前回は自分史を作成するに当たっての注意点を主に挙げてみた。
そこで、今回は自分史セミナーの具体的な流れに入る前に、自分史を語る=自己開示にはどれほどの効果があるのかをお伝えしたい。
教育現場で自己開示すると、劇的効果があることはデータではっきりと示されている。
例えば、教師が自己開示を頻繁に行うことで、生徒の不信感が払拭され、教師に関する好感度が上る。また、その際の自己開示にも「情報」より「思考や願望」の開示の方が生徒の印象に残りやすいことがわかっている。
つまり、情緒的な開示がより効果的でこれらを試したところ、教師の自己開示後に生徒の反応が大きく向上したとすべての教師が語っている。
さらに長い一回の開示より、短い頻繁な開示の方がより効果が高い。
さて、成基学園でも、弊社の役員Tさんが、授業で自分史のスライドを20分間上映して園生に見せたところ、多くの寄せ書きが園生から寄せられた。
もともとTさんは、自分の授業にパソコンのスライドショーを用いた授業を行っていたため、園生にとってTさんの自分史の上映は授業の延長に過ぎず、入りやすかったことも功を奏したのだろう。
寄せ書きには、
「スライドショーを取り入れた授業はとてもわかりやすかったし、面白かったです。実験や天体観測はとても印象に残っていますが、最後のT先生の「自分史」からは、とても大きなことを学んだと思います」
「最後の授業で見せてくださった自分史がすごく印象的でした。私も先生のように自分の意思を強く持って生きたい」
これはTさんが一年間行った授業を受け終えた園生たちからの寄せ書きの一部であるが、多くの子ども達が、「自分史」からの学びについては特に印象的であったと語っていた。
これもまたTさんの自己開示によって、生徒の反応が向上した結果である。
教師の自己開示による生徒の反応の向上は、その教師の指導すべてに対する反応の向上に繋がる。つまり、全体的な学習意欲の向上に繋がるということだ。
自己開示は本来の自分に戻るきっかけづくりであると同時に、使い方によっては多くの味方を作り、自分への信頼を不動にできるスキルだと考えてよいだろう。
ただし、前回述べたように自分史作成にはいくつかの注意点(第35話参照)があることを付け加えておきたい。
さて、私自身もこの自己開示を経て、本来の自分に戻るきっかけをつくったひとりであるが、その自己開示法を私の例を使って、わかりやすい手順でご説明しよう。
1 自分の中で起こった過去の重大な出来事(事件)の背景説明をする
(事実・判断・感情をセットで語ろう):
私の父、佐々木雅一は今の成基学園の創設者であるが、父は第二次世界大戦で軍隊に徴兵されて将校の経験をしたことから、塾の経営に関しても率先垂範型のリーダーシップを信条としていた。
当時は、200人くらいの部下がいたが、夜中の2時頃まで部下の業務日誌にはすべて自分で目を通し、ひとりひとりにアドバイスをする毎日だった。
私はその姿を見て、「こんな仕事には就きたくないな」と思った。
父は経営者や先生としては間違いなく偉大な人物だった。
しかし、父親としては育て方が上手な父親ではなかった。
父は常に「もっとがんばれ」「もっと努力しろ」「まだまだやれるだろう」の叱咤激励ばかりで、息子を褒めるということができなかったからだ。
父は私という息子を完全支配下に置き、自分の思い通りに創り上げようとしていた。
2 事件の経過説明をする
(1) その1 状況説明は短く明確に:
その事件は、私が4歳の時に起こった。四歳と言えば天真爛漫な時期である。その時、父に何かを言われ、私は「言うことは聞きたくない」と反発し、家を出て行った。
(2) その2 状況に感情を語らせる:
そのころ、白いくまのぬいぐるみの貯金箱を私は大切に持っていた。その中には一円玉、五円玉、十円玉が何十枚か入っていて、私はその貯金箱を持って家出をした。
(3) その3 子どもの視線(主観)になって振り返る:
大体家から7〜80メートルくらい歩いていくと大通りには馴染みのお菓子屋さんが3軒あった。
私が行くといつも優しくしてくれるので貯金箱を持っていけば、お菓子屋さんが私を大切にしてくれるのではないかと思ったが、私が家を出たのは夕方で、次から次へとお菓子屋さんのシャッターが閉まっていくところだった。
(4) その4 決定的にダメージを受けた瞬間を劇的に語る:
私は貯金箱を持ちながら「どうしたらいいんだろう」と四歳にして路頭に迷った。そして、これはどうしようもないなと思い、家にとぼとぼと歩いて帰った。
すると家の前で父親が「にこっ」と満面の笑顔で立っていた。その顔は「ほら、見ろ!何もできなかったではないか」と勝ち誇ったような笑顔だった。
3 事件が及ぼした影響を説明する:
事件をきっかけに自分の中で起こった変化を具体的に語ろう そこから私は父親のいいなりにならざるを得なくなった。「父親の命令は聞かなくてはならない。父親に退くことはできない」と思った。私のアイデンティティとしての記憶の源泉はそこにある。
その後、私はずっと父の亡霊を引きずって生きてきた。「父にとってのいい子」からの脱出は、その亡霊から逃れるためであったが、その源泉と向き合うことができなかった私にとって、悪い子になった“ふり”は、そのトラウマを隠そうとしていたにすぎず、私は、「父の支配」という亡霊と戦い続けなければならなかった。が、インナーチャイルドと向き合い、自己開示をすることで、その亡霊からようやく開放され、自分の進むべき道を、自分の力で見出せたのである。
インナーチャイルドに向き合うことは容易なことではない。しかし、いい訳ばかりをして臭いものにフタをしていては、明るい未来を閉ざしている壁を取り払うことはできない。
人として、臨界期(成長期に重大な変化が起こり、その出来事が固定化される時期)に起こる経験は、脳の神経回路(ハードウエア)に固定され、変更できなくなってしまう。
つまり、そのハードウエアをベースにこれからの人生を考え進まなくてはならないのだ。
だからこそ、インナーチャイルド(ハードウエア)を消そう、隠そうなどと考えず、真正面から向き合い、受け入れることが重要だ。
インナーチャイルドを人に素直に語れる(自己開示)ならばクリアリングされていると考えていい。そして、そのクリアリングが最も難しく、最も大切な作業なのである。
自分史は原則、自分自身の心にあるものだから、常に変化するし、特に何かに記述が必要というわけではない。しかし、人に向けて発表するとなれば、絵画や音楽といった表現方法よりも、言葉で表現するほうが相手に伝わりやすい。
そして、私はその発表方法として、口頭・文章・スライド(パワーポイント等)を用いたものを是非お勧めしたい。(先述したTさんの例も同じ)
立派な内容であっても、それが相手に伝わるかどうかは別問題だ。
文章が得意な人は別として、一般の人は次のような構成で自分史を作成するとよいだろう。
1. 年表で簡潔に今までの人生を振り返る
2. 時代区分の順に紹介していく
3. 重要な出来事については、内容だけではなく、いつどこで誰との間に何が起こったのかを明確化し、その後の変化について紹介し、その出来事と現在の自分との因果関係について紹介する。
4. 最後は自分のパーソナル・ミッションを紹介して何を重要と感じ、どうしていきたいのかを紹介する
これで完成である。
さて、成基コミュニティの社員たちがこの自分史セミナー作成をどう考え、どう自分のものにしていくのか、社員たちが実際に参加するセミナーについては次回にお話させていただきたい。