2011.04.26      

第57話 「本当の強さを求めて」

剱の基本は「圧倒的強さ」です。ここでいう強さとは宇宙を動かす偉大なるエネルギーのほとばしりのことを指します。剱を稽古する者は、剱が振られるごとく風のようなさわやかさがなければなりません。心のモヤモヤを断ち切り、正義を断行する強さです。それはいつも心に最強の神スサノオノミコトを思い、やさしさを感じることです。

剱の稽古は数ある武道の中でも心身に最高レベルの報酬をもたらします。まず自信に満ちた表情と体格を稽古により得ましょう。剱の稽古で腰と腹を練ることにより、丹田の力が猛烈になっていき、そこから気迫がわき出てきます。この腹の底から湧き出てくる力。それは地球でいえば、マグマがわき出るようなパワーです。

下丹田(腰と腹)に現界を守る神スサノオノミコトを思います。上丹田(額)に精神界を守る神アマテラスの神を思います。手足はそれに従う八百万神(やほよろずのかみ)たちです。肉体的な強さと精神的な明るさ。この両方そろった心身の強さあってこそやさしさがほとばしります。

いつも元気で健康であること。気持が明るく病的な暗い表情のないこと。何を食べてもおいしく、いつも笑いが絶えず、人に好感を与えられる爽やかさのあることです。剱の道にあるわたしたちはこのようにありたいと思います。

ここ最近、抜け打ち(剱で相手を打ったあと走り抜けるようにする打ち方)を指導しまして思いますに、どうも混乱される方も少なくないようです。抜け打ちは、潔く全身全霊をこめて火の玉のごとくになって打ち込む捨て身の打ちです。相撲でいえばぶつかり稽古のようなものです。受け側としては、このタックルのような猛烈な打ちを正面切って受け止め、その勢いを利用して進行方向に相手を投げ飛ばします。これでお互いに度胸と気迫を培います。

また、抜け打ちは、動きながら瞬時に相手との距離感やタイミングを見計らって打てるようにする稽古でもあります。これはたとえて言えば空中戦のようなものです。体は飛行機、剱はミサイルのようなものです。空中を自在に飛行し、ターゲットをとらえたら狙いを定めます。そして態勢を整えてのち加速を加えて一気に接近しミサイルを発射します。発射したら即座に離れます。そして、いったん離れ、また旋回をしてポジション整え再度攻撃を加えます。このように剱の打ちを放つ中で、もっとも効果的な打ちの発射点を模索するのです。

また、打ちを放つのは陸上競技に似ています。走り幅跳び、走り高跳び、ハードル競走、また、やり投げ、ハンマー投げなどの選手たちを見ますと、何歩走って踏み込めば速く遠く、また高く飛べるかという緻密な計算をしています。剱を構えて相手に近づくことは「助走」と同じです。それは間をしめながら勢いをつけて強い打ちを放つためです。しかし、勢いがあっても踏切が悪ければよいジャンプができないのと同じに、相手との適切な間がとれてないのに剱を打っても強いインパクトは得られません。

抜け打ちの稽古で、相手との距離が遠すぎたり、近すぎたりして強烈なインパクトを加えることができない方も多く見受けられます。せっかく動いて加速がついているのにその利点を生かせないでいるのです。そういう場合は、抜け打ちをやめ、まず止め打ち(剱を打ったあとその態勢を崩さない近い間の打ち方)をしっかり稽古なさってください。止め打ちで、しっかり相手との距離を測り、足腰を決め、正確で強い打ち方が放てるように稽古をしてください。一部の稽古場で、背後に向けて打つ抜け打ちや、その抜け打ちをさばいて体を回転させて打ち返す特殊な75剱の技を指導しましたが、これは少々一般の皆さまには少々荷が重すぎたことを反省しています。

これら、空中戦のようなアクティブな技の攻防は、しばらく奥伝者保有の特別稽古会などで行って様子をみていきたいと思います。一般の稽古においては、今まで通り以下のように行ってください。

■打方 「12剱の止め打ち」 または 「仕掛け打ち」
 ■仕方 75剱の技で体を旋回させない通常の技(ただし、打ち返しは「抜け打ち」を行ってください)

中伝までは、地に足のついた地上戦で、奥伝からアクティブな空中戦になると考えてよいでしょう。しかし、もう少し先には、入門と初伝は地上戦、中伝と奥伝から空中戦に入れればと考えています。(このような戦闘的表現は和良久では適切ではないとお叱りを受けそうですが、あえて分りやすく伝えるため下賤な表現を使いました。ご了承ください)

さて、今までさまざま申し上げましたが、本来、一発の強烈な打ちさえあれば、小賢しい技などは必要ないのです。「その一発の打ちを放てばすべてが終わる」ほどのエネルギーがあればよいのです。さまざまな技の稽古をするのも、決して複雑な技を覚えるためでもなんでもありません。ただすべての力を一発の威力に集約し還元するためだけなのです。これは言霊の法則です。

「75声はスに凝縮され、スは75声に拡散される」
 「スの本質を知りたくば75声を探究せよ」
――――――――――――――――――――――――


志あるリー ダーのための「寺子屋」塾トップページへ