2013.12.02 

              第110話「太刀と剱」

 太刀の言霊は、「断つ」で、一つのものを二つに分けるはたらきをもちます。

 いわゆる「立て替え」のための力を指します。

 「ツムガリノタチ」という名称がありますが、ツムは「摘む」で、悪の芽を摘むということ、そして、カリはそれを「刈る」ということになります。

 そして、剱は「釣り合わせる義」で、二つのものを一つにかけ合わせる力をもちます。

 これは「立て直し」です。

 剱には「アメノムラクモノツルギ」と「クサナギノツルギ」という呼称があります。これも、活用の場によって名を変えたものです。

 剱を天に振り上げて旋回を起こすときは、「アメノムラクモノツルギ」と称え、天にむらがる黒雲を吹き払うごとく、精神世界を浄化します。これは、スサノオノミコトのはたらきです。

 剱を地に向けて旋回をおこすときは「クサナギノツルギ」と称え、地上世界に根を下ろす草を薙ぎ払うごとく、物質世界を浄化します。これは、ヤマトタケルノミコトのはたらきです。

 また、人の世にあっては「ツムガリノタチ」と称え、悪の根を摘み、悪因縁を断って人類の潔斎を促します。これは、タヂカラオノミコトのはたらきです。

 戦わずして一致和合させ、物事を円満に納める力、これを「タタノチカラ」といい、言霊学では「対照力」という漢字をあてます。

 タタノチカラの活用をなす神のはたらきを、タヂカラオノミコト(手力男命)と申し上げます。

 手力男命は、天之岩屋戸を開いたことで有名ですが、決して力づくで岩戸を押し開いたのではなく、このタタノチカラを顕現する75声の言霊の力をもって開かれたのです。

 以上の三神、いづれも表舞台において活躍することを許された神たちではありません。

 日ならず月のごとく、人知れず闇にまぎれて神業を推し進めることを課せられた神たちです。

 まるで、歌舞伎のとき、舞台裏において俳優を介添えする黒子のような存在です。

 これは、真に力あるものでないと務まるものではありません。忍耐につぐ忍耐と、困難に耐えうる強靭な精神力と体力、そして、的確な技の持ち主であるからこそ達成できる役なのです。

 アマノヌホコの力を継承する武神の役は、人々の讃美する声もなく、拍手喝采もない、日の目を見ない役であるばかりか、逆に他神による理不尽な誹謗中傷を受け、あまつさえ人類の罪業を一身に受けるという、普通の神たちには真似のできないことを引き受ける御役です。

 

 
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