2007/07/2   

第13話「体力と気力」

皆さんは、日常で「ああ、もうだめだ」と思う瞬間があるとしたら、どんな時でしょうか?もうだめだ、と思うのは自分の限界を感じたときだとしたらどうでしょう。夜、仕事がまだ終わっていないのに睡魔がおそってきて、「ああ、もうだめだ」と思うこともあるでしょう。また大切な人との信頼関係にキズをつけてしまって、「ああ、もうだめだ」と思うこともあるかもしれません。

 

 そんな時、「あぁ、もっとこうしておけばよかった」と思うことはありませんか?普段からの準備によって、どうにもならない限界を超えられる力をもし持てるとしたら、どんな準備が必要なんだろう・・・そんなことを考えさせられた出来事がありました。 

 

<救助活動>

 

 今回のクライアントは、消防士であり、特別救助隊である、まだ30代の男性です。

人命を救助するために、人を持ち上げたり、ロープで引き上げたり、火の中を飛び込んで逃げ遅れを見つけたりするため、さまざまな質の体力が必要です。トレーニングも高重量を扱う「パワー系トレーニング」であったり、何百回も行う「筋持久力」であったり、長時間の身体を動かし続ける救助の場合は、「心肺持久力系」であったりします。

 

先日、渋谷の繁華街近くで、スパ施設の爆発があり、そのお客様も救助に入ったそうです。現場は、人やものがふっとんでいて、救助したいにも、人を見つけるために、足場は落ちそうな中、崩壊した建造物の塊を引き上げる作業からはじめなければいけないようでした。そんな時、いかにはやく物を持ち上げられるか、そして、人を発見したら、命づなを通して、抱きかかえながら引き上げて、たとえ明らかに亡くなっているのがわかったとしても、「大丈夫だ、しっかりしろ!!」と何度も何度も励ましながら速やかに行動することが大事なのだそうです。

 

そのお客様は、「普段からトレーニングしておいて、本当によかった」とおっしゃいます。

今回の事故以外にも、火災現場で、ドアが開かなくて、もしかしたら中に人がいるかもしれない、でもどうにもドアが開かない、という場合があるそうです。他の救助隊があきらめるくらいバールでこじ開けることが難しくても、「この方法で絶対に開く!!」という強い信念と使命感で見事、ドアを開けられたそうです。

 

重大な決断をしなければいけない時、「攻めたいけど、もしかしたらだめかもしれない」って思うことはあるでしょう。仕事での決断の場合でも、自らの命に対しての決断と同じくらい切実な場面もあると思います。そんなとき、あなたの選択の針は何を基準に動くのでしょうか?

 

 

<追い込まれてからが強い>

 

トレーニングの中に、筋持久力トレーニングというものがあります。自分の、最大1回だけ出せる筋力の約60〜80%の重さのウエイトを持ち、高回数や長時間で追い込んでゆく方法です。すると、筋力にスタミナがつき、基礎代謝があがり、総体的に体力がついてゆきます。

 

今まで対応させて頂いたお客様はみな、社会的に成功を収め、志が高く、世の中に貢献されている方ばかりです。そんなお客様に共通して言える特長は、筋持久力トレーニングしている時、追い込まれてから実際つぶれるまでが長いということです。

 

自分の最大筋力の80%を何回も持ち上げれば、時間とともに体力的限界がきますが、それよりも前に、精神的に「ああ、もうだめだ」と思うものです。それでもなお、ウエイトを挙げ続け、体力的限界のほんのぎりぎりのところまで追い込めるほどの精神力があるのです。

 

すると以前にも触れたように、トレーニングの原則によって、その繰り返しにより体力の限界は少しずつ、上がってゆきます。

 

<気力の原動力>

 

仕事に志を持って、イキイキしている人は実年齢よりも若く見える人が多いように思います。また、普段から身体を動かしているひとも実年齢より若く見えます。体力も精神力も、限界のレベルを上げることが、現役のピークを長くし、衰えをゆるやかにしてくれるのではないでしょうか。

 

また、気力のトレーニングとして表現すれば、ものごとを選択するとき、少しムリかも知れないと思うようなことを果敢に挑み、あきらめないで挑戦し続けるのは、その人の気力のレベルを底上げしてくれるのではないかと思います。また、攻めずに守ることを貫くという選択もあるでしょう。どちらにしてもその原動力となるのは、志が明確かどうかではないでしょうか。前掲のお客様は、「人の命を救う」という明確な志から、すべての原動力が起こっているように思います。

 

何回も懸垂するのは、人を引き上げるため。100kg以上のベンチプレスをするのは、体重の重い人も安全に救助させるため。「大丈夫だ、しっかりしろ!!」と声をかけ続けるのは、負傷した人の気力を呼び起こすため。人の命を救う場面ではあきらめるわけにはいかないのです。

 

<限界への心構え>

 

リーダーは身体が丈夫で、心はタフである。これは私の勝手なイメージですが、世の中に貢献する人、責任の重い人、志の高い人は必然的に、高い気力と体力が求められるのでしょう。または結果として、身についてしまったともいえます。心技体という言葉もあるように、気力、体力は互いに影響しあって、丁度らせん階段のように、上昇してゆくものなのかもしれません。

 

 

「もうだめだ!」と思う瞬間がどれだけ少ないと感じるか、またはどれだけ乗り越えたかが、自分自身を奮い立たせるキーポイントになるようにも思います。そして限界に近づけば近づくほど、それは大きな壁となり、暗い夜明け前のように感じるものかも知れません。そこまで追い込まれてはじめて、タフな心と身体が身につくのでしょう。

 

そして、現実の世界で、限界近くまで挑戦するということは、突然やってくるのです。トレーニングで鍛えておいてよかったということは、不意に気づかされるもののようです。丁度、事故や災害でやっとその大切さに気づく、電気、ガス、水道のライフラインのようなものと似ているような気がします。

続く

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