2010.10.27      

第44話:能登島キッズランド、
合格達成セミナー合宿(プロローグ) 

1992年、成基コミュニティグループは、石川県能登半島の能登島に「能登島キッズランド」という自然体験学習施設を開設した。

この施設は、子供たちに感動あふれる自然活動を体験してもらうために建てられたもので、野外教育事業や合宿を行い、野外体験や環境教育など様々な心の教育を行うプログラムを実施している。

変化の厳しい現代を生き抜くためには、自ら学び、考え、行動し、問題解決する「生きる力」が必要だ。その原点となるのが、豊かな感性と感動体験であるといえるだろう。

自然とのふれあいの中で、子どもたちは、五感をフル稼働し、それらの体験は潜在的な記憶となって、後の学習の理解を助けるとともに、チームワーク、コミュニケーション力、問題解決力等の「生きる力」と「社会性」を身につけるのである。

石川県能登島の丘陵地にそびえるこの施設は 、広さ 12万平方メートル(4万坪、甲子園球場2個分)。さまざまな動植物たちに出会える森が敷地内を覆っており、200名が宿泊できるメイン施設の学習棟「マザーシップ」を中心に、農園や広場、球技場などが広がる中、毎年野外事業や合宿が行われ、今までに成基学園の塾生2万人以上が訪れている。

ここで行われている学習は大きくわけて3つ。ひとつは、毎年夏休みに塾生四年生を対象にした「チャレンジ合宿」(テントで共同生活をしながらの自然体験学習)、ふたつめが1日16時間ひたすら勉強に励む中学3年生対象の合宿で、3つめが中学受験を間近に控えた塾生6年生を対象にした「合格達成セミナー合宿」である。

そして、私が数ある教育手法の中で、最も力を入れているのが最後に挙げた「合格達成セミナー合宿」なのである。

ところで、「合格達成セミナー合宿」と聞くと、朝から晩まで鉢巻を閉めて、参考書やテキストに向かって猛勉強をする、というイメージを普通描くのではないだろうか。

今回からは、この合宿について数回にわたり詳しくお話させていただきたい。

この合宿は毎年お盆の期間、8月13日から16日までの3泊4日間、キッズランドの学習棟で行われる。

 来年春の中学受験に合格するためのセミナー合宿であるが、教科教材は一切登場しない。かといって、特別な野外活動をするわけでもない。

この合宿は完全なる「コーチング(子どもたちに気づきをもたらす)」によって、以下の実現を目的とした、弊社が独自に生み出したプログラムなのである。

その目的とは−

1. 塾生たちが、自分の中に潜在する「目標設定能力」「自己管理能力」「問題解決能力」等を  顕著化させることにより、学習習慣を確立し、志望校合格を実現させる。

2. 塾生たちが、様々な「気づき」を通して「自分は素晴らしい力を持った人間である」という自信を確立し、「より以上」を目指して生きる人生のリスタートを実現させる。

参加者は、中学受験を控えている小学校6年生で、現在の偏差値では志望校合格は厳しいと思われる子どもたち29名(2010年度)の塾生である。

勉強はないが、この合宿はとても苦しい。

子どもたちの使命は、この合宿で、今までの弱い自分を捨てて、新しい自分に生まれ変わって家に帰り、志望校の合格達成に挑むことなのである。

そのために、

「志望している中学受験を控えながらも、勉強に集中できないのは、自分に打ち勝つことができない弱さのせい。勉強しなくてはと思っていても、ついテレビを見てしまう。ゲームをしてしまう。友達と遊びに出かけてしまう。そんな意思の弱い自分と決別し、目標を達成できる自分になって、これからの受験に向かって進むぞ!」

という気づきを子どもたちにもたらすことが我々の役割となる。 

この合宿のプログラム内容は、保護者にも子どもにも事前説明をしているが、ほとんどが子どもたち自身の意思で参加を決めている。

つまり、本人たちも、このままでは合格できないということをわかっているのだ。
 
 その子どもたちの士気をどう高め、合格に結びつけるか−。

それは我々が教育者として、子どもたちにどう「気づきと自信の魔法」をかけるかに全てがかかっている。そして、その魔法は受験の日までずっと解けないものでなければならない。

果たして、こんなことが実際にできるのか−。

答は「イエス」だ。できるから、毎年続けているのである。

事実昨年は、49名がこの合宿に参加し、46名が中学受験をし、延べ75の志望中学校への合格を見事に果たしている。

しかも、合宿前の偏差値からは到底合格は無理とされていた子どもたちが、だ。

ただ、これは我々、教育者にとっても大変な「試験」となる。

つまり、子どもたちにとっても大きな試練であるが、指導者である私たちにとっても大きな試練と気づきの場となるのだ。

先にも述べたが、この場では指導者の力が非常に大きく関係してくる。

そんなわけで、私は、この合宿を恰好の社員研修の場だと捉えている。

社員の中にはこの合宿への参加に嫌悪を示すものもいる。それは大変きつい「仕事」という意識で参加しているからだろう。

ところが、今回この合宿のトレーナーを務めた社員、U氏(キャンプネーム:サムライで以下サムライと称す)のように、この合宿を子どものためとは考えず、自らの成長の場と捉え、「仕事」以上のプラスαを意識して臨もうとしている社員もいる。

合宿に参加している子どもたちが目標としているハードルは今の彼らにとってはとてつもなく高い。そのハードルの高さは、今回の合宿をリードするサムライにとっても同じように高い。

何故なら合宿の目的はプログラムを消化することではなく、子どもたちがそのハードルを飛び越えることが目的だからだ。そして、そのハードル飛びを指揮しているのが、サムライをはじめとする社員たちなのである。

スポーツの監督と同じで、選手(子ども)が成果を出さなければ、当然、彼らの力量が問われる。

しかも、この合宿に参加しているのは「志望校合格は無理」とされている子たちだ。

ここまで言えば、いかにこのハードルが高いかがお分かりいただけるだろう。

そんな中、サムライはこの合宿に実に能動的に参加していた。

チャレンジのハードルが高ければ高いほど、人は低くかがみ、ジャンプにそなえなければならない。ハードルの高さは試練の高さであり、ジャンプできる高さは本人たちが作り出す意識の高さといえるだろう。

この合宿も同様で、子どもたちを高くジャンプさせることで、サムライ自身も、ひとりの教育者として高くジャンプできるのである。

そして、どれだけ低くかがめば高くジャンプできるのか、その加減を子どもたちに教えるには、まず、自分がそのさじ加減を知るべき、とサムライは考えているのである。

つまり、「合宿の参加」=「きつくて嫌」と考える社員は、これを「仕事」と捉えている証拠であり、サムライのように「合宿の参加」=「チャレンジ」と考える社員は、これを仕事以上に「己の成長の場」と捉えていると見受けることができる。

事実、「仕事」として参加した社員とそうでない社員とでは、子どもたちとの接し方もまるで違う。

それは子どもを見ていれば、よくわかる。

子どもは、いつの時代も「全身全霊」でぶつかってくれる大人に心を開くのである。

この合宿はその縮図を見事に描きだしていた。

これは、ただの合宿ではない。社員と子どもたち、互いが本気でぶつかり合い、子どもの目指すハードル(目標)を一緒に汗と涙を流しながら、飛び越える4日間なのであり、そのために最も大切なのは、合宿に参加している他の社員とのチームワークなのである。

果たして29名の小学6年生に対し、社員17名が同行した2010年の合宿がスタートした。
8月13日午前8時、京都駅に全員集合。遅刻者なし。

多くの保護者が見守る中、グループごとに分かれて点呼が行われる。

不安そうな顔であたりを見回す子どもたちと、同じように不安そうに我が子を見つめる保護者たちの姿が印象的である。

能登のキッズランドまでは、車で5時間。バスは予定より10分程度早く出発した。

携帯電話やゲーム機などを持ってくることは許されないし、合宿期間中の外出も禁止。自由行動もない。

子どもたちはこの四日間で、どう成長するのだろうか。

そして、社員たちは・・・。

次回からはその四日間の出来事について詳しくお話したい。


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