2007/05/21
第12話 「本質を掴むというセンス」
私のお客様に、63歳の女性がいらっしゃいます。
その方は、今も現役で働いておられます。細くて華奢な身体からは想像もできないほど、仕事の現場では厳しく、そして愛情が溢れる人です。志ある世の中のリーダーたちをビシビシとコーチする仕事をされ、一人ひとりに違いをつくり、ビジネスのハードな現場で活躍させている、すさまじい女性です。
そんな彼女は普段はとても穏やかでマイペースな人です。私は大好きで、とても尊敬しています。
あるとき、体調の話をしていると、こうおっしゃいました。
「最近、車や人が私の後ろを通るとき、直前まで、気づかないことが増えた気がするの。気配を感じるのが遅くなったというか」
私は彼女の年齢を考えると、自然な感覚だと思いました。
また、そこまで明確に、ものを説明できるセンスが鋭いなとも思いました。
仕事上、人をコーチするということは、
1. 本質を見抜く鋭い洞察
2. 開かれたココロ
3. 深い愛情
が必要だと思います。他にもっと必要なものがあるとは思いますが、素人の私の感覚ではそんなものが最初に頭に浮かんできます。
彼女と話をしていると、何故かいつも指導やサービスをする私の方が居心地が良くて、自然で素直になれるのを感じるのです。彼女はプライベートでトレーニングにいらしているだけで、決して私をコーチしていないのですが、何故かいつも彼女と会う時間は静かなワクワク感が待っているのです。感覚的には、大自然の中で大の字になっている心地よさや、純粋で正直な子供と接して癒されているのと同じような感覚になります。
少し前に、世界フィギア大会が日本で開催されました。シニアに上がり、優勝が期待されていた浅田真央選手は、ショートプログラムでジャンプが決まらず、翌日のフリーで高得点を出しましたが、結局2位になってしまいました。その時、彼女はこういいました。
「ショートプログラムは大事だなと思いました。絶対成功させるという強い気持ちがあれば失敗しなかったと思います。でも、あれが精一杯の結果だったのかもしれません」
解説の人やアナウンサーは「惜しいミスをした」などといいましたが、プレッシャーや色んな思いを交錯させつつ、今までの練習を信じ、冷静を保ち、臨んだ結果がそのとき出せるすべてだった、という彼女の想いが、彼女そのものというか、気持ちの本質を表現しているように思えました。
これは私の感覚ですが、本質に触れると、人は自然になるのではないかと思います。
少し抽象的な言い方ですが、ありのままの姿を見て、現れる結果が本来あるべきすべてというか、一番おさまりがいいように思います。もしかしたら、ものすごく当たり前のことを書いているような気もするのですが、私の中では、かなり新しい気づきなのです。
私のお客様であるその女性は以前、こんなことを教えてくれました。
人をコーチするとき、考えてから話すのですかという質問をしたとき、
「変な言い方だけど、言う前に知っているというか・・・」
と、おっしゃいました。
児玉光雄さん著「イチロー思考」という著書の中で、マリナーズのイチローは、ボールのとらえ方について聞かれたとき、
「ボールというのはバットに当たったときに捕らえるのではなく、投手の手から離れた瞬間に捕らえるものなんです」
と言っていました。やる前から分かっていて、バットを振る前に頭の中でバットを振り終わっている、という感覚は、ボールの芯が見えるからでしょう。
本質が掴めれば、そこからずれているとか、いつもと違うとか、ただ余計な心理が邪魔しているだけ、などというものが見えてきて、ものごとがスッキリしてくるように思います。スッキリすればするほど変化を敏感にキャッチし、「気配を感じるのが遅くなった」という鋭い洞察につながるように思います。
日本を代表するサッカーのゴールキーパー、川口選手は一日に何回も体重計に乗ると言っていました。ほんの数百グラムの体重の増減が、瞬時にジャンプする対応力にキレを欠くのでしょう。
身体の変化に敏感に気づく、というセンスはアンチエイジングには不可欠です。アンチエイジングだけではなく、人生の最後まで健康を保ち、自分の身体にふりまわされるのではなく、自分でコントロールできるよう保つためにも、豊かな人生を送るにも必要なものだと思います。
また、志あるリーダーが生きる世界にも、ものごとの変化を敏感にキャッチする、本質を見抜くというセンスは不可欠なように思います。何十年も変わらず愛されている商品は、小さな変化を繰り返しているから、「変わらない」という評価をされる、という内容はあちこちで色んな人がおっしゃいます。
今回紹介するエクササイズは、やみくもに身体を使うのではなく、感覚に刺激を与えるようなものです。神経系のトレーニングとしてだけではなく、レクリエーションとして、大人数が集まったときにも活用できますので、是非試してみてください。
1、 五感を刺激するトレーニング(「脳が若返る30の方法」米山公啓著)
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚などを刺激することにより、脳を刺激し、活性化することができます。
目を閉じて、おくらや長芋のように食感に特徴のあるものを食べよう
(視覚をさえぎり、動作一つひとつを意識する)
テレビの音を消して、人の口の動きで、何を言っているかをあててみよう
(聴覚をさえぎり、動作から勘を働かせ、脳を刺激する)
コーヒーをいれながら、うめぼしを見てみよう
(匂いの記憶を混乱させることで脳に錯覚をおこさせて刺激させる)
2、 後だしじゃんけん
二人でじゃんけんをします。どちらかが、後だしをしますが、わざと負けるように後出しをします。過去の経験から、負けるようにじゃんけんする記憶かあまりないはずなので、脳が一瞬、考えてしまい、瞬時に判断するのがむずかしい、というところがトレーニングのねらいです。
続く