第17話 : イベントと承認
金沢工業大学
前回お話した成基コミュニティ45周年を記念する能登への社員旅行で、あえて今回に書き残そうとおもった事柄がある。それは、金沢工業大学へ訪問したことだ。
実は、社員旅行へ行く3ヶ月ほど前、私は新聞の全15段に掲載されていた同大学の広告を目にしていた。広告デザインの奇抜さに目を引かれ、「ずいぶん変わった広告だな」と思っていると、金沢工業大学という文字が目に付いた。
「あれ?」私はこの大学を何かでも見たことがある。思い出した!全入時代に生き残る大学ランキングとして、以前週刊誌に載っていた大学であった。
そこの「面倒見が良い大学」に、名立たる多くの有名国公私立大学を抜いて、どうどう五年間連続ランキング一位に輝いていた。
それだけではない。就職率が95.8%で7位、その他の項目でもいくつかランク・インを果たしていた。上下に順位を競う大学は誰もが知る有名大学なのに、こんなローカルな大学が名を置いているのは反って目立つ。私は食い入るように週刊誌に見入った。面倒見がよい大学とはすなわち、学生の学習意欲をどう触発するかを考慮している大学のことで、95年に教育改革以来、高校の進路教員だけでなく、他の大学からも注目を集めているというのだ。
さらに、調べていくと、同大学は99年に「日本経営品質賞」への取り組みを開始し、顧客満足度向上のプロジェクトを発足。学生を主要な顧客と位置づける教職員の意識改革に関する提案を積極的に進めていた。このプロジェクトの位置づけは私にとって大変興味深かった。
大学ともなれば学生に対し、あまり詮索することなく放任しがちであるが、この学校は実に一人、ひとりの生徒の個性を尊重して、大事にしているというのだ。
加えて、この斬新な新聞広告。さらに時は能登半島地震復興支援社員旅行のおよそ3ヶ月前である。導かれるものがあったのは違いなかった。
こうして、私と社員は能登へと旅立った折、金沢工業大学へ出向き、学長の石川憲一氏の話を伺う機会をえることができた。
国内の大学で初めてのCS室(顧客満足度推進室)の設置、「日本経営品質賞」への応募など、目標を達成するまでの仕組みがきっちりと計画され、学校が一丸となって生徒の自己実現の達成に取り組んでいることが「面倒見の良い大学」として評価されたのだろう。
石川氏の話の中では「A STUDENT(ただの学生)」ではなく「THE SUTUDENT(個々の学生)」を大切にしているという組織の信念が深く感じられた。
個の色を大切に−。これは、私が会社の経営に関して日々目指していることに通じる。
私は、もっとこの話をいろいろな人に聞いてもらいたいと、石川氏の話を聞きながら考えていた。
イベントを考える
さて、昨年45周年を迎えた弊社では45周年委員会なるものが結成されていた。
能登の社員旅行を無事成功に終えた後、45周年を記念するもうひとつの大きなイベントが昨年秋に実施した「45周年 感謝の夕べ」である。
このイベントは、ホテルのバンケット・ルームを借りて、お世話になった方々を招き、お礼の気持ちとともに懇親会を開く、というものであるが、あまりにも通り一遍のプランでは、印象に残るものにならない。
当初、委員たちは招待客を学校関係者だけに絞っていたが、私はこの「感謝の夕べ」をもっと心に残る特別なものにしたいと考えていた。
自分たちが経験した物事や出会った人を大切にし、こういったプラン作りの時にこそ役立ててほしかった。私は、委員たちと話し合いながら、このイベントには基調講演を設けることにしてはどうか、と提案した。
講師は、あの金沢工業大学の学長、石川憲一氏だ。
同大学の売りは、成基コミュニティのいまや教育理念の位置づけとして柱になりつつあるコーチングに通じるところがある。
自己実現の達成度を実感するためには「気づき」「自信」「意欲」「努力」を指導者が引き出すことであると謳っているところからも、その点は明らかだといえるだろう。
つまりこれが、ひとことで言えば「自己成長型教育プログラム」であり、自己の成長とは自らの能力を実感し、次の課題に自ら「気づき」をもたらすことに繋がるのだ。
こういった視点からも石川氏を講師に招くことは、45周年イベントとしてさらなる広がりをもたらしてくれるはずだ。
また、相乗効果として、先から述べているコーチングに関しても専門の講師を招き、講演をお願いしてはどうだろうか。
結果、コーチング講演には、国立教育政策研究所、研究企画開発部統括研究官の千々布敏弥氏を講師として招くこととなった。感謝の夕べにご招待する多くは教育関係者であり、お二人の講演に大きな興味を示してくれること相違ないだろうと考えたのだった。
イベントの意味
2007年10月7日、リーガロイヤルホテル京都にて、成基コミュニティグループ「45周年 感謝の夕べ」が開催された。
第一部では、石川氏の基調講演と、千々布氏のコーチング講演が行われ、二部では、私の挨拶のあと、来賓からの祝辞が述べられた。
来賓として挨拶をしてくれたのは、京都府知事の山田啓二氏をはじめとする五名の方々であったが、それぞれひとりひとりの成基コミュニティに対する想いが込められていて、成基コミュニティが「承認」されているという実感が大いにあった。
第三者によって承認されるというこことは、それをそばで見ていた人々、聞いていた人々にもいい意味で大きな影響を及ぼす。
事実、「感謝の夕べ」にご招待した学校関係者の皆様は、来賓の方の挨拶の言葉から、第三者からみた成基コミュニティの真摯な姿勢が見受けられ、大変印象深いものであったとの貴重なご意見もいただくことができた。
能登への社員旅行や、この「45周年 感謝の夕べ」に限らず、イベントとは主催する側の自己満足だけであってはならないが、主催している側にとってもやりがいのあるものでなれば意味がない。
イベントは楽しい−。それは、相手を間近に見て、相手から直接伝わる喜びや感動を実感することができるからだ。
「ヒューマン・ドリーム・サポート・カンパニー」宣言、そのとおり私たちの夢は顧客の夢の実現支援だ。
私にとってのオペレーション・システムは、目の前にいる人が喜んでくれること、勝てるよう応援することなのである。
そして、このオペレーション・システムの稼動には多くの人からの「承認」が必要だ。
私は、今回の「感謝の夕べ」で、さらなる承認を得ることができたと実感し、自らのオペレーション・システムに、いいエネルギーが補充できたと考えている。
イベントとは何か−。
イベントのあるところに、人々の笑顔があり、その笑顔の中に私自身に対する「承認」がある。それは、私自身を幸せにし、多くのパワーを与えてくれるものだ。
周りから「承認」されるのは、私にとって、喜びであり、自信に繋がる。
そして、ふと私は、常日頃から同じ目的のために一緒に働いている社員たちのことを思った。
互いの承認という言葉が私と社員との間にあるのだろうか。
塾に来る子ども達には常に成功して欲しいと強く願っていながら、社員を幸せにしたい、と思う気持ちが今までの私に本当にあったのだろうか。
あるに決まっている。そう自分に言い聞かすことは簡単だった。
しかし、社員が幸せだと思っていなければ、それこそ自己満足に過ぎない。
今まで特別な手段で、社員たちの会社に対するロイヤリティなど調べたこともなかった。CS(顧客満足度)の調査はとっても、ES(社員満足度)まではとったことがなかった。
果たして、どうなのか。
自分は常に承認されたいと思っていながら、私は社員を承認していないのでは、という不安が急に湧き上がってきた。
その時、今まで向き合ってこなかった問題に本当に向きあう時期が来たのだと思った。
※ 次回は「数字から社員たちに向き合う」についてお話します。