を作って(これを血管新生、Angiogenesisと呼びます)張り巡らせるためです。そのため(だと思いますが)、ガン腫瘍は熱の代謝が悪くて、摂氏43度くらいの高熱には耐えられず、相当弱るか、死滅してしまうガン細胞もあるようです。

ウイリアム・コーリー(William Bradley Coley)医学博士は、ガン患者が丹毒にかかるとガンが治ってしまうことに目をつけ、それは丹毒で発生する高熱のおかげであることを突き止めて、丹毒を引き起こす化膿レンサ球菌などをガン患者に与えてわざと高熱を引き出すコーリーの毒(Coley’s Toxins)療法を1893年に開発しました。今ではコーリーの毒を使う医師はあまりいませんが、そのかわり赤外線などを出す温熱機によって体温を上げる温熱療法をメキシコ・ティワナの医師たちは採用しています。

(4) 肝心な酵素を持っていない

過酸化水素(H2O2)は自然界にわりと多く存在するフリーラジカル(活性酸素)で、細胞は通常、この過酸化水素による酸化から身を守るため、過酸化水素を化学反応させ、水と酸素に変換(分解)して無害化する酵素を持っています。それはペルオキシダーゼ(Peroxidase)とカタラーゼ(Catalase)の2つの酵素で、2つとも過酸化水素に対しては似たような働きをします。ところがどういうわけか、ガン細胞にはこの2つの酵素がほとんどありませんし、あったとしても活性化されていません。これを利用したガンの治療法がビタミンCの大量投与です。

ビタミンCは、フリーラジカルを中和して無害化する抗酸化物として知られています。ところが、Cを一気に大量に投与すると、逆にフリーラジカルの過酸化水素が生み出される、ということが起こります。ビタミンCの大量投与が過酸化水素を生み出す原理は、ガン細胞が通常細胞と比べてはるかに多くの鉄イオンを持っていることと関係ありそうですが、まだはっきりとは分かっていないようです。

ビタミンCはまた、分子構造がブドウ糖と非常に似ていますので、ブドウ糖が何よりも必要なガン細胞は、ビタミンCがやってくるとすぐに食らいつきます。ですから、Cを体内に大量に供給すると、通常細胞よりもガン細胞の方がはるかに多くのCを吸収し、そこで過酸化水素が発生します。過酸化水素をうまく中和することのできないガン細胞は、大きなダメージを受けます。ガン治療に効果があるビタミンCの量は、一度に50グラムから100グラムだそうです。厚生労働省のビタミンCの1日あたり摂取勧告量は50ミリグラムですから、それの1万倍以上という超大量です。この量を口から入れたら、大多数の人はひどい下痢を起こして大変なことになりますから、Cの大量投与は点滴で血管に直接注入します。

ビタミンCの大量投与と似たような仕組みで、ガン細胞の中にフリーラジカルを発生させてダメージを与えるのがアルテスネイト(Artesunate、セイコウという薬草の成分から誘導した半合成物、マラリヤの薬として用いられている)ですが、説明が長くなるので、また機会があるときにご紹介したいと思います。このようにガン細胞はフリーラジカルを中和する酵素を、ペルオキシダーゼ以外にもいろいろと不足させているようです。ですから、ガン細胞の中でフリーラジカルを発生させる方法は、ガンを退治するのにとても有効なやり方かもしれません。……………

ガンのハンディキャップはまだまだあるのですが、これらはすべて、通常の細胞にはなくて、ガン細胞だけにある特色です。通常の細胞がガン化するのは、遺伝子の変異や活性化が原因である、と言うためには、これらの特色(ハンディキャップ)が生じたのも、遺伝子が変異した、あるいは活性化したことが原因であることを説明できなくてはなりません。

遺伝子が変異したから(活性化も含む)細胞分裂が無秩序になり、そのためにミトコンドリアの機能が停止して、細胞膜がプラスの電荷を帯びることになった。あるいは、遺伝子が変異したからミトコンドリアの機能が止まり、そのために細胞分裂が無秩序になって細胞膜の電荷がプラスになった。または、遺伝子が変異したから電気的な変化が起き、そのためにミトコンドリアの機能が止まって細胞分裂の秩序がなくなった。もしくは、無秩序な細胞分裂も、ミトコンドリアの機能停止も、細胞膜のプラスの電荷も、それぞれ遺伝子の変異が直接の原因である。

このどれでもいいのですが、通常細胞の遺伝子の変化が大元であることを説明できないと、ガンの遺伝子説は成立しない、と私は思います。はたして、細胞のガン化は、つまり通常細胞にないガン細胞の様々な特色は、遺伝子の変異、あるいは活性化が大元の原因なのでしょうか。
(続く)

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