2007/02/19   

第10話 :ヒューマン・ドリーム・サポート・

セミナーから天命を考える

強い組織と強い人財をどう創るのか

 

今回も引き続き、

「私たちの大いなるミッション(使命)は地球・国家・地域レベルの様々な課題に対し『人づくり』を通して、問題解決を図ることである。そして自立した人間として、仕事を通して人に喜びや感動を与えられる能力を高め、感性豊かな本物の人間になるため、自らを鍛え上げることである」と謳う成基コミュニティグループ(以下、SCG)のグランドミッションを背景に、社員の「夢」を明確にさせる全社員対象のHDSセミナー(ヒューマン・ドリーム・サポート・セミナー)についてお話したい。

 強い組織とは、HOME(地元)だけではなく、AWAY(新たに進出する地域)でも勝てる組織である。強い組織とは、強い人財から成るものであることは前回も触れた。

 では、強い人財とは一体、どんな人間のことを言うのだろうか。

 この部分に触れるにあたって、今回紹介しておきたい書籍がある。

『天命の暗号』(中経出版刊)。著者はメキキ代表取締役社長であり、哲学博士でもある出口光氏である。私は、同氏の著書で取り上げられているテーマ「天命の探求」をSCGの社員全員に普及させたいと考えていた。

 強い組織、そして強い人財を創る上において、すべての回答がこの「天命」に隠されているからだ。これはHDSセミナーのキーワードでもある。天命への志を共有する関係(気脈)をつくることが、強い組織(会社)になるための絶対条件だ。

 そのためにはまず、社員たちが自分の天命とは一体何であるのかを探求することから始めなければならない。その天命に基づき、行動を起こすことで、強い人財が生まれるのである。そして、組織の使命と個人の使命が上手く融合できるかどうかが最後の決め手となる。

強い組織のビジョンは「起業」「工夫」「創造」「分析」「改革」「挑戦」「合理化」「癒し」「育成」「和」など実に様々な要素から成り立ち、同時に様々な天命を持った人間を必要としている。こうして異なる天命の人が協力し合うことで集団としての使命が広がって行くのである。しかし、個々の天命が明確化していなければ、自分が組織のビジョンのどの使命に関わっていくべきなのかが見えてこない。そうなると、組織の使命との融合を果たすことができず、強い組織へと到達することはできないのである。すべては組織を創る人財が決め手となる。

 そして、強い組織への道はひとつ。人との関わり合いの中で、一人ひとりが天命を実行することである。全社員が自分の天命を探求する。HDSセミナーはそのために位置づけられている、いわば、会社の将来を背負った社員セミナーである。

 

天命の探求

 

 以前、SCGの社員対象に自分たちの組織イメージについてのアンケート調査を行なったことがある。その結果、「SCGの平均的な社員像」は、「誠実」「真面目」「やさしい」というイメージに至った。

教育を事業とする組織としては悪くないイメージであるが、逆の見方をすれば「能動性」「積極性」「開放性」が乏しい組織とも言える。

 また出口氏の『天命の暗号』に触れられている内容を用いて、自己を分析し、自分という人間がどういったカテゴリーに属するのかを問いただすアンケート調査も社員対象に行なった。それらをベースに天命の探求の動機を促そうと考えたからだ。

 出口氏は著書で傾聴という手段から、天命をつかむ方法を紹介しているが、それによれば、人は以下の4つのタイプに分類されるようだ。

 

1.「達成族」で何かを成し遂げることに価値を置いているタイプ

2.「親和族」で他人に合わせ、集団のために役割を果たすタイプ

3.「献身族」で相手のために献身的に行動するタイプ

4.「評価族」で周りを自分なりの基準で評価しながら行動するタイプ

 

 結果、SCGでは「献身族である」と答えた社員が、44%と男女とも最も多かった。

このタイプについてもう少し補足すると、“献身族は人を癒したり、育てたりする愛情に溢れた尊い使命が秘されている。天命は「育てる」「癒す」助ける」「生かす」伝える」といった「愛情」に根ざした動詞で表すことが出来る”と『天命の暗号』には書かれている。

 また、6年前にSCGグループが始めた「教育コーチング」の中で、人は誰でも「4人のタイプ」に分類できるというものがある。その4人のタイプとは以下のとおりである。

 

1.人も場も支配し自己主張が強いタイプ

2.アイデアが豊富で注目されることがやる気の源となるタイプ

3.ビジネスよりも人間関係を何よりも大切にするタイプ

4.冷静沈着、慎重派で分析やプラニングを得意とするタイプ

 

 ここでは多くの社員が「?」のタイプだと答えた。

 

 以上、「SCGの平均的な社員像調査」「天命の暗号からのタイプ別調査」「 SCG教育コーチングタイプ別調査」という3つのキャリアデザインのアンケートから、SCGの社員全体像として、

 

「誠実で優しく、真面目、典型的な献身族で相手のために行動することを好むタイプで

ビジネスライクに仕事をこなすよりも人間関係を何よりも大切にする」

 

という姿が浮かび上がってきた。このことからSCGの全体的な社員像として、教育人の適性を備えた人が多いということがわかる。これを知ることは、会社にとっても個人にとってもとても重要な要素だ。なぜなら天命探求の手がかりは、まず自分の今立っている位置を明確にすることから始まるのである。同時に、大半を占めるタイプを組織側が知ることで、補うべき天命を持つ人財が何であるのかが見えてくる。そして、その人財の気脈を上手く取り入れることで、会社は強い組織へと育つことができるのである。

 私が、何度もこの天命という言葉を繰り返し言うのは、こういった主旨が背景にあったからだ。

 では、今後SCGの人財育成に力を入れていかなくてはならないのはどの部分か?

 基礎知識テストやアンケート調査からSCGの社員像は、「教育人であって、企業人ではない」ということが明らかになった。

 そのような点から、マネージメント部門の人財育成は今後最も大きな課題となるだろう。

AWAYで勝つ、は強いチーム(組織)になるための絶対必要条件だ。

 目指すのは、欲しい人財(理想のマネージャー)の投入である。そのあるべきマネージャー像とは、コミュニケーション能力や達成意欲が高く、状況判断に優れ、問題解決能力が高い人間である。

 そして課題が明らかになれば、それをクリアするための行動あるのみだ。

 人財は磨き、鍛えることで強化できる。単に才知ある人間を雇用するのではなく、才知ある人間を育成することこそがSCGのグランドミッションだ。

「人材」と書かずに「人財」と書くのは、それを常に社員に喚起するための手法でもある。そして、天命の探求こそが、社員自身の大きな財産となることを、気づいてもらえたらと願う。

 

教育人としてのオール“A”を目指して

 

 社員が天命の探求を行なうにつれて、私なりの考えをここで述べておきたい。

 最も重要なことは、彼らは「教育人」として、このセミナーに参加しているということだ。

 セミナーを控え、社員293名全員に、自分の天命について書くよう指示を出した。

 そしてセミナーが始まる前、私はすべての回答に目を通し、評価をつけることにした。

 評価は4段階、A−Dだ。付け加えておくが、私はいち個人の「天命の内容」を評価したわけではない。あくまでも私が評価の対象としているのは「教育人というものがいかなるべきかを明確にし、社員たちがその高い理想の位置を目指しているかどうか」である。

 私が理想とする天命を持つ教育人とは

「目を閉じてその人の墓標に書いてある文字を思い浮かべ、自然と頭を垂れたくなるような天命を授かった人」を意味する。

私は、これに値する天命を書いてきた社員に対し、「A」という評価をつけることにした。

その社員たちの回答例を具体的に紹介しておこう。

 

○日本を世界の長たる経済大国に再びする為に、理数離れを食い止め、一人でも多くの本質的なエリートを輩出する事。また、その為の数学教育を作り上げる事。

○世界の人に信頼され尊敬される人材を一人でも多く輩出するために頑張っている人を精一杯サポートすること。

○人の幸せを祈り、人が助かるという立場で感謝の心を波及し世界の真の平和に貢献すること。

 

 これらの回答は全体の3%であったが、すべての人々を対象にした世の中の平和と人々の発展を願う気持ちが込められてる。また、教育人として最も必要とされる「人創り」と「人儲け」の原点が回答に見られたことから、「A」と判断させてもらった。

 また一見「A」の評価に値しそうな内容であっても、すべての人々ではなく、ある限定された人間のみを対象にした回答においては「B」と判断することにした。

具体的には、「多くの子どもたちが、世の中に貢献でき、人の役に立つ人間に成長してくれるよう、愛情をもって育み、導くこと」「少なくとも、自分が関わる全ての人を笑顔にすること。学びたいのに学べない子を無くすこと」などの回答がその対象となり、全体の38%を占める結果となった。次いで「何かにばかり肩入れせず、あくまで全体バランスを考え、長期な発展を意識していきたい」「嘘をつかない。誠実に対処する。自分の職責を全うする」など、具体性に欠ける回答を「C」と判断し、これが全体の58%に上った。

 残りの「D」と評価をした3%に関しては、無記入のものもあったが、多くの回答は「顧客本位」「子どもとの関わりを大切にする」「きみはきみでいい」「有言実行」など四文字熟語やワン・センテンスでしか表現されていなかった。

形式は問わなかったので、書き方は自由であるが、質問の意味が掴めていなかったのか、「教育人としての天命」という言葉そのものが多くの社員たちの間にすんなりと入っていっていないことは事実だった。

天命を探求し、位置づけることは、コンピューターにOS(オペレーションシステム)をインストゥールすることと一緒だ。

OSが起動しなければ、コンピューター本体がどんなに立派でも役に立たないのと同じで、「天命」が探求できなければ、五感は作動してくれないのである。

いわば「天命」は人間の生きていく上でのスイッチといっていい。

スイッチをオンにしなければ、前は明るくならない。

私は、セミナーで社員に言った。

「2007年6月の45周年記念海外社員総会までに、すべての社員が自分の「教育人としての天命」を明確にし、すべての社員の評価をAにすること―、それがボクの目標だ」

 6月まであと5ヶ月。

 残り97%の社員は、まだ見つけられずにいる天命とやらにどう向き合って行くのだろうか?

 彼らが天命を見つけられない限り、会社のグランドミッションも果たせないのである。

 

 

※ 次回もHDSセミナーの続きです。

 

志あるリー ダーのための「寺子屋」塾トップページへ