2014.07.14   

第17章―4 ガンの特徴と対策:番外編―豊かさの栄養学 1

前回までに、ミネラルバランスのことや、ガンは糖分が大好物などと書きましたが、決して甘いもの、ナトリウムの多く含まれるしょっぱいものを非難しているわけではありません。出口光さんが最近、午後3時になると無性に甘いものがほしくなる、甘いものを罪悪感なしに食べたい、とおっしゃったのをきっかけに、今度メキキで「スイーツ&ベジ食」頭脳場が始まるようですが、糖分も塩分も、むしろ体に不可欠な、非常に重要な栄養素です。問題は、栄養素のバランスです。

そこで今回は、私が学んだ栄養の基礎知識の一部を、ご紹介したいと思います。ガンの話題からすこしそれてしまいますが、ガンの対策にもこれらの知識は役立つのではないかと思います。

(6) 豊かさの栄養学

「(飢餓の時代が長く続いて、その)淘汰を経てできあがったと思われる世界各国の伝統食の体系を支えているのは、”飢餓の栄養学”とでもいうべきものである。そこには少ない食料を上手に使って十分な栄養を得る工夫があるからで、飢餓線上を生き延びてきた知恵の蓄積といってよいものだからである。われわれはいま、ありあまる食品にとり囲まれて、空前の豊かさを経験しているのだが、好き放題な食べ方をしていると体はうまくそれに対応できない。そこで重要になるのが栄養学だが、なにしろ人類にとっては飽食が長くつづくという経験はなかったのだから、それは経験的な栄養学ではありえない。科学的に正しい食事のあり方を考えなくてはならないわけで、”飢餓の栄養学”に対して”豊かさの栄養学”と呼ぶのが適切かもしれない」(丸元淑生著「豊かさの栄養学」まえがきより)

インドに古来から伝わる医学、アーユルヴェーダ(Ayurveda)によると、人間の味覚には基本的に、甘さ、しょっぱさ、酸っぱさ、辛さ、にがさ、渋さの6種類があり、それぞれが健康に極めて重要です。インド人がカレーを常食する理由のひとつは、カレーにはこの6種類の味がすべて入っているからだそうです。この6種類の味覚のうち、一般的に最も人気の高いのは甘さですよね。

ところがこの甘さの元である糖分は今、栄養学者からも、健康志向の人からも目の敵にされています。全人口の3分の2が太りすぎだとされ、肥満は万病の元などと言われて社会問題化しているアメリカでは、例えば甘いものの代表だったチョコレートでさえ、カカオの分量が非常に高い、甘さが全くなくてひたすら苦い商品がずらりと店に並んでいます。肥満は糖分だけのせいとは思えませんが、アメリカ人一人当たりの砂糖の消費は、平均で1年間に70キログラムだそうですから、摂り過ぎは間違いありません。糖分の摂り過ぎは糖尿病の主な要因の一つであるばかりでなく、糖分はガン細胞の主要な、唯一のエネルギー源でもあります。

しかし、この甘さが人気が高いのは、みんなを引きつける味だからです。それはまさに糖分が非常に大事な、おそらく最も重要な栄養素であるからです。

糖分、つまりブドウ糖は、ガン細胞に限らず、我々の体の主要なエネルギー源です。もし糖分が体からなくなると、体の大部分がうまく機能しなくなります。脂肪分を燃料にできない脳にとってはかなり致命的です。糖分が不足すると体は何とか組織(主に肝臓)の一部を削り、そのタンパク質(アミノ酸)を糖分に変換して急場をしのごうとします。肝臓は、肝(きも)、つまり要の臓器と書くように、非常に重要な器官なのですが、いざとなったら要の臓器の組織を犠牲にしてでも、ブドウ糖の確保に走るわけです。それだけブドウ糖は重要度が高いということです。

ブドウ糖は、ほとんどすべての食べ物に含まれています。タンパク質の比率が非常に高い肉や卵も、タンパク質の一部はブドウ糖に変換することができるため、潜在的なブドウ糖供給源です。ほとんど何を食べても、最低限ブドウ糖は確保できるようになっています。だからブドウ糖の問題は、ブドウ糖自体が悪いわけではなくて、必要量をはるかに超えて摂取し過ぎていることです。

これは塩、コレステロールなどの極めて重要な栄養素でも、全く同じことです。塩もコレステロールも、まるで悪者扱いですよね。塩に含まれるナトリウムがなくなったら、細胞の中と外のやり取りがうまくできなくなる、つまり血液から酸素や栄養素を取り込めなくなって致命的です。コレステロールから作られるアルデステロンというホルモンがないと性行為は果たせないと言われていますから、コレステロールがなくなると、子孫ができなくなって人類(にかぎらず、おそらく動物)は滅亡するわけです。

おやつに甘いものを食べたからと言っても、それだけではなかなか糖分過剰にはなりません。糖分が過剰摂取となってしまう大きな要因は、主食といわれる米や小麦を精製(脱穀)しているからです。

玄米、全粒の小麦など脱穀していない穀物は、糖分のもとのでんぷん、タンパク質、脂肪のほかに、様々なビタミンやミネラルを多く含み、食物繊維もたっぷりです。糖分と脂肪を(場合によってはタンパク質を)、細胞内のミトコンドリアでエネルギーに変換するために特に必要なのは、ビタミンではB1、B2、B3、パントテン酸(かつてはB5と呼ばれていた)、B6、ビオチン(B7と呼ばれることもある)、葉酸(B9とも、ビタミンMとも呼ばれる)、B12のいわゆるビタミンB群、ミネラルではマグネシウムです。

もちろん、ほかのビタミンやミネラルも必要ですが、多く必要なのはB群とマグネシウムです。穀類には、B群の中で、ビタミンB12だけはあまり含まれていませんが、食物繊維が十分だと、それをえさとする腸内細菌がB12を合成しますから、問題ありません。

穀物を脱穀して白米や、白い小麦粉にするとどうなるか。これらビタミン、ミネラルは特に胚芽のところに集中的に含まれています。脱穀は、肝心なビタミン、ミネラル、食物繊維の大部分をわざわざ削ぎ落としているわけです。白米や白い小麦粉を食べると、エネルギー源のガソリンはたっぷりと入って来るのに、それを燃やしてエネルギーにするために必要な触媒は入って来ない、ということです(砂糖も同じです)。

体は常にエネルギーが必要ですから、白米や、白い小麦粉でできたパン、パスタ、うどんが来たら当然、体に残っているビタミンやミネラルを使います。野菜やくだものをたっぷりと食べるなど、使われたビタミンやミネラルを補っていればいいのですが、そうでないと、栄養素不足を起こし、体の各部に支障が出て、そのまま続くと、エネルギー生産自体も危うくなってきます。白米や菓子パン、パスタ、うどんをたっぷりと食べ、さらに甘いものもたくさん食べて、エネルギー源はあり余るほど入っているはずなのに、エネルギー不足で元気のない人ってけっこういますよね。

脱穀した白米や白い小麦粉、そして精製した砂糖に共通のさらなる問題は、消化がかなり早いことです。玄米や全粒の小麦粉は、たくさん含まれている食物繊維を砕かなければなりませんから、徐々に消化され、消化に時間がかかります。それに対して、白米や白い小麦粉、特に砂糖は砕く必要がほとんどありませんから、すんなり胃を通過して、腸でさっとブドウ糖などに分解されて吸収され、血液に一気に流れ込みます。

ここで二つの問題が生じます。血糖値が一気に上がることと、血液が一気に酸性方向に傾くことです。血糖値が上がるのは好ましくないので、すい臓がインシュリンを製造します。インシュリンは血液のブドウ糖を細胞の中に送り込むホルモンです。一気に血糖値が上がると、インシュリンも一気に大量に製造されますので、血液のブドウ糖は一気に細胞に送りこまれ、今度は血液中のブドウ糖が少ない状態、つまり低血糖となってしまいます。血糖値が一気に上がった場合は、インシュリンの製造量を調節する余裕がありませんから、つい作りすぎるため、血糖値も下がりすぎてしまうわけです。

ひどい低血糖は危険ですが、軽いものなら放っておけば、体が一部のタンパク質を糖分に変換するなどの方法で補いますから、別に問題はありません。問題なのは、低血糖になると甘いものが無性にほしくなることです。砂糖をちょっとなめるくらいでしのげればいいのですが、ここで甘いもの、糖分の多いものを勢いよく食べてしまうと、再び血糖値は一気に上がり、その後すぐにインシュリンの大量製造で低血糖となり、また甘いものがほしくなります。この悪循環を続けるといずれすい臓は疲弊し、これが糖尿病の足がかりのひとつと言われています。

もうひとつ、血液が酸性方向に傾くのは、血糖値が上がるよりもっとまずいですから、骨や歯のカルシウムを削り取って血液に補充し、酸性化を食い止めようとします。骨にはカルシウムがたっぷりと貯蔵されていますから、多少のことではがたつきませんが、たびたび繰り返されると、いずれ骨や歯が弱まる原因となります。

エネルギー源だけでなく、それをエネルギーに変換する栄養素が揃っているばかりか、エネルギー源が急激に入るのも防いで、体に余計な負担をかけることもない米や麦を、わざわざ脱穀するのはもったいないどころか、馬鹿げてますよね。何でこんなことになっているのか。誰も玄米や全粒の小麦粉を買わないで、白米や、白い小麦粉のパン、パスタ、うどんばかりを食べるからですよね。

精製(脱穀)した当初は食料が今ほど豊かではなかったでしょうから、保存できる食料は非常に重要で、貯蔵しても腐らないように、という目的があったかもしれません。ところが、これだけ食料が豊かになったのに、今だに相変わらず脱穀しています。保存用だろうがそうでなかろうが、何でもかんでも脱穀してしまいます。脱穀するのが当たり前のようです。日本のスーパーに行っても、玄米も小麦全粒粉のパンもあまり見かけませんよね。

一度、玄米か3分づきを1週間、食べてみてください。私は、玄米は炊くのがちょっと大変で、水に長くつけるとにおいがして、このにおいはあまり得意ではないので、3分づきを毎日のように食べています。3分づきというのは、玄米を30%だけ脱穀したもので、ちょっと水を多めにして炊く時間を少し長くするだけで、白米と同じように炊けます。玄米のようなにおいがほとんどない(玄米もうまく炊けば、においはほとんどしません)うえに、白米よりもずっと味にこくがあって、とてもおいしいですよ。おかげで、白米は味気なくて、あまりおいしいとは感じなくなってしまいました。

昔のさむらいは、一日に玄米を5合くらい食べていたようですね。おかずなんておそらく、ちょっとした漬け物や味噌くらいですよ。当時は乗り物も何にもありませんから、玄米のお弁当を持って長距離を歩き、重労働をしていたわけです。玄米でほとんどの栄養とエネルギーをまかなっていたということです。

こちらロサンゼルスは健康食志向と、ジャンクフード志向の両極が混在していて、白米もありますが、玄米、3分づき、5分づき、7分づきのどれも売られています。しかもオーガニック(無農薬有機農法)のもたくさんあります。パンもパスタも、小麦全粒粉(Whole Wheat)のが、普通に売られています。

是非、日本もこうなるように、みなさんで玄米や3分づき、小麦全粒粉のパンやパスタを食べませんか。日本人はおいしいものを工夫するのが得意だから、玄米や小麦全粒粉もおいしく料理することができるはずだと、私は思います。主食がちゃんとしていれば、3時のおやつに甘いものを多少食べすぎても、ほとんど問題になりませんよね。

私が最も尊敬する栄養研究家の丸元淑生(よしお)さんが指摘するように、私たちは豊かになり、あらゆる栄養を自由自在に摂取できるようになったため、うまくすれば今まで実現できなかった超健康を手に入れられそうなものですが、実際はどうもその逆に突き進んでいるようです。どこの国も、豊かになったとたんに、肥満や糖尿病、ガンなどいわゆる生活習慣病が急に増えています。今、中国がそうみたいで、政府(共産党)が地方政府に、住民向けの健康教育のプログラムを始めるように指示が出ているそうです。

もうひとつ、オイルバランスに触れたいのですが、長くなりましたので、次回にさせていただきたいと思います。(続く)

 

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