2008.09.22   

第20話:スポーツとコーチング

スポーツ精神

以前、第8話「真のコーチングとは」というタイトルで、成基コミュニティグループが指導法の柱として取り入れている教育コーチングについてお話したことがある。

 コーチングとは、気づきを引き出す指導法で、教育現場だけではなく様々な日常に大きく関わっており、夢や目標を持つことにも深く関わっていることをそこで説明した。

 もともと私が教育コーチングを取り入れようと思ったのは、日本のプロ野球からアメリカの大リーグに行った野球選手、大家友和との出会いがきっかけだったということも同じ章で触れたとおりである。

 さて、その大家友和はじめ、プロバスケットボーラーの森下雄一郎(第7話参照)、アメリカ独立リーグに行った元日本ハムファイターズの今関勝、女子プロサッカー選手の澤穂希のアスリート四名を、成基コミュニティグループが「UP2U(It's up to you)」キャンペーンを展開し、以下の言葉をモットーに応援していた。

自分を信じ、自分の意志で自分自身の人生を切り開き、勇気をもって夢にチャレンジすることは非常に価値がある−。

周囲との比較の中で幸せを定義する生き方は、もう過去のものになりつつある。

 前回述べた「人生の主人公は自分」との言葉どおり、自分の生き方次第で自分の中に価値を見出し、幸福を手に入れる時代へと移り変わってきているのである。

 このUP2Uの理念は、スポーツにとどまらず、将来の進路に悩む受験生、転職を考えるビジネスパーソン、将来のスターを夢見るミュージシャンなど、自分を信じて夢にチャレンジする人々を応援する社会の創造をめざしている。

 意志ある方向音痴は勝者たりえる−、というわけだ。

 ところが私が、目立ってアスリートを支援するにあたり、なぜスポーツにばかりに熱を入れるのか、との周囲の声も少なくはない。

 答は簡単だ。スポーツは勝ち負けの結果があり誰の目にもわかりやすい。

 目標や夢も実に明確だ。わかりやすいから、その情熱や夢も不特定多数に伝わりやすく、共感を得やすい。

 スポーツ観戦があれだけ多くの人を感動させるのも、チャレンジ精神や、燃える魂が率直に伝わってくるからだ。

 私がアスリートたちの夢を応援している理由はそこにある。

 アスリートの明確で鉄のように強いチャレンジ精神や夢に向かって走り続ける姿を見れば、塾に通う子ども達や保護者だけでなく、社員、そしてそれらを見る人々も大いに刺激を受けると考えたのだ。

 アスリートの精神は、単純明快なだけに、多くの「学び」「気づき」「発見」を私たちにもたらしてくれる。

 スポーツとコーチング、これは最も理解しやすい具体例を示してくれるのである。

コーチングでお礼

さて、スポーツとコーチングと言えば、忘れてはならない人がいる。

 日本ハムファイターズの梨田昌孝監督である。

 梨田監督とは、個人的なお付き合いもあり、16話でお話した能登半島地震復興支援では多大なるご協力をいただき、大変お世話になった。おかげで、被災地においても、多くの方々の笑顔を見ることができたし、復興イベントは大成功に終わった。

 その後そのお礼になにかできないか私はずっと考えていた。

 そんな矢先、ヒルマン監督に続き梨田さんが日本ハムファイターズ監督に就任するという朗報が耳に入った。

 ようやくお返しができる時期が来た−。が、監督という仕事に相応しいお返しでなければ意味がない。それが何であるか、私にはすぐ頭に浮かんだ。

 教育コーチングである。

 梨田監督率いる新生ファイターズが、コーチ・選手一人ひとりの能力・魅力を最大限に発揮でき「日本一」の奪還を実現されること、そして球団の企業理念が具現化することを願い、コーチングスタッフ16名(一軍・二軍選手を指導しているコーチのみなさん)に「教育コーチング」の基本スキルをマスターしていただくことを提案したのである。

 そして、これを能登半島地震復興支援(成基コミュニティグループ45周年能登アクト)で協力いただいたお礼と、監督就任祝いとして謹呈することに決めたのである。

 当セミナーが果たす成果は「常勝コミュニケーション文化」の創造、全選手がイキイキと成長し続け、成果を出し続けることである。

 コーチングスタッフの仕事は、質問・承認・傾聴、時に提案することである。

 このコミュニケーションの中で、選手はコーチから「受け入れられている」という安心感を得ることだろう。そして、会話を通じ、自分の中にある「答え(何をするべきか)」に気づくことができるのだ。

 そして「概念」ではなく「事実」を見るセンスを養い、経験値や思考のみに頼らない幅広いコーチングセンスの習得が足がかりとなるのである。

 選手の能力を引き出すのは「ティーチング」ではなく「コーチング」。

 選手の気づきを引き出し、コーチング指導ができる人こそが真のコーチと呼ばれるのである。

梨田監督、腹心改革

 梨田監督は、プレゼントとして渡した私の企画提案を快く受け入れてくれた。

 もともと評論家時代から常に「もし、自分が監督だったら・・・」ということを頭の片隅においていた指導者だ。

 技術指導だけに頼りがちなコーチのための新たな指導が必要だと感じていたのかもしれない。

また、これは我々にとっても大いなるチャレンジでもある。

 プロ野球界の監督やコーチにコーチング指導をすることは、「教育コーチング」の頂点を極めることになる。

 こうして、今年の二月七日、沖縄キャンプ場へ私と私が会長を務める(社)日本青少年育成協会から教育コーチングトレーナー三名が同行し実際にデモンストレーションを交えながらそのノウハウを伝えることが決まったのである。

 コーチングの技術をコーチのみなさんへ伝える−。

 そして私は、コーチングの頂点を見極め、学びを得るつもりでキャンプ地の沖縄に出向いた。

 そこで私が注目したのは、二軍のコーチをしていた野村収氏六一歳である。

 その年齢でありながらユニホームを格好よく着こなし、その着こなしからは、選手たちに一日でも長くユニホームを着続けて欲しいという願いがありありと覗えた。
「大切な選手たちを、彼らが目指すところまで運ぶことがコーチ」

 彼の背中は自信満々にそう語っていた。

 選手を承認し、包み込むようなオーラは、長い間たくさんのものを培い完成された人間だけが出しえるものであった。

 その人間性の大きさに私は、ただ感嘆のため息をつくしかなかった。

 「一流」という言葉が私の頭の中をすうっと過ぎった。

 「一流」になるための学びは半端なものではなかっただろう。

 その一流の野球センスにコーチングの“HOW TO”が加わればどうなるのか、私はこの目でしっかり見届けたい衝動にかられていた。
 
 ☆次回も引き続き、コーチの教育コーチングについてお話します。

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