第16話 : 能登半島地震復興支援
支援とは−?
成基コミュニティグループの人づくりの最も具体化した施設として20年間もの間、教育の聖地としての役割を担ってきた「のと島キッズランド」。
その聖地を大地震が襲い、大きな打撃を受けている。
こんな時こそ、キッズランドを育てていただいた地元の人たちに、日頃の感謝を込めて恩返しをしたい。
我々、成基コミュニティグループ社員一同309名は、2007年6月6日、能登へと旅立った。
まず第一の目標は、「復興」の支援を行い、自分たちにできることを考え実行することだ。そして、その中で能登の人に元気を与えるため、「チャリティゴルフ」や「バスケットイベント」を開催するというものであった。
これらの復興支援を、社員研修会と合わせ現地でお金を使うことで、客足が遠のいていた宿泊施設や飲食店に貢献できると考え、急遽、研修先をソウルから能登に変更したわけだ。
私は社員たちに「復興支援」と「社員旅行」、このふたつの位置づけのバランスを、上手に見極めて欲しかった。
「社員旅行」とは本来、社員たちの日ごろの労働を労って楽しんでもらうと同時に社員同士の交流を深めるというものだ。そして「支援」とは誰かを支え、活動を援助(サポート)するもの。
つまり、このふたつの位置づけは、我々SCGのグランド・ミッション(自立した人間として、仕事を通して人に喜びや感動を与えられる能力を高め、感性豊かな本物の人間になるため、自らを鍛え上げること)に大きく関係する。
私は、社員たちが、社員研修旅行という場所で、SCGグランドミッションにも通じる「人をサポートする喜び」を感じて欲しいと思っていた。「支援をしなくては」ではなく「応援や支援をしたい」と思って欲しかった。
このふたつの考え方は大きく異なる。第三者的立場で支援に参加するのか、自分の使命のひとつと感じ、被災者の人たちと痛みや喜びをシェアするために参加するのか。
さて、ここで大切なのは、痛みをどうシェアするかである。
人は他人が災害・事故・病気にあるとき、自分も娯楽等をセーブし、自粛という形をもって、相手の痛みに寄り添うというのが一般的である。
しかし、今回の場合はどうなのか?
ここは臨機応変に「感じて」ほしい部分だ。
言うまでもなく、能登は観光の街でその名を知られている。
そして、被災地と化した能登の大きな痛手となるのが、観光客の激減である。
この場合、どう彼らの痛みに寄り添りそうのか、それは「観光自粛」という通り一遍ではないことだけは確かだろう。
地震の二次災害として大打撃を受けた観光を我々のできる範囲で元気づける。つまり、能登を満喫し、能登で元気よく遊ぶ、ということこそ、地元が求めている支援ではなかったかと実感している。
社員たちも、同じ気持ちだっただろう。みな変に気遣うことなく、キッズランドでバーベキューを行い地元の肉を食べ、ビールを飲み、輪島の朝市で地元のひととふれあい、ショッピングを楽しむなど、ごく自然に社員旅行を満喫していた。しかし、それ以上に元気をもらったのは、我々SCG社員の方ではなかったかと思う。能登の人たちは、我々を心からウェルカムし、我々が催したイベントに暖かい拍手を満面の笑顔で送ってくれた。
誰かを支援したいと考える時、支援のあり方は受ける側の心意気で大きく変わる。
今回、我々が行った支援が成功に終わったのも、能登の人たちが暖かく迎えてくれたからだと私は考えている。
バスケットボール講習会
今回の復興支援には、地元の人を元気づける位置づけとして、数々のイベントがSCGの企画で開催された。
ひとつは、輪島市バスケットボール協会が6月6日、サンアリーナで行った「能登半島地震復興支援・がんばるぞいねーのと」と題したバスケット講習会だ。
能登はバスケットボールが盛んな街だ。ならば、そのバスケットを通じて地元の子どもたちを勇気付けられないか−。
こうして当日、SCGで夢現塾の講師を務めている、プロバスケットボーラーの森下雄一郎が、市内の小中学生180人を相手に講習会を開いた。
本物のプロバスケットボーラー森下を見た子どもたちは大喜びだ。
スポーツを通じて、元気を与えるというやり方はもっともシンプルで分かりやすい。
「ドリブルはね、指先だけ使って、ヨーヨーするみたいにやるんだよ。ほら!ボールを友達だと思ってごらん!すると、ボールの方から勝手に指に吸い付いてくる!」
言いながら手本を見せる森下を見る子どもたちの目は、驚くほど熱心で、瞳はキラキラとしていた。
その後、森下は子どもたちの前で、NBA(全米バスケットボール協会)入りを目指して、10年前にアメリカに行った時の体験を自ら語った。
身長が2メートル近い選手が多くいる中、身長が170cmにも満たないない森下が競争に勝ち残るのは容易ではない。
可能性がある限り、その「夢」を追いかけること、また「夢」を追い続けることの大切さを、森下はバスケットボールというスポーツを通じて子どもたちに知ってもらいたいと快く今回の能登行きを了解してくれた。
「とことん」やれば「魂に火がつく」。魂に火がつけば「やってやろう」という気持ちになる。「やってやろう」という気持ちこそが、「生きる力」なのだ。
森下お得意の名セリフである。
大地震を経験し、その被災地で森下雄一郎と出会ったこと、本物の話が聞けたことは、能登の子どもたちにとってどれほどの財産になっただろうかと思う。
子どもたちは、乾いたスポンジのように森下から聞いた話をぐんぐん吸収できたにちがいない。
担当したイベントチームも私自身も、参加した子どもたち、地元の人々、ともに元気を与えることができたイベントであったと実感している。
スポーツを通じて元気を与える
その後、プロゴルファーの横峰さくらの父、良郎氏(現参議院議員)と野球解説者の梨田昌孝氏(現日本ハム監督)が加わってのトークショーが行われた。
この時、ふたりは、自分に降りかかるピンチをいかに乗り越えてチャンスを掴むのか、また目標を見つける心構えなどを、地元の人たちに話してくれた。
スポーツは、肉体的なトレーニングと同じくらい精神的トレーニングを必要とする。
自分がピンチに立ったとき、自分の精神状態をどのように保つのか、また、そういった場面でどう士気を高めていくのか、日ごろのトレーニングの成果がもっとも問われるところだろう。
しかし、それは何もスポーツに限ったことではない。
人間は生きていく中で、いくつものピンチに直面する。
今回の大地震も、そのひとつと言えるのだ。その時、我々は何をどう判断し、どう前進するのか?
ピンチの中でのプライオリティとは何なのか?これはスポーツの精神に大いに通じるところだ。
私がスポーツ選手とその関係者を起用して、復興支援に臨もうと考えたのは、「スポーツ」の精神こそ、人が前進しようとする生き方、そして元気の基本であると考えたからだ。
スポーツを通じて生き方の精神を伝えるのは元気を与えるのと同様、実にシンプルで判りやすい。だからこそ、スポーツは観戦しているだけで多くの感動を与える。自分が参加しているような気にさえなる。
こうして、横峰良郎氏、梨田昌孝氏、両氏のトークショーが終わった次の日には、相乗効果を狙うべく、両氏も参加しての「チャリティゴルフコンペ」が、能登島ゴルフ&カントリークラブを舞台に行われた。
風評被害で来客数が激減している同ゴルフ場に、多くの人を呼び戻し、景気づけるという計画どおり、当日は運営もスムーズに行われ、参加者もギャラリーも楽しんでくれた。
スポーツこそが成せる技だ。
SCGの社員も企画、準備、運営と本当によくやってくれた。 個々が集団の中で何を考え、どう行動し、何を目指しているのかが見えてきて初めて、グランドミッションやパーソナルミッションから来る行動をとることが出来る。
今回の復興支援はそういった意味で、私たちSCG社員にとっても被災地の方々から多くを学ぶ旅行となったと思っている。
45周年を記念するイベントのひとつである旅行が、ソウルではなくこういった形で能登に変更となったのも、結果的には社員の今後のモチベーションを位置づけるいい経験になったのではないだろうか。
※ 次回は成基コミュニティ45周年「感謝の夕べ」についてお話します。