2009.07.27  

第11話 新宿の4つの法則(1)

歌舞伎町は人間の吹き溜まりであるとか、無法地帯であるという印象を抱く人が多いでしょう。

たかだか600メートル四方の、歩いて30分以内で外周を一周できてしまうほど狭い区域ですが、この街に出入りする人の数は一日に30万人、凶悪犯罪発生率は東京都平均の200倍近くにものぼるとされます。

それでもこの街で何十年も生活をしていく人たちが存在するのです。

私はこの街をジャングルにたとえて、異なる種類の人の間でうまく住み分けがなされているのだと感じていました。

弱肉強食の世界で、力の強弱によるヒエラルキーのようなものが存在していることを街の人は無意識のうちに知っているのです。

そしてそのヒエラルキーを成り立たせている、人々が無意識のうちに従っている法則のようなものがあるに違いないのです。

私は第6話「不良力(ふりょうりょく)」の中で、学校には二つのルールがあり、一つは学校規則でもう一つは不良の掟であったと書きました。

なんと驚くべきことに、大人の無法地帯もそれらとまったく同じ構造になっていたのです。

4つの法則

 学校時代では真面目な生徒と不良とに分かれていたように、歌舞伎町のような大人の無法地帯でも堅気(かたぎ)な人と不良とに分かれていてそれぞれが別々のルールに従っているのです。

1つ目のルールは、法治国家日本の「社会のルール」です。
2つ目のルールは、違法行為をつかさどる「反社会のルール」です。

この2つは、社会軸という方向で互いに正反対の関係にあります。

3つ目のルールは、許しや温情といった「人情のルール」です。
4つ目のルールは、極悪非道をつかさどる「残酷のルール」です。

この2つは、人間軸という方向で互いに正反対の関係にあります。

無法地帯の4つの法則

 

1.社会のルール
 社会のルールを担っている人たちは、歌舞伎町町内会の商売人や貸しビルのオーナー、会社員、一般住民、警察官といった地元の人たちです。

ちゃんと税金を納めている人だともいえます。あるいは街の中では「堅気(かたぎ)」と呼ばれることもしばしばです。

2.反社会のルール
 はんたいに、反社会ルールを担っている人たちは反社会組織の構成員、違法行為で生計を立てている人たちです。

第3話、第4話でアウトローや非合法なものをこの街が吸引していく様子を述べました。そこには法による認可と締め出しの繰り返しによって非合法の種類と規模がだんだんに大きくなってきたという歴史的必然がありました。

一つの法令が敷かれた日に
千人の違法者がうまれる

明日からは
 裏山で鳴け
 ホトトギス

 kimie

一つの法制が敷かれると、その範囲の外側の領域が同時に生まれます。法の外側の領域にそのままとどまり、そこにビジネスチャンスを見出す人たちが出てきます。それが違法や非合法を生み出すメカニズムなのです。

この街に存在する違法行為の数は、おそらく100種類をとうに超えるほどだと思われます。窃盗や売春斡旋などの古典的なものからハイテク犯罪など高度に知能を要するものまで。

面白いことに、違法行為者たちはそれぞれ得意分野を持っておりほとんどの者が特定の犯罪の専門家になっているのです。

単独で違法行為を行う勇気のある者も中にはいますが、ほとんどがチームワークを発揮しているのです。雇い主と雇われ側がいて、日々の成果をちゃんと報告し、連絡を取り合い、ミーティングや反省会を行う体制が整っているのです。

街の人たちの中では、愛嬌のある呼び名が流通しています。麻薬密売人を「クスリ屋さん」、泥酔して寝込んだ人の金品を狙う介抱盗のことを「マグロ」というように。

こんな会話は街では日常茶飯事です。

「やあ、2年も海外旅行に行ってきてね。」

「あらそう、大変だったわね。だいぶ痩せたんじゃない?健康が一番大事よ。」

「そうだな、健康には気いつけんとな。」

もちろん「海外旅行」とは、懲役のことを指しているのです。

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