2012.12.11   

   第71話:
 成基コミュニティグループ創業50周年記念式典 その1

 去る2012年10月6日。
 ホテルグランヴィア京都に於いて弊社創業50周年記念式典が行われた。

 成基コミュニティ―グループが誕生したのは1962年。

 私の父、雅一が「成基学園」の前身である「あすなろ学園」という私塾を開設したことから、弊社の歴史が始まった。

 創業者である父、雅一が「成基学園」を全国でも屈指の学習塾へと育て上げた25年が「原点」と「成長」の歴史であったとすれば、そのバトンを受けた私が従業員と一丸となって走り抜けた25年は「革新」と「挑戦」の歴史であったと言えるだろう。

 教育は国家100年の大計とも言われる。
 その一翼を担うことは「この国の未来を創ること」との重責を自覚し、15万人を超える卒塾生たち一人ひとりの「未来への準備」に正面から向き合い、従業員と共に全身全霊で支え続けてきた、そんな50年であった。

 弊社がここまで歩んでこられたのも、これまで弊社を支えてくださった多くの方々の存在があったからに他ならない。

 2012年はそのスタートからちょうど50年−。

 これまでの「感謝」と日本一の民間教育機関を目指す「決意」を込めて10月6日、創業50周年記念式典が開催されることになった。

 記念式典のプログラムは、1部が映画「祈り」の上映会。2部が祝賀懇親会である。
 1部の映画「祈り」は、弊社の伝統でもある「合掌」「黙想」「門標会釈」と実に密接な関係にあり、この映画との出会いに運命的なものを感じた私は、いちスポンサーとしても映画制作に協力することになった。

 そして、この映画を通して「合掌」「黙想」「門標会釈」を行う目的が、子どもたちの人格形成の基を成すという創業の原点に、弊社自身しっかりと立ち返りたいという思いを、
 記念式典にご招待する皆様に知っていただきたいという思いからプログラムに取り入れることにしたのである。

 さて、「50年という歳月を振り返ってください」と口で言うのは簡単だが、当時を振り返ることができるのは、人生を半世紀以上生きた人間だけである。たぶん、多くの人がその歴史を振り返るにあたり「遠い昔の出来事だけどね」と付け加えることだろう。

 あの頃にはカラーテレビもなかった。電気炊飯器もなかった。新幹線も開通していなかった・・・。

 それがこの50年の間に古い様々なものが消え、新しいものにとって代わられた。

 テレビは白黒からカラー、そして、ブラウン管から液晶へ、家電製品はマイクロコンピューター内蔵に、新幹線はより早いリニアモーターカーに10数年先には生まれ変わろうとしている。携帯電話など半世紀前には神のツールでしかなかった。

 50年で私たちの生活はどれほどめまぐるしく変化し、今後変化していくことだろう。

 では企業はどうか。
 生き残る企業もまた古いものを捨て、時代に取り残されないよう日々の変化に目を向け、新しいものとともに邁進しつづけているのだろうか。

 それは間違いない。
 新しいものに目を向け、変化を受け入れる柔軟さはもちろん不可欠である。
 しかし、大切なのは「新しいもの」や「変化」だけではない。

 普遍的なものをベースに、時代にあったニーズをトッピングしなくてはならないのだ。

 弊社、成基コミュニティグループでは「普遍的なもの(伝統)」を「幹」とし、時代にあった「枝(新しいもの)」や「葉(変化)」を茂らせることに重きを置いているのである。
 その伝統のひとつが「合掌」であり、それに続いて行う「黙想」、そして教室に入る前に学園の門標に会釈して入るという「門標会釈」だ。

 成基コミュニティでは、創業以来、今でもすべての教室において、授業前後に、全員で合掌し、黙想を行っている。

 これらは、勉強、学習に向かう時の、心構えや姿勢を養う為、そして何より勉強できるありがたみを感じ、親に感謝したり、自らを静かに反省できる心を育むための「受験道」のひとつの作法として、創業以来ずっと大切にしてきたものである。

 そして、迎えた2012年。

 弊社は創業の原点に立ち返り、その象徴である「合掌」「黙想」「門標会釈」を見つめなおすために、すべての教室での実施状況や意識についてのアンケート調査を実施することにした。

 50周年という節目を機に、古き伝統をたずね、新しき価値を知り、その伝統を見つめなおし、大切に引き継ごうという取り組みである。

 しかし、結果は「合掌」「黙想」「門標会釈」本来の目的を忘れ、ただ形式だけにこだわっていたり、一部の教室ではその形すら実施されていないという実態が明らかになった。

 創業以来守られ続けてきた伝統が、「形骸化」「風化」してしまっているのだ。

 私は、この50周年という歴史の節目の中で、これからの大きな課題を突き付けられたような気がした。

 そんな時だった―。

 16年前から私もメンバーとして関わっている「メキキの会」の会長、出口光氏を介して同じメキキの会員で、映画監督の白鳥哲氏が「祈り」という映画制作を、企画検討していることを知ったのである。

 その映画が、弊社が創業以来守り続けてきた伝統(「合掌」「黙想」「門標会釈」)と極めて密接であると直感したわたしは、白鳥氏と会い、詳しくお話を伺うことにした。

 話を聞くと、映画の内容は、主人公である村上和雄筑波大学名誉教授や米国の著名な研究者によって「祈り」というものが人間に大いなるプラス作用をもたらすことが科学的に解明されつつあるというものだった。

 私は私で、白鳥氏に弊社が創業以来、世界中の人々の幸せを対象とする「祈り」の本質に向き合い、「感謝」「謙虚さ」「社会奉仕」といった人間形成の基本教育を「合掌」「黙想」「門標会釈」の作法を通して全教室で実施していることを話した。
 地球の未来のために求めているものは、私も白鳥氏も同じだった。
 ふたりはたちまち意気投合した。

 私は、弊社の最も大きなイベントとも言える記念式典で「教育の目的は未来への準備である」という基本的理念をできるだけ多くの方々と共有したいと思っていた。

 こうして私は白鳥氏の映画「祈り―サムシンググレードとの対話―」を50周年記念式典の場で上映することを決めたのである。

 白鳥氏には、式典当日にスピーチをいただくことも快諾を得た。

 映画「祈り」は順調に2012年夏に完成し、秋には劇場公開も始まった。

 この映画は、笑いやスリル、サスペンスたっぷりのエンタテイメント作品では決してない。しかし、頭と心に静かに問いかけてくる、見る人すべてが幸せになれる作品だ。
 誰かのために祈る、それは確実に相手に届き、世の中を平和に変えていける力を持っている。私は、この作品に何か運命的なものを感じていた。

 そして、この映画「祈り」が、その後マルベーニャ国際映画祭ベストドキュメンタリー賞と、国際映画祭マンハッタン2012に於けるベスト・グローバル・ドキュメンタリー部門のグランプリを受賞することになるとは、私も白鳥氏も・・・その時は、知る由もなかったのである。
 
◆ 次回も引き続き、記念式典のお話です。


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