2008/01/28
2008/01/31修正
2008.8.25
 

八話: モーツァルト時間

人生の充実

私たちは、一回限りの人生を豊かに充実したものにしたいと思っている。

有限な人生の中で、どれだけ多くの経験をすることができたか、どれだけ多くのことを成し遂げられたかは、人生の充実度と深く関わりがある。

 

自分の人生を終えるとき、人生のできごとが走馬灯のように蘇ると言われている。そのとき、いくつの出来事があなたに蘇えってくるのだろうか?

 

この図はクロノス時間(物理的時間)の充実度を表したものだ。


上部の図は、人生で想い出となる2つのすてきな出来事、下部の図は、人生で5つのすてきな出来事があったことを示している。5つの出来事があった人生は、2つより、2.5倍充実した人生ということになる。

 

人生を振り返ってどれだけ多くの想い出を残すことができるのか?クロノス時間(物理的時間)の充実度は、有限な人生の中でどれだけ多くの出来事、経験をなすかにかかっている。

 

もちろん出来事の数だけが重要であるわけではない。いかにその出来事の経験が充実したカイロス時間の中で行われたかが大切である。どれだけ全霊でその経験をしたのか、どれだけ満足のいくものであったのか、その数が多ければ多いほど、人生は充実しているといえる。

 

それでは、充実したカイロスとクロノス時間を過ごすためには、どうすればよいのだろうか?

 

天使の時間エヴム

音楽は、音符を五線譜上に並べていくことで表現され、その音符を順番に奏でることで曲ができあがる。しかしモーツァルトは作曲するとき、最初の音から最後の音まで、一瞬に全部が頭の中でできあがっていたと言われている。つまり始めと終わりが同時に存在していたのだ。しかし、それでは人は理解しないし、演奏もできないから、仕方なく、物理的な時間の順序、つまり、五線譜に書き込んでいったというのだ。

 

このように天才の閃きは、時間軸上に前後や順序なく一瞬に存在する。中世では、これは天使の時間「エヴム」(AEVUM)と呼ばれた。

 

モーツアルトの「閃き」のように、あなたの人生を一瞬にして、掴むことができるとしたらどうだろうか。つまり、あなたは、過去と未来を含む人生を、「いまこの瞬間」に、見通すことができたらどうだろうか。

 

私は、これが可能であると思っている。

 

あなたの記憶の中には、過去の出来事は、もはや時間軸上に並んで存在してはいない。私たちはより古い過去を先に、思い起こすことも可能である。たとえば小学校の入学のときの想い出を、大学の入学のときの想い出より先に思い起こすことができる。つまり、記憶は時間軸上には存在せず、脳の中に「いま」存在しているからだ。

 

未来もまた、時間軸上には存在しない。百年先も千年先も思い描くことができる。つまり、過去も未来も時間軸上になど存在していない。つまり、過去も未来も「今」に存在させることができるのだ。

 

 

もし過去も未来も同時に意識の上に置くことができるなら、あなたは、いま、エヴム時間に「ある」ことになる。

 

あなたは私が何を言っているのかわからないかもしれない。しかしあなたの人生の過去、現在、未来を、天使時間エヴムに表わすことができる。

 

人生の統合

それは、自分の人生を統合することで、過去と未来を今に含むことを意味する。さらに具体的には、自分の人生を、「達成する」「癒す」「つなぐ」「守る」「探究する」といった天命動詞で表現することができる。

 

私の過去を考えてみると、過去の人生にはさまざまな事件があり、さまざまな経験があった。それぞれの経験は脈絡なく存在しているかのように見える。つまり、クロノス時間の上では、数多くの体験と出来事を経験してきたのだ。

 

私は、人の人生には、どんなに仕事を変えても、どんなに脈略のない経験をしたと思っていても、実は、その人生には貫くものがあることを発見してきた。そのことは、以前述べた。

 

私の例を見てみると、自分の人生のどの局面でも、「人を理解する」という天命動詞で、表現できたとき、即ち自分の人生が統合されたとき、この先の未来もそれには変わりないと思えるのだ。それこそが一貫した私の人生のテーマである。

 

私の人生の過去と未来を含む「今」に、「人を理解する」というテーマを置くことで、一瞬に私の人生を見通すことができる。これは私の人生を貫くメロディだ。かくして私の人生を、天使の時間軸上に捉えることになる。

 

これまで、私は、物理的な時間の流れをクロノス、心理的な時間の流れをカイロス、そして、自分の全ての人生を見通すエヴムという時間の中で、人生を捉える話をしてきた。

 

それらは、別々に存在するのではなく、すべて含んだ生き方ができる。クロノスとカイロス時間は、自分の全ての人生を見通すエヴム時間の中で、統合され得る。

 

この図を見てみよう。

矢印は、人生のメロディ、すなわち天命を表わす。

同じ数の出来事であっても、人生のメロディに沿った行動であれば、充実したものとなり、メロディに沿っていなければ、結局は不満足なものになる。

 

自分の人生を見通す(=エヴム)ことで初めて、これからの有限な人生で何をやるべきかが明確になってくる。限られた物理的時間(クロノス)の中に、人生の志を全うするメロディを持った行動で埋め、全霊で実行する(カイロス)その生き方こそが「サムライ時間」なのだ。

 

自分の人生を終えるとき、人生のできごとが走馬灯のように蘇ると言われている。私はこれにメロディをつけることが可能だと思っている。このメロディこそが、あなたの人生を充実させるものである。

 

人を理解するという天命を持った私は、その観点で人と接し、本を読み、旅行に行き、食事をすることで、私の人生をメロディに乗せることができる。それは、あなたにも同じことが言えるのだ。あなたが人生の終点で、あなたの五線符上に、どんなメロディが、そしていくつの出来事があなたに蘇えってくるのだろうか?