2012.04.04      

9話 「お祭でお茶を点てる」

四月の第一週末、私たち一二三会は、渋谷の氏神さまの金王八幡宮で、お茶の屋台を出しました。祭りで、お抹茶ですよ!

私の友人の浅野徳一さんが、2年前から「大和魂で日本を元気に盛り上げたい」と祭りを金王八幡宮と組んでプロデュースしています。

当初、彼は、東京のあちこちの神社に、「祭りで日本を元気にしたい!」と声をかけましたが、何軒も断わられていました。でも、彼が以前住んでいた渋谷の街にある金王八幡宮が、彼の志に共感して祭りを開催してくれることになったのです。

「日本を元気にしたい。日本文化を通して和の精神の素晴らしさを伝えたい」、その思いに賛同した人たちが、祭りに屋台を出店しています。一二三会も2年前から出店しています。

私たち7人は、教育机2台に白布をかけて、7つの茶箱セットと魔法瓶に白湯を入れたものをそれぞれ準備しました。茶箱の中には、茶碗、茶筅、茶杓、手ぬぐい、抹茶を入れた棗(なつめ)が入っています。

私たちは3つの方針を立てることで、主客が一体となって一座を創作する場、もてなす人ともてなされる人が時間を共有する場を創っていこうと決めました。
 
その方針とは、
1. 点て出しではなく、お客さまの目の前でお茶を点てること。
2. お客さまにお茶を点てる機会を差し上げること。
3. お客さまを待つだけではなく、こちらから出向くこと。

この三つの方針と、7つの茶箱セットを通して一期一会の場が、次々と生まれていきました。

祭りは、正午にスタートしました。まず白髪のお婆さま二人から「お茶を飲ませてください」と、声がかかりました。

お客さまの目の前でお茶を点てながら「近くにお住まいですか」と声をかけました。

「神楽殿で友人がお琴を弾くので横浜から来ました」

「そうですか、それは、ようこそお越しくださいました」

お茶を点てて差し上げると、「おいしいですね。家の冷凍庫にお抹茶があったと思うから家でもお茶を点ててみようかしら」と言いながらお茶をゆっくりと味わっていました。

また、二つ目の方針からは、こんな微笑ましい光景が現れました。

お父さんと小学一年生の男の子の親子連れがお茶を飲みに来ました。小学一年生のユウ君は、お茶を飲むことが初めてでした。

「お茶の味はどう?」

「おいしい」

「それはよかった。次はお父さんのお茶を点てるのだけれど、ユウ君がお父さんにお茶を点ててみない?」

「点ててみる!」と嬉しそうに応えました。

すると、お父さんは「ユウがお父さんにお茶を点ててくれるのかい?!」と目じりが垂れて喜んでいました。

「おいしそうに点てられたね。ユウ君、お茶碗を2回回して、『どうぞ』ってお父さんの前に出してみて」

ユウ君は、掌に余る茶碗をぎこちなくゆっくりと廻して「どうぞ」とお父さんに差し出しました。

このように、私たちがお茶を点てるだけでなく、お客さまに点てる喜びを提供することもできたのです。

さらに、三つ目の方針のとおり、私たちは、屋台でお客さまがいらっしゃるのを待つだけではなく、こちらから桜の木の下で宴を楽しんでいる人たちに近づいて行きました。

「お茶一服いかがですか?」とお茶を点てに行くことで、こんなドラマがありました。

「ここでお茶を点ててくれるの?」

「はい、おいしいお茶をここで点てますよ!」

「じゃあ、二服お願いします」

「はい、ありがとうございます」

「おいしいわ、娘時代にお茶のお稽古に通っていたけれど、お抹茶をいただくのは50年ぶりだわ」

「まあ、それはうれしいですね」

また、「お茶碗は何回廻すのかい?」という質問が初老の男性からありました。

「お茶碗の正面を外すということなので、何回でもいいのですが、裏千家では時計回りに2回回します」

「なるほど、そういう意味なんだね」

お茶を飲みながら、「おいしいよ。私ももう一度、お茶を習おうかな」とおっしゃいました。

 実際に、お茶を習う申し込みをする人まで現れました。

たった一服のお茶を通じて、どこでも相手と一緒に居ることできます。たとえ野外であっても、その場は主客が一体となる一期一会の茶室になります。

まだ桜は蕾で、咲いていませんでしたが、みんなの笑顔が満開の桜祭りとなっていました。

皆さん、私は平凡な日常の中で、一服のお茶を点てることで、ささやかな非日常の空間を創りたいのです。その非日常の空間が、あなたをリフレッシュさせ、明日の活力を生みだしてくれます。

そして、あなたにも日常でお茶を点ててほしいのです。大切な人にお茶を点ててあげることで、あなたとお茶を飲む人との空間が一体となり、光を放ちます。

一服のお茶を点てることで、私たちの人生をより豊かに、そして幸せな想いを一緒に創っていきませんか。

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