2014.08.12   

第17章―6 ガンの特徴と対策:番外編―豊かさの栄養学 3

今回のオイルバランスの話は、忍者ホルモンがアトピーや花粉症を止める、という内容です。

私たちの主要なエネルギー源は糖分と脂肪です。アミノ酸が組み合わさってできているタンパク質もエネルギー源になりますが、これはどちらかと言えば非常用です。糖分は素早くエネルギーに変換されるので、瞬発的な運動、脳や神経伝達など素早い動作など一気にエネルギーが必要な場合に主に使われます。これに対し、油脂はエネルギー変換に時間がかかるため、どちらかというと長距離走のような持久的な運動など、じわじわとエネルギーが必要な場合に使われるとともに、備蓄用となります。ですから、余った糖分は脂肪に変換されてから備蓄されますし、もちろん余った脂肪はそのまま備蓄され、お腹などのたるみの原因となります。

このように脂肪はエネルギー源として、特に備蓄用としてばかり知られていますが、細胞膜の主要な構成要素でもありますので、極めて重要な栄養素です。細胞膜は丈夫さとしなやかさが要求され、そのために、いろいろな種類の油脂が、つまりいろいろな形の油脂が、パズルのように複雑に組み合わさって構成されています。ですから、様々な油脂の数のバランスがとても重要です。

脂肪は、分子レベルでは主に炭素と水素で構成され、

(1) 飽和脂肪酸
 炭素と水素が整然と規則正しく、くっつき合っているために、形はほとんどまっすぐ。非常に安定していて酸化しにくい。


 (2) 不飽和脂肪酸
 ところどころ水素が抜けて不規則なところがある。この不規則なところがやや曲がっていて、不安定なため酸化しやすい。

という2つに、大まかには分類されます。不飽和脂肪酸はさらに、水素が抜けて不規則な所の(やや曲がっている所の)位置や数によって、オメガ3オメガ6オメガ9に分類されます。この中で、オメガ9は水素が抜けて曲がっている所は1カ所だけで、くの字型をしています。オメガ3オメガ6は曲がっている所が多く、もっと複雑な形です。オメガ9と飽和脂肪酸は私たちの体で合成できますが、オメガ3オメガ6はできませんので、食事から摂取するしかありません。

オメガ3は主に海の藻(も)や海草、プランクトン、地上の一部の植物によって、オメガ6は主に地上の植物によって合成されます。

さて、アトピーなどアレルギー性の症状と、食事の関係を理解するためには、さらに細かい油脂の分類を知る必要があります。よほどの化学好きでないかぎり、もう退屈な油脂の分類には飽きたでしょうから、細かい説明は抜きにして、主に名前だけを列挙します。

海の植物、陸の植物によって作り出されたオメガ3(アルファ•リノレン酸)オメガ6(リノール酸)は、海の動物(魚介類やオットセイなど)、陸上の動物や人間の体内で、酵素によって、以下の順番に変換されていきます。

オメガ3
(3-1)
アルファ•リノレン酸
(3-2)
オクタデカテトラエン酸
(3-3)
エイコサテトラエン酸
(3-4)
エイコサペンタエン酸(EPA)

オメガ6
(6-1)
リノール酸
(6-2)
ガンマ•リノレン酸
(6-3)
ジホモ•ガンマ•リノレン酸
(6-4)
アラキドン酸

人間や動物の体内では、炎症、血管の伸縮、血液の固まりやすさなどの生理作用を調節する、エイコサノイドという物質が作り出されます。エイコサノイドは合図があるとさっと登場し、役目が終わるとすぐに、どろんと消えてしまうため、忍者ホルモンと呼ばれたりします。この忍者ホルモンの原料が、上にリストアップしたオメガ3オメガ6の変化形です。

アトピーや花粉症、ぜんそくなどのアレルギー症状の大元は炎症です。炎症というのは、体がばい菌などの外敵を退治するときの反応ですから、私たちのとっては必要不可欠です。ところがアレルギーは、外敵ではないもの(例えばすぎ花粉)を外敵と見なして攻撃する反応ですから、本来はいらない、できれば起こらないでほしい現象です。

外敵でないものを外敵と見なす勘違いを止めてほしいのですが、なかなかこの勘違いは直りませんので、せめてそのために起こる炎症を少しでも和らげてほしいところです。そこで重要になるのが忍者ホルモンです。慢性の炎症はガンの温床である、と言う医師や研究者もけっこういますから、不要な炎症を止める、あるいは和らげることを軽く見ることはできません。

忍者ホルモンには様々な種類があり、実際の作用はちょっと複雑ですが、分かりやすくするために非常に大ざっぱに言うと、炎症に関して次の3種類の忍者ホルモンが作り出されます。

忍者1:
炎症を止める―原料は(6-3)ジホモ•ガンマ•リノレン酸

忍者2:
炎症を強力に推進する―原料は(6-4)アラキドン酸

忍者3:
炎症をゆるやかにゆっくりと推進する―原料は(3-4)EPA

忍者ホルモンが待機する場所と容量には限りがありますから、数が多い忍者ほど、待機場所を大きく占領するようになるようです。極めて単純に考えると、忍者の原料の量的なバランスによって、どの忍者が一番活躍するかが決まる、ということです。特に宿命のライバルは忍者2忍者3で、アラキドン酸とEPAの量の優越で、炎症がどんどん進むか、やわらかにゆっくり進むかが大きく左右されるようです。

ですから、炎症を強力に進める忍者2が少ないほど、炎症を止める忍者1と炎症をやさしく進める忍者3が多いほど、炎症は和らぐということになります。原料で言えば、アラキドン酸が少ないほど、ジホモ•ガンマ•リノレン酸とEPAが多いほどいい、ということです。

揚げ物、炒め物の大流行と、植物油は体にいいという迷信によって、私たちはオメガ6(リノール酸)を多く含む植物油を、過剰を超えて異常に摂取しています。ですから、これが体の中で変換された(6-3)ジホモ•ガンマ•リノレン酸(6-4)アラキドン酸も大量にあるはずです。つまり、炎症を止める忍者も、炎症を強力に推進する忍者も、いくらでも作れる環境にあるはずです。

アトピーなどアレルギー症の研究者として知られるアメリカ•ワシントン州のジョナサン•ライト(Jonathan V Wright)医学博士の脂肪酸分析によると、アトピーの人は、血液中に(6-1)リノール酸はとても多いのに、(6-2)ガンマ•リノレン酸(6-3)ジホモ•ガンマ•リノレン酸が非常に少ない、という結果が出るそうです。

つまり、(6-1)(6-2)に変換されていない、だから(6-3)もない、この変換を媒介する酵素(デルタ6不飽和化酵素)がないか、働いていない可能性が高い、ということです。この酵素を活性化するのは、ビタミンB6ミネラルの亜鉛ですから、この2つの栄養素が不足しているのかもしれません。

また、オメガ3(アルファ•リノレン酸)を変換するのにも、同じデルタ6不飽和化酵素が使われます。ですから、この酵素が働かないと、オメガ3の変換も進まず、(3-4)EPAもできないことになります。つまり、この酵素が働かないと、オメガ3オメガ6も変換が進まず、忍者ホルモンはどれもできないはずです。

ところが、ライト博士の脂肪酸分析によると、アトピーの人のもうひとつの特徴は、(6-2)と(6-3)は非常に少ないのに、(6-4)アラキドン酸はとても多いということです。と言うことは、炎症を強力に推進する忍者ばかりがたくさんいて、止める忍者がいないですから、炎症は起きっぱなしになりやすいわけです。

(6-1)から(6-4)までの変換は順番に行われますから、それなのに(6-3)がなくて、(6-4)ばかりが多い理由は、牛や豚などの脂肪にこの(6-4)アラキドン酸が多く含まれるからです。肉をよく食べる人は、アラキドン酸をたくさん摂取しているわけです。なお、オメガ3の4番目、(3-4)EPAは魚の油に多く含まれていますから、魚を多く食べる人、特に脂がのった刺身を多く食べる人は、EPAを多く摂取していることになります。

そこで、ライト博士のアトピー向けの栄養療法は、肉などを控えてアラキドン酸(炎症を強力に推進する忍者の原料)の摂取をなるべく少なくし、EPA(炎症をやさしく進める忍者の原料)が多い魚の油と、ガンマ•リノレン酸を多く含む月見草油をサプリメントで補給します。(6-2)以降の変換をする酵素はほとんどの人に問題がないので、ガンマ•リノレン酸が体内に入れば、すぐにジホモ•ガンマ•リノレン酸(炎症を止める忍者の原料)に変換されるそうです。さらにだめ押しは酵素を働かせるビタミンB6と亜鉛の多い食事をすること(あるいはこれもサプリメント)です。この栄養素療法で、アトピーの症状は劇的に改善するそうです。

日本には、アトピーを食事•栄養療法で治した人が何人もいます(花粉症は完全に治ったかはよく分かりませんが、症状が劇的に改善した人はやはり何人もいます)。早い人は、取り組み始めてから3カ月ほどで治っています。このアトピーがアレルギー反応だったら、症状が和らぐなど改善することはあっても、外敵(異物)でないものを外敵と見なす勘違いが直らないかぎり、症状も完全には収まらないはずですよね。ところが、実際治っているんです。アトピーの治り方を見ていると、どうもアトピーの症状は勘違いではなく、実は外敵にきちんと反応しているのですが、ただ過剰な反応であり、その外敵をうまく追い出せば症状が起きなくなる、つまり治る、という気がして仕方がありません。この話はとても長くなるので、また機会を改めて、紹介させていただきたいと思います。(続く)

 

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