2007/04/30   

第11話「オーバーロードの一生」

普段、私たちは、日常生活のほとんどは、その人の最大に出せる力(筋力)の30%程度で生活しています。日常生活をおくるだけでは身体に変化はなく、長い年月をかけ、人間は重力に逆らう力が弱まり姿勢がくずれ、内臓の機能は低下し、骨はもろくなり、老化してゆきます。

 

身体をかえたいのであれば、筋力を刺激し、強化するため、最低でも最大筋力の60%の負荷が必要になります。

 

人間の体力でも、会社の体力でも、もっているものの30%で日常を過ごすのと、時には60%程度の力を出すのとでは、生命を維持するのに違いがあるのではないかと思った出来事がありました。

 

今回は私の父についてお話したいと思います。

4月のはじめに、父は肺ガンの手術を行いました。

 

心臓を患っており、肺ガンのみの摘出手術であれば、成功確率は高いそうですが、開胸し、出血もするので心臓の体力が心配要因となる分、成功確率は少し落ちる、との説明がありました。といっても97%とか93%とかの話ですが。

 

医師の方はこうおっしゃいました。

「心臓の体力が普通の人より60%くらいしかなくても、日常生活で30%くらいで過ごしていれば困難はないけれど、今回のように手術をするとなると30%以上の体力が必要になるから、ご本人に負担はあると思いますが」

 

私は、トレーニングのある法則を思い出しました。

 

<オーバ−ロードの原則>

 

トレーニングするにあたって、どれくらいの強度で、何回くらいやったらいいのかという目安がありますが、そんな時この原則がとても大切になります。

 

日常生活が、その人の最大筋力の30%で現状維持の身体を創り上げているので、身体を変化させたい場合、60%の負荷を与える。これをオーバーロードの原則と呼んでいます。非日常の負荷を身体に与えて、人間の身体は刺激を受け、回復を繰り返し、体力をつけるたびにギアをチェンジしてゆくのです。

 

スクワットで最大60kg持ち上げられる人の日常筋力は18kgです。100kg持ち上げられる人は30%で30kgです。最大筋力をあげてゆくということは、その人の基礎体力をあげてゆくことになります。

 

<理解すると行動する>

 

また、あるパーソナルトレーニングのお客様とのやりとりにこんなケースがありました。

「お客様、今の体脂肪からゆくと20kgが脂肪ですから、これを17kgに落としたいと思います。そのためには脂肪3kgを落とす必要がありますね。脂肪は1kgあたり約7000kcalですから、21000kcalをマイナスしてゆくという考え方でいくと・・・」

 

と説明を始めると、最終的には納得されたような表情で、

「わかった、やるよ。やれるような気がしてきた」

とおっしゃいました。

 

お客様がどんな人なのか、というタイプにもよりますが、裏づけされたデータと論理的な説得で、それなら減量できる仕組みが見える、と納得された瞬間、モチベーションがガーンと上がり、見事に3kgの減量に成功されたお客様のケースです。

 

<健康の尺度>

 

私たちの暦の年齢とは別に、体力年齢という言葉があります。会社にも、活力があってイキイキした、何年も続く企業が多くあります。人間の身体は生ものですし、会社は常に変化する側面を持っています。そして最近は「こころの時代」と言われるほど、ひとのココロに注目が集まり、その健全性は深刻な問題になりつつあります。「健康」とは、とても広くて、深い意味がありますが、その尺度は何を基準に考えたらよいのでしょうか?

 

身体に与えた負荷は、少しキツイですが身体が筋肉痛になりながら身体で覚えます。いくらトレーニングの法則を頭に入れても、オーバーロードの意味を理解し、行動に反映できるというレベルにはいかないのです。

 

人間は、身体で感じたもの、理解したことしか出来ないし、分からないものなのかも知れません。

 

私の父のように、4時間30分にもわたる手術をしなければならない、という現実にたって初めて自分の身体を振り返る人、減量する方法や、身体のしくみを理解して初めてあっけなく減量できてしまう人など、皆さんの体験や思わぬ事件が、ものの見方や考え方を変えているのかも知れません。

 

だとしたら、できればココロも身体も偏ることなく健康を維持したいと思いませんか?

それにはどうしたらいいのでしょうか。

 

私は、日常の習慣に過負荷の刺激を与えてやることで、身体が気づきを発見すると思います。体力が上がるたびに、さらに上の負荷を加える。または質を換えて負荷を加える。そうして身体を眠らせないよう、怠けないよう注意を払うことが、若さを保ち、みずみずしい肉体でいられるアンチエイジングにつながるように思います。そしてライフスタイルにココロの過負荷も必要なのでしょう。結果的に自分の成長につながるプレッシャーや人を育てる難しさに直面したときなど、思うようにいかない、楽ではない場面で、ココロはさらに鍛え上げられてゆくはずです。「過負荷の刺激を与えて」と言っても、無茶は危険です。専門家の指導を受けながら、その限度を体感しておくのも重要なことです。

 

ココロと身体のオーバーロード、アンチエイジングにはどちらも必要だと思います。なお、お陰様で父は無事退院して、今は元気に生活をしています。

 続く

志あるリー ダーのための「寺子屋」塾トップページへ