2008/06/16   

第18話 : 社員と向き合う

手放すことを知る

二年ほど前、私は自分自身に強く誓ったことがある。

現場のことは現場に任そう−、ということである。

それまでの私のスケジュール帳は、予定がぎっしり詰まっていて隙間もなかった。

会社でのすべての会議に参加し、意見を出した。

今考えれば、そのころの私は社員に対し、まるで過干渉の親のようであったと思う。

社員に悩んだり、考えたり、成長するタイミングを与えていなかったのだ。

結果、塾に来る子ども達には心から成長して欲しいと願っているのに、社員に対しては、部品のような感覚でしか見ていない自分がそこにいた。

もちろん、こんなことでは社員の会社に対するロイヤリティが上るはずもなかった。

会社を去っていく社員も少なくなかった。

そこで、私は「過干渉の親の立場」から、「子どもを信じて手放すことができる親の立場」に転じることの必要性に初めて気づいた。

まずは、現場に入ることを徹底的にやめて、現場のことは社員に任せることにした。

会議も役員会議以外は出なくなった。当然、私のスケジュール帳には空白が多くなり、今度はどういうわけか空いたスケジュールと同じだけ、私の心は虚しさが支配するようになった。

納得して自分で決めたことと理屈で自分をなだめられるほど、私の中の空虚感は小さなものではなかった。同時に最初の三ヶ月間は様々な苛立ちが、抑えられた支配欲や権力欲となって私の中で沸々と湧き上がってきたのだ。

関与できないことへの悔しさ、囲いの外にいる寂しさ−。

今まで、自分がやっていたんだと思っていた人間にとって、自分なしでも事が過ぎてゆく疎外感は、言葉では言い表せないものだった。

それでも私は現場を離れた。社員たちに口出ししたくても、あえて耐えた。

また同じころから私は糖尿病を患うようになり、体調を崩していた。

今までのようにやっていては体力も気力もついていくわけがない。

そろそろ正念場だと病気が「手放すことの大切さ」とそのタイミングを与えてくれたのかもしれない。

現場のことは現場で−。を心身ともに天から言い渡された気分だった。

そこで「社員が自分でやれることを実感し、達成感を得る」をまず私自身の目の前の目標にした。そうすることで、仕事の中での自分の位置づけを社員たちに見つめ直して欲しかった。

さらに私は上下関係にこだわらないコミュニケーションを社員たちととるよう意図的に努めた。今までの私は常に威圧的に社員たちに接してきた。社員たちも私に言いたいことの半分も言えなかっただろう。

改めて、目的(顧客満足度)を達成するためのツールとしてしか社員を見ていなかった自分を改めて振り返り深く反省した。

ロイヤリティと個の満足感

試行錯誤の中で一年が過ぎたころから、私は社内で社員たちにパーソナルミッションを明確にするよう呼びかけ、様々な取り組みを始めるようになった。

結果を見ると、会社に対するロイヤリティが上り、退職率が劇的に減っていることに気がついた。

局面が変わると、すべてが変わりはじめるものだ。

今まであまり社員を信じていなかった自分が、手放すことを受け入れ、社員を承認することで、社員たちの気持ちまでが徐々に好転しはじめたのだ。

社員たちの「やらされている」から「やろう」という受動から能動への意識の移行で得られる達成感は計り知れない。

当然、達成すれば仕事に対する満足度はあがり、自分の居場所が職場で明確になれば、会社に対するロイヤリティも上るのである。

もともと成基コミュニティグループでは、日本経営品質の「従業員重視」を経営方針のひとつとしている。これは、「従業員満足度」が上ることが「顧客満足度」のアップに繋がり、さらにそのことが「従業員満足度」を大きくし、ひいてはサービスの高品質化から高業績への構図になるという仕組みである。

その従業員の満足度をはかる手段として、社員に対してESアンケート(社員満足度調査)を六年前から実施してきた。

そして「現場のことは現場に任す」と決めて、ようやく心から社員たちを承認できるようになった昨年あたりから、社員たちの満足度が大幅にアップしていることが見えてきた。

特に前年に比べ大きくポイントアップしたのは、「成基コミュニティグループがコーチングを組織の独自の強みとして生かしている」や、「自分の所属している会社の将来像や方針を理解している」「成基コミュニティグループが社員の個性を重んじている」などで、そのポイントアップ数は20%前後となっている。

これらの項目のポイントアップは、ロイヤリティのアップをも意味する。

また、昨年よりポイントが下がったのはわずか二項目でいずれも数パーセント以下のダウンだった。

さらに、ポイントが下がった項目に関しては、不透明になっている課題を明確にし、調査も行うように努めた。

例えば「業務を遂行する上で休日がとれている」という項目は、昨年より3.8%下がったが、これらに対し、実際の状況がどうであるか、また同業他社に比べて問題があるかどうかを徹底的に調べることによって、時には改善し、時には社員たちが納得できるよう報告を促す。このような方法によって社員が満足して働ける環境作りを目指していきたいと考えている。

ネガティブな要素の公開を控えていては、問題は解決しない。すべてを公開し、社員たちが納得できて初めてESは上る。

会社を良くしていくためには、何が必要なのかを経営陣、幹部を含めた社員全員で意見を出し合い、考えて実施していくことだ。

社員の満足度が上れば、当然会社を大切に思い、会社のためにがんばって働こうというロイヤリティが生れる。

ロイヤリティとESの高さは切っても切れないものであることを今さらながら私自身痛感している。

顧客の夢の実現のためには、社員の夢を応援できる会社であり続けなければと、心からそう考えている。そして今は、社員を心から幸せにしたいと思っている。

未来へ

 社員を心から幸せにしたい、そう思えるようになってから、私は今までに感じたことがないほど、仕事に対してやる気が出ていた。

 不思議なもので、社員を承認することで、自分が承認されているような気持ちになったのだ。

「現場のことは現場に任せていい」と、口先だけではなく心から思えるようになったし、自分の目が届いていないところで事が順調に進んでいることが頼もしく思えるようになった。

 形だけではなく、本当にそう思うことで、社員たちは私から承認されていると感じ、仕事が会社だけのためでなく、自分の人生目的の一環へとマインドシフトしていったのだと思う。その社員たちの姿を見ることで、今度は私が、社員から承認されている自分の存在を認め、それが今までにない仕事への情熱を生み出しているのだろう。

 私たち、成基コミュニティグループは、顧客の夢の実現をサポートするヒューマン・ドリーム・サポート・カンパニーとして「人づくり」という観点から真に社会に貢献する企業グループであり続けたいと願っている。

 そのために、私たちはグランドミッションの遂行による社会貢献を目的とし、段階的到達目標としての「長期経営方針」「中期行動指針および重要事業」を「マニフェスト(声明書)」として掲げるとともに全従業員が、その達成のために一丸となり、各パーソナルミッションに則って具体的行動を起こすことを目標としたい。

そして、そのマニフェスト達成のために欠かせないのが人材であり、そのリクルーティングにも社員の協力が必要不可欠だ。

事実、成基コミュニティの社員になった多くは、社員であった人間からの紹介である。

自分の会社へ来ないか、と誘えるのは、その人の中に会社へのロイヤリティがあってのことだ。私は、その方法をもっと有効に生かし、いい人材確保のために社員たちの協力を得ようと考えたのである。

そこで、新たに始めたのが社員の意識調査、人財キック・オフ意識調査である。

これは、成基コミュニティグループに対する社員のロイヤリティ調査のようなものだ。

社員たちにとって成基コミュニティグループの誇れるところは何なのかを明確にすることによって、その誇りを維持し、時には調査し、時には改善しながら社員たちが「誇り」を持って働ける組織しようではないかという取り組みだ。

人財キックオフ、果たしてこの意識調査の前に見えてくるものとは一体何なのだろう。

経営者として、真意が最も問われる正念場である。

 ◆ 次回は人財キックオフについて詳しくお話します。

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