2009.06.08  

第17話「あるものをあるとして見る」

私たちが、自分の人生、つまり時間は有限であるというとき、それは二つの限界を意味している。時間が有限であることを意識するとき、会える人の数や回数が限られていることが明らかになる。人を大切に愛おしく思うようになる。

もう一つは、自分の能力の限界である。有限な時間に生きている限り、すべての分野について精通することはできず、ほんの一部しか自分にはできないという限界である。ことを為すには、人と協力しないと実際にはできないのである。

二つの限界を乗り越えるためには、多くの人たちと協力しなければならない。そのための一番の障害は、「私たちは、現実にないものを“ある”と見ている」ことである。あるいは、実際に相手が言ってもいないことをあたかも「ある」ように聞いている。これがサムライ時間を有意義に過ごすことを妨げている。

私は友人に会いたいと誘われたとき「今週は忙しい」と言った。後で本人から聞いたのだが、相手は「自分は重要視されていない。嫌われている」と思ったという。私は本当に忙しく、ただ予定が入っていなかっただけなのだ。

朝、出社して部屋に入ったとたん、部屋の空気が雑然としていた。思わず「汚れている」と言った。すると社員が「掃除機かけたんですけど」と脹れっ面をする。

このようなことは、友人関係や仕事のことだけではない。夫婦の間だってそうである。

ある女性が、朝の食卓で「チラシを見て“いいね”というと主人の機嫌が悪いんです。」という。買ってくれと言っていると思っているというのだ。

これは笑いごとではない。私たちは言われてもいないことを聞き、私たちは言ってもいないことを相手に聞かれている。このために、さまざまな人間関係や仕事のトラブルが起き、膨大な時間を無駄にしている。

「言ってもいないことを聴かないでほしい」と叫んだところで解決にはならない。

私たちは現実にあるものをただ「ある」とは観ないで、自分特有の解釈から思いこんでいる。私たちの生きている人生そのものが、そんな場なのである。

これを乗り越え、サムライ時間を大切に過ごすためには、自分がどのように人の話を聴くのかという自分特有の聴き方の癖を知ることが大切だ。それを知れば、だんだん相手が何をいっているのかが、そのままが聞こえてくる。

また、相手の聴き方の癖を知ることができればさらにその効果は高まる。
それは大きく分けるとたった四つである。

1. 「相手は自分のやろうとしていることを邪魔しようとしている。」この聴き方をしている人は、人の話を聞かず、相談することも少なく、強引に事を進めてしまう。

2. 「相手は皆の調和や平和を乱している。」この聴き方をしている人は、波風を恐れて言うべきことを言わず、結果的に問題を大きくすることになってしまう。

3. 「相手は私を嫌いだと思っている。」別の言い方をすれば、「私は必要とされていない。」この聴き方をしている人は、人間関係の争いが絶えず起こることになる。

4. 「相手は自分の能力を否定している。馬鹿にしている。」また、この聴き方をしている人は、相手を馬鹿にしたり、「メリットのない人だ」と見てしまい、結果的に人を受け入れることができず、仕事の規模は縮小していく。

詳細は、私の著書「聴き方革命」(徳間書店)を参考にしてほしいが、自分の聴き方の癖を掴めば、ただ、「あるもの」を「ある」と見ることができるようになってくる。これによって二つの限界を超える有力な手段を手に入れることになる。

もし私たちが自分の肉体の有限さを意識して生きることができれば、できるだけ多くの人たちと協力しようとする。21世紀に生きる私たちには、地球規模の環境問題がのしかかっている。私たちの子々孫々に重大な影響を及ぼしているのは論を待たない。

私たちは、大きな神輿を担ぐ必要がある。

サムライ時間に生きている人は、人を大切にし、人の能力を生かすのである。

                            出口光