2013.08.12    

2013.08.17修正  

第5話 個性認識学「四魂の窓」と出会って

41歳の時、ある研修会で、個性認識学の「四魂の窓」のテクノロジーに出会いました。この「四魂の窓」は出口光博士が、古来から日本にあった心の構造「一霊四魂」という考え方を基礎に、米国の大学院に留学していたときに学んだ心理学と哲学を使って、科学的なテクノロジーにしたものです。帰国後プロジェクトチームを立ち上げ、長い年月をかけて実験を繰り返し、開発されました。

この「四魂の窓」は、仕事、人間関係、生き方、天命の探究など、人生そのものに優れた力を発揮するということに、私は深く感銘を受けました。「四魂の窓」の特徴など、その内容の説明は次の号に譲ることにして、まずは、「四魂の窓」と出会って、私自身と周囲の人々にどのような違いがあらわれたのかを記したいと思います。

それまで、現場で自分なりに手応えとして掴んできたことはありました。「このタイプの人が悩んでいる時、原因は、たいていはこういうことにあるようだ」「このタイプの人が自信を失くしているとき、こういう働きかけによって励ますことができる場合が多いようだ」というように、年々、勘と経験則が功を奏するようになってきていました。

個性認識学「四魂の窓」に出会ったとき、まるで、それまで使用してきた言語に文法があてはめられたかのように、驚くほどしっくりくると感じました。更に、確固たる裏付けと指針が得られたと思いました。その上、今まで手にしたことのない、奥の深い、優れたテクノロジーだと実感しました。

早速、はやる気持ちを抑えながら、現場で「四魂の窓」を通して生徒・同僚・保護者を見てみると、次々と目に飛び込んでくる現象が、どれひとつを取っても納得がいくものでした。一人ひとりが抱く想いはどこからくるのか、悩みや嘆きがどこからくるのか、人間関係に求めるものがなぜ違うのかが、手に取るように見えてきたのです。探究すればするほど新たな気づきがあり、どこまでも奥深く、“人”のすばらしさをこれでもかと感じさせられました。

日々の小さな出来事の中にさえ、“人”のすばらしさを感じることが次々とあらわれました。

部活動の練習でけがをして通院している生徒が、朝、病院に行ってから登校するということが何度かありました。通院するようになってからは、だいたい2時間目の途中に学校に到着しました。私の中では、学校に着いたらすぐに教室に入るのが普通だと思っていました。その生徒も当然そうするものと思っていましたが、その生徒は、次の休み時間まで保健室にいさせてほしいと言うのです。そして2時間目終了のチャイムが鳴ってみんなが動き出した頃にすっと教室に入っていくわけです。

「四魂の窓」を知らなければ、その生徒の考えをすぐに理解することは難しかったと思います。その生徒は、自分が授業の途中で教室に入って、授業が中断したり、みんなの集中が途切れたりして場が乱れ、迷惑をかけることだけは避けたいと思っていたのです。実際に保健室で待機することをいつも許可できるかどうかは別として、「四魂の窓」を知ってからは、その人を「いつも周りの人の事を考え、気配りすることができるすばらしい人」と、ますます尊敬することができるようになったのです。

同じように、生徒一人ひとりの授業中の態度にも、その人が抱く究極の思いが見えてきました。そして、生徒一人ひとりとの関係も更に良好になっていき、生徒同士もお互いの良さが自然に見えるようになり、ますます認め合うようになっていきました。お互いの信頼関係も深くなり、必要な時には意見をぶつけ合い、本気の関係を構築できるようになっていきました。

生徒のみならず、保護者との関わりにも大きな違いがあらわれました。

保護者の方達と接する機会のひとつに個人懇談があります。この個人懇談においても、多くの保護者に「四魂の窓」は優れた力を発揮しました。

ある時の個人懇談で、担任している女の子のお母さんからこのような相談を受けました。

「うちの子は、小さい頃から、とにかくぐずぐずしているんです。自分の気持ちや考えをはっきり言わないし、友達からの誘いを断ることもできないんです。授業参観でも、自分からすすんで発表しているところを見たことがありません。何をやるにも1番になろうという意欲がないんです。私は、娘を見ているとイライラします。その上、娘は親に対して無言の反抗をして、去年は、突然家出しておばあちゃんの家に行っていたんです。私が何度むかえに行っても、1か月以上帰って来なかったんです。もう、私は娘のことが理解できません!」

個性認識学「四魂の窓」を通すと、このお母さんが子どもに何を求めているのかが見えてきました。お母さんは、自分の子どもに、夢や目標をもち、粘り強く果敢に努力を続け、結果を出してほしいと願っていたのです。更に、友達に合わせてばかりいるのではなく、自分の考えを堂々と主張して、リーダーとしてみんなを力強く引っぱって活躍してほしいと思っていたのです。しかし、自分の娘がその理想とはほど遠いところにいると感じ、それを訴え続けてきたわけです。

一方、娘さんの方は、幼いころからお母さんに叱られ続けてきて、自分はダメな人間だと思っていたのです。しかし、小学校の高学年になった頃から、自分の気遣いや気配りに対して理解を示さないお母さんに対して、もう我慢の限界だと思うようになり、思いつめた末、家出という大胆な行動に出たのでした。

「四魂の窓」から見てみると、互いに人生で求めるものが違っていて、更に、対極の特徴をもつ親子であることがわかりました。

そこで、懇談の時は、お母さんの気持ちを共に味わった上で、娘さんの学校での様子を伝えました。

「○○さんは、いつもみんながうまくいくように、自分が何をすればいいかを考えながら生活しています。みんながうまくいくのなら、自分のことは我慢して人のために役に立とうとしてくれます。リーダーが活躍できるように支えています。気配り名人です。欠席している人の机に配布物が置いてあったら、何も言わずにそっとまとめて机の中に入れておいてくれます。一人ぼっちの人がいたらそっと声をかけてくれます。○○さんがクラスにいてくれるお蔭でみんなが助けられています。私もとてもありがたいと思っています。すばらしいお子さんです。ぜひ、常に人知れず気配りしていることを口に出して褒めてあげてください」

お母さんは「はー、そうですかー」と言って帰られました。翌朝、その子は「昨日は、家で母に褒められました」と、静かに、そしてうれしそうに報告してきました。

このような体験を重ね、「四魂の窓」は、相手を瞬時に理解することができるテクノロジーであり、優れたツールでもあると実感した私は、一人でも多くの人々に、教育現場での体験を体系化して発信しようと、仕事から帰っては夜な夜な取り組み始めました。

まずは、実践しながら集めたデータをまとめ始めました。日々の出来事から得られた、生徒や同僚、保護者、それぞれの特徴に関する掴みを振り返っては記録しました。また、学級活動や学校行事において、一人ひとりが生き生きと取り組み、深い気づきを得られる活動を考えました。課題は次々と出てきて、夢中で準備しているうちに、気づくと夜が明けていることもありました。

学校では、休み時間や放課後にも、時間を見つけては生徒や同僚と語り合い、探究し合いました。自分が担任していないクラスからも、「もっと学びたい」と訪ねてくる人が増え、お互いに、日々の生活の中で、新しい発見の連続でした。

「この若さの人々にもこれほどの違いが出るこの個性認識学『四魂の窓』を、一人でも多くの人に伝えたい」「人の成長に関わる人々に伝えたい」という気持ちが次第に大きくなっていきました。それと並行して、早朝に家を出て深夜に帰宅してからの探究活動に、体力的な有限さを実感するようになり、体にも限界を示すサインが出ていました。そして悩みに悩んだ末、退職することを決心しました。

退職する時は、当時担当していた生徒達を裏切るようでとても申し訳なく、とにかく後ろ髪をひかれ葛藤しました。しかし、その生徒達の子ども達、そしてまたその子ども達、そのまた子ども達のことを考えました。将来、「一人ひとりの個性がそのまま認められ、かけがえのないすばらしい存在として尊重され、年齢・性別・立場に関係なく、互いに尊敬し合いながらつながり、共に志に生きる世の中のために」このテクノロジーを一人でも多くの人に伝えたい。どんなに微力でも、とにかく何もせずにはいられない、という心境でした。

離任式に、数十人の生徒が、「離任式ではきっと泣いて話せなくなるから」と手紙を書いてきてくれました。多くの手紙に「自分の天命を探し続けます」「自分の方向性が見えてきました」「本当の自分で生きていきます」「この夢を実現させます」などと、それぞれの思いが書かれていて、それぞれに自分が深いところで求めていることに真摯に向き合っていることを知り、感動しました。

退職すると、驚いたことに、休日に毎週のように生徒達がグループ単位で私の家に遊びに来ては、「四魂の窓」の勉強会が繰り広げられるようになりました。学校から私の家までは、電車でも片道1時間ほどかかる距離でしたが、探究を望む生徒達は、早朝の電車に乗って熱心に通ってくる気合いの入れようでした。時には親御さんが高速道路で送りむかえをしてくれることもあり、親御さんの子どもを思う気持ちにも、頭が下がりました。

気心知れた仲間たちと共に次々と訪れる生徒達は、とにかく熱心に自分と周りの人々の本質について深く知りたがり、互いの世界観を見ながら語り合いました。ちょっと休憩を挟もうと提案すると、「先生、お手洗いに行きたくなったら勝手に行きます。時間がもったいないのでとにかく続けてください」と言う人もいるほどの入れ込みようでした。

その生徒達に違いが出たことは容易に確認できました。深いところに気づきを得た人の変化を目の当たりにして、私自身もますます確信を深めたのでした。

次回は、「四魂の窓」の特徴について、具体的に見ていきます。

 

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