前回は、桑田真澄氏とのセッションについてお話させていただいた。
桑田氏の今後の指導者としての活躍を心から期待する者として、今回は、リーダーとはどうあるべきか、私なりの考えを述べたいと思う。
「サーバント・リーダーシップ」という言葉をご存知だろうか。
資生堂の相談役である池田守男氏の著書に「サーバント・リーダーシップ入門」という本があり、私はこれを読んで深い感銘を受けた。
普通、企業におけるリーダーというものは、従業員を強烈にぐいぐい引っ張る人のことだと思われがちである。対するサーバント(奉仕的)リーダーシップとは、それとは逆で、現場で顧客と直接接している従業員に理解を示し、支援するリーダーシップのことを言う。
右肩上がりの経済環境にあった以前の日本は、支配型リーダーシップで成功することができた。それは物事の見通しが実にクリアな時代であったため、正解をリーダーが簡単に見抜くことができたからだ。
しかし、様々な情報、多様化したニーズが混在する現代では正しい答えを見出すことが困難になって来た。だからこそ顧客に最も近い、現場社員の声を大切にし、ビジネスに反映させる姿勢が必要となってきたのである。
また高学歴化に伴い、人々は自分の尊厳を求め行動するようになり、その尊厳を無視するリーダーには従わないという傾向が出てきた。
その中でミッションを実現化させるには、支配する人ではなく、社員の能力が発揮しやすい環境を作り上げることがリーダーの役割と考えられているのだ。
21世紀のリーダーは、相手に貢献する気持ちを通じて相手を導くことができる人、とでも言うとわかりやすいかもしれない。
サーバントに徹する気持ちが「公」の精神を生み、より顧客の声が届くというわけである。そこには、まずリーダーとして「初心」に返る、つまり机の上で支持をするのではなく「現場」にかえることが必要だろう。
さて、昨年春から私は、教室の巡視を開始した。
これは成基学園、TAM(幼児教育)、ゴールフリー(個別教室)の事業所約130箇所を順番に抜き打ちで回って現場の様子、雰囲気をひとつ、ひとつ見てできるだけ支援しよういう考えから始めたものである。
以前も同じように教室を訪れてはいたが、それは限りなく「管理」に近いやり方であった。
「支援」と「管理」は大きく異なる。
「管理」は、言い方を変えれば、悪いところはないかどうかを確かめる、一種の粗捜しのようなもの。逆に「支援」は、何か現場で問題がおこっていないかどうかを見極め、把握して解決を図ると同時に職場の意見を聞くためのもの。
私にとって、「初心」に返ることは「教室」に返ることでもあり、その現場で働く従業員たちの声を拾い上げることが大切だと考えたのだ。
そして、改善できることは現場の社員たちが納得できるよう促すことを試みた。
まずひとつの例が、掃除である。
教室で働く社員たちにとっての仕事とは、塾に来る子ども達に教科を教えることだろう。
これは間違いない。
そして、子ども達は学ぶためにここに来る。
しかし、本当に彼らの仕事は、勉強を教えることだけなのだろうか。
彼らに再度見極めてほしいのは、彼らのパーソナル・ミッションとは何か、という原点だ。すると「ただ勉強を教える」という単純な目標ではないことに気づくはずだった。
私がある教室の巡視に行った時、そこのトイレがひどく汚れていたことがあった。
私は、社員にそのことをこう指摘した。
「ここのトイレは誰が使うものなの?」
「塾に来る子ども達と自分たちです」
「子ども達がこのトイレを見て、さあやるぞ!って気になるかな」
「・・・」
「子ども達が“やるぞ”っていう空気、雰囲気があれば、・・・すっと勉強にも入り込めるんとちがうかな・・・」
言うと、私は自らトイレ掃除を始めた。
それを見た社員が驚いた。
「ここに来る子どもらを本当に勝たせたかったら、自分自身の仕事に魂を吹き込んでくれ。
パワーを吹き込んで欲しい。この教室に一歩、子ども達が入ったとたん、エネルギーが漲るような・・・やる気に満ち溢れるような、そんな空気を作るためにはどうしたらいいか、考えてくれたらうれしいんやけどなあ」
子どものやる気に火をつけるためには、その場所の空気をいかにデザインするのかが大切だ。
しかし、その空気のデザインは子どもによって大きく異なる。
だからこそ、日々子ども達と接している現場の社員たちの力が物を言うのだ。
私が、こうしろ、ああしろ、と言うよりも彼らの背中を押しだして、自分のやるべきことは何かを見出してもらうほうが、顧客の信頼は格段に高いのである。
「トイレが汚れている。掃除をしろ!」というのは簡単だ。
事実、以前の私なら「なんやこのトイレ!掃除しろ!」で終っていただろう。
しかし、掃除そのものよりも「きれいなトイレ」が誰のためにどう必要なのかを社員が考え、気づき、実行に移すという自主性が大切なのだ。
彼らもまた教室の中では「リーダー」である。
そのリーダーが子ども達が気持ちよく勉学に取り組むにはどう尽力すればいいのか、ミッションを振り返り、考えれば誰に指摘されなくても、勝手に身体が動くはずだ。
私は社員たちにも、子どもの立派なサーバント・リーダーになって欲しいのである。
「君が子ども達から必要とされているのは、勉強を教えることだけじゃない。子ども達はもっと、もっとたくさんのことを君から期待してるぞ。それが何か、もう一度考えてな」
私は社員が納得したのを見届けると、「それから、この教室の空気がどんどんよくなるために必要なものがあったらいつでも言ってくれ」と最後に言って教室を出た。
社員にとって働き心地のいい職場になれば、それはここに来る子ども達や顧客である保護者にとってもモチベーションアップに繋がり、大きなプラスになるのである。
ある人はサーバント・リーダーシップの「属性」として、以下の10項目をあげている。
01)傾聴(Listening)
02)共感(Empathy)
03)癒し(Healing)
04)気づき(Awareness)
05)説得(Persuasion)
06)概念化(Conceptualization)
07)先見力・予見力(Foresight)
08)幹事役(Stewardship)
09)人々の成長にかかわる(Commitment to the growth of people)
10)コミュニティづくり(Building community)
今までのリーダーシップとは大きく異なるといえば、傾聴、共感、癒しである。
社員のメンタル面をいかに支えるかも上司の課題といえるのだろう。
その通り、傾聴・共感は、「喜感塾」「BDBT(ブレイクダウン・ブレイクスルー・セミナー)」に大いに取り入れていることは以前、このエッセイでもお伝えしたとおりである。
人は自分の意見が他人に聞き入れられた時に、認められたと感じ、モチベーションを高め、やる気を起こす。
サーバント・リーダーとは、ピラミッド型の上に立つ人間ではなく、逆ピラミッドで、下から従業員を支援するリーダーだ。
そして私も、21世紀を生き抜く組織のリーダーのひとりとして、このサーバント・リーダーシップを大きく目標に掲げたい。