2007/10/23
第5話 新宿ふるさと案内 夜編
前回までに新宿の土地の過去を統合してきました。それでは、私のふるさとである新宿の街の風景をご案内します。一日の時間を追って見ていきましょう。
◆午後6時
夕方、街は「おはよう」のあいさつで始まります。新宿の夜景の色に着飾った女たちが仕事に入り、夜の街が目覚める時間です。この街は、東京の中にあって12時間の時差がある場所だともいえるのです。
クラブのママさんがスーパーで小料理の材料を買出しする姿も見られます。これから遊びにやってくるたくさんの人を迎える支度をするのです。街で遊ぶ人と働く人がどちらもいてこそ、夜の街は成り立っているのです。
◆午後7時
学生や仕事を終えたサラリーマンたちが続々とやってきます。昼間の社会で稼いだお金が現金として夜の街に落とされます。一夜にして莫大なお金が動くのです。
あらゆる欲望を満たすサービスが用意されており、どんなにハメを外しても受け止めてくれる懐の深い街でもあるのです。
気取らなくてどこまでも人間臭い。それがこの街の最大の魅力でもあり、そんな新宿が好きな人は多いのです。
◆午後9時
歌舞伎町交番は、日本一忙しい交番だと言われています。救急車とパトカーのサイレンが唸らない日は、365日で1日もないくらいです。写真は、歌舞伎町交番専用に配備されている特別なパトカーである「歌舞伎号」です。
不法行為を生活の糧としている者があまりにも多く、その業態は数百種類にものぼると思われます。危険なシゴトをやっている人たちほど、過酷な人生を背負っている身でもあります。街の人も警察もそんな人たちを見守っていかざるを得ません。そんな風に互いを生かし生かされながら日々を暮らしているという、独特の共存関係が出来上がっているのです。
◆午前0時
一夜の祭典も幕を閉じる時です。思う存分解放したお客達はいっせいに最終電車に駆け込みます。
中には、酔いすぎて仲間に担がれながらやっとの思いで駅に向かう者もあります。あるいは路上で倒れこんでそのまま朝まで寝込んでしまう光景もまま見られます。このように真夜中の路上に転がっている泥酔者は何体にものぼり、朝目覚める頃には持っていたカバンや財布などはいつの間にか消えている場合が非常に多いのです。
◆午前1時
遊びに来た人の足が引けてから、あとに残された眠らぬ街は第二幕の舞台へと移り変わります。今度は街で働く人たちが仕事を終えて一夜の祭典の打ち上げの乾杯をする番です。
風俗嬢やキャバクラ嬢はホストクラブに向かい、仕事の憂さを晴らすひと時です。昼間働くサラリーマンが新宿に落とした現金が、さらに新宿に落とされるという二重の循環となるのです。
◆午前3時
今度は本当に一夜の祭典が完全に幕を閉じる時です。もはや遊ぶ人も働く人もあまりいません。ほとんどのネオンの灯が消えてしまいます。眠らない街と呼ばれている歌舞伎町もやっと気を抜く時間帯なのです。
◆午前5時
夜の街で働く人が一番お腹の空く時間がやってきます。そんな人たちの食生活を支えてきた街の台所的な昔ながらの食堂があるのです。空は白々と明ける早朝ですが、この時間は街の食堂が一番にぎわうひと時なのです。
一日の出来事や泣いたこと笑ったこと、人生の悩み事や抱負まで、さまざまな話題が味噌汁の湯気とともに食卓にのぼるのです。
◆午前6時
まるで化粧がはげたようにネオンの色があせた灰色の街が現れる時間です。何千軒もの飲食店から出されたゴミ袋の山が街中にできます。
この写真を見ているとたくさんのカラスの鳴き声が私の脳裏には聴こえてきます。実際、この時間帯は街一帯がカラスの大合唱となる時です。カラスが口ばしでゴミ袋を破って、中から出てきたご馳走を散らかしていきます。そのあとに今度はハトたちが散らかったものを狙ってやってきます。一方でゴミ袋を開いて食べ物を探すニンゲンもやってくるのです。
このように街の生態系が繰り広げられるのが早朝の時間帯なのです。
新宿が気を抜く午前3時かな