和良久は、神道最高の極意である言霊の法則に即した技ですので、動き自体が邪気を祓って運気を強め、幸運を呼び込むものです。
ですから、私も和良久をはじめる以前に比べ、パワースポットに行くことや、幸運をもたらす品物を手にしなくても不安を感じなくなりました。
しかし、こういった稽古に関わりの無い一般の方たちは、今の時代や自分の人生に対し大いに不安を持っている方が少なくありません。
よって、少しでも運気を高めるべく、足しげく神社や寺にお参りに通い、お守りやおまじないなどを手にすることによって、安心立命を得ようとされています。
さて、私たち武道家は、修練によって、いつしか陰陽師のような力をも得るものです。
古来、気象を観察し、自然の流れを読み、人の心を操るなどの術にも長けた先人たちが、国や人を守ってきたのです。
天地の水火を味方につけ、人々を幸せにする・・・これも武道家の任務の一つといえます。
ということで、今日は幸運をもたらす「おまじない」について書きます。
「まじない」は漢字で書くと、「呪い」と書き、恐ろしい「のろい」の術となります。
「呪い〜のろい」となると、人に災いをもたらすことを目的とする術ですが、「まじない」ということになりますと、反対に幸運をもたらす術となります。
そして、さらに「お」の字をつけて「おまじない」としますと、言葉がより柔らかく可愛らしくなり、罪の無いエネルギーのはたらきを促すものに変じます。
ここで言う「まじない」は、「魔事が無い」つまり「悪いことが無い」ようにと願った意味としてご紹介したいと思います。
稽古にある者は、本来、こういった「まじない」などの小技に頼る必要はなく、体の姿勢や行動、そして声までもが幸運をもたらす力を得ています。
このように、私たちは自他を幸せな気持ちにする技を一生懸命練っているのですが、稽古にご縁のない人々をはじめ、稽古人同士でも病の回復を願いあったり、旅の平安を祈ったりなどのときのために、役に立つ具体的な方法をいくつかご紹介いたします。
これで、少しでも人の心に不安が取り除かれ、笑顔が戻ることを願ってやみません。
そして、願わくば、いつまでも他力にすがらず、自力を強くして(稽古を行って)、少々の魔事に負けない力を得ていただく方向に進んでいただくことを希望いたします。
- 天津祝詞の印
別名が「十字の法」とも言います。
神界を形成する印で、空間のバランスを立て直します。
和良久の技は、すべて十字の印を刻んでいます。
ですから、ここで紹介する印は和良久の技の略式です。
右手の人差し指と中指を立てて合わせ、「アマノヌホコ」として以下の順序で印を切ります。
- 指をもって「天ー地ー結ー水ー火」と五箇所に打ち込む
- 円を二回描く
- 縦と横の線を描く
- 真ん中に点を三回打つ
- そこをつかむ
- 合掌
- 四拍手
- 両手で拳をつくる
- これを行う理由
- 心の不安を解消する
- 身の安全を確保する
- 守りたい人を思い結界を張る
- 物に対し聖なる力の宿ることを願う
- お祓いとして用いる
- 用い方
- 何らかの不安を覚えたら、とっさに行います。
- 守ってあげたい人が浮かんだら、その人を思い、印を切ります。
- 一回でいいのですが、不安がつのるなら気が治まるまでやってもよいでしょう。
- 人に限らず「家」「土地」「国」「物」など対するものは問いません。
- 祓いと同時に決壊を張る術でもあるからです。
- 別のやり方
3の「つかむ」動作を、普通は手のひらを正面に向けてやりますが、これを手前に返して、逆向きに行う方法もあります。
これは、災難を避けたいときに使います。また、特定の人との関わりを避けたい時にも用います。
- あわじ結び
「ア」は「天」、「ワ」は「地」を、また「ア」は「あなた」、「ワ」は「わたし」を意味します。
広義には「陰と陽」、または「火と水」の結びなど、相反する二つの存在をつなぐ「大いなる和の成就」を意味します。
稽古人の皆様には、皆、この「あわじ結び」を習得していただきますれば幸いです。
あわじ結びは剱の描く螺旋運動を、一目で表現できるものだからです。
「和良久の技ってどんな動きですか?」
そう問われた時には「あわじ結び」を見せますと、「これが和良久です」と一言で表現できます。
和良久の剱、すなわち言霊の力は、虚空に「あわじ結び」を行っています。
すべてをつなぎ、丸く治め、平和をもたらす技、これが天地を釣り合わせるツルギの技ですが、螺旋のツルギの動きが実は「あわじ結び」なのです。
また、あわじ結びを心をこめて作成出来ますと、これがお守りになったり、おまじないにつかったりと用途は広くなります。
あわじ結びは、底が左右に大きく開いています。
これは無限に運気を取り込む形です。
開運のために用いることが主となります。
あわじ結びを作る材料は、紅白の水引紐、金銀の紐、または麻の茎を乾燥させたものなどを用います。
- あわじ結びの結びきり
あわじ結びを麻でつくり、下二箇所をつないで結びきりにし、四葉のクローバーのような形にします。
高天原の螺旋を表すしるしです。
愛する人、守ってあげたい人のために心をこめてつくり、これに「天津祝詞の印」を切って念を入れます。
最後にご神前にお供えし、天津祝詞の太祝詞ごとを奏上します。
神棚がない場合、天に向けて供え、祝詞を奏します。
捧げた後、差し上げます。
- 結界
麻で作ったあわじ結びの底を結び、いわゆる先ほど紹介した結びきりを「八つ」つくります。
そして、天地結水火の印をし、神様にお供えして祝詞を奏上し、これを、家の八方に置きます。
置く場所は、フトマニノミタマの75声を表す図を参照します。
縦線の上下、横線の左右、右から左の斜線の端々、左から右の斜線の端々・・・これら八箇所に配置させます。
- 竜神
あわじ結びの下二本を伸ばし、二本をよって一本にします。
これによって、竜神を象ります。
作成後、天地結水火の印を切り、念をこめ、最後、神様にお供えします。
より、活動的に立ち働く人のためのお守りです。
- 巻き結び
手や足の指に、麻の紐を二重に巻きつけます。
手なら人差し指か、もしくは中指に麻紐を巻きます。
足なら、親指に巻きます。
これは、集中力を高め、潜在する能力を表に出すときに用います。
古代のテーピングと思っていただけれよいでしょう。
巻き付け方は俗に言う「徳利結び」です。
人に備わる螺旋の力をいっそう引き出す効果があります。
- 人型
麻で人の形に結びます。
人型は、「人の代わり」に用いるものです。
たとえば、亡くなった人の霊魂を招いて「よりしろ」とし、供養のために使います。
また、人の「身代わり」として、人型で病気や怪我の箇所など、悪いところをさすって、息を吹きかけ、厄難を人型に写します。
そして、川や海に流したり、火で焼いたり、または土に埋めたりします。
このように「大難を小難に、小難を無難に祀りかえる」ものとして用います。
時に、人型を恨みを抱く相手と想定し「のろい」の術として用いることもあります。
これは、決して行ってはなりません。
人をのろうことは自分や自分の身内を地獄に落とし込むことになります。
- 切り麻
麻は邪気を祓う作用をもつとされています。
これは天津菅曾に由来します。
天津菅曾は、宝剱の力を現すものです。
神社などでお祓いと言いますと大麻(おおぬさ)という道具を使います。
大麻は、八角形の棒に麻の束と、螺旋の形を表現するたくさんの細く切った切紙が縛り付けられたものです。
その大麻を邪気を祓う対象に向けて「左右左」と打ち振ります。
この大麻は「アメノムラクモノツルギ」「クサナギノツルギ」を表すものです。
ですから、八力を表す八角形の棒に、螺旋を表す切紙、そして破邪顕正を表す麻が使われています。
麻は捨てるところがありません。
糸につむいだり、縄を結ったり、活用は様々あります。
麻の切りくず、すなわち「切り麻」は、残しておき、大地に撒いて、土地の邪気を祓います。
山を歩いたり、気の悪い土地に入って、急に悪寒が走ったり体調を崩した時にもそれを撒きます。
このとき、十字の法印を切ることを併用します。
また麻は、聖水や塩と同様の用い方をします。
切り麻、聖水、塩などの撒き方は、十字を切るように撒きます。
「縦に打ち下ろすよう、横に祓うように」
- 聖水
麻がない場合、水や塩を聖なるものに変えて用います。
聖水の作り方は、神に捧げることによって作成します。
水を綺麗な器に入れ、十字の法印を切り、天津祝詞を唱えます。
または、水を入れた容器にあわじ結びを施します。
これらは、天津宮言の表の「ス」の印上に水を入れた容器をおくと、より効果的です。
近年では、新しいペットボトルに入った水、いわゆるミネラルウオーターで緊急の時の用に役立ちます。
塩も水と同様の方法で行います。
- 御守
- A4でもB4でも結構です。白い紙を用意します。
- 紙の中央に、守護を願う人自らが名前を書きます。
縦書きでも、横書きでもけっこうです。
- 書けたら、今度は主催者が紙に「天、地、結、水、火」と書きます。
「天」は紙の上部に、「地」は紙の下部に、「結」は紙の中央に、「水」は紙の右に、「火」は紙の左に書きます。
- 次に、天と結、結と地の間にそれぞれ直線を引きます。次に、火と結、結と水の間にもそれぞれ直線を引きます。
- また、次に、天と水、水と地、地と火、火と天に曲線を引いて四つをつなぎます。
- 以上が書けたら、紙に向かって「天津祝詞の印」をきり、拍手し、両手を握り締めて念を入れます。
- その紙の上に、名前を書いた者が右手を置きます。
- 次に、その手の上に主催者が右手を重ねて乗せます。
- もし、そのほかに人がいれば何人でもけっこうですので、右手を重ねて置いていきます。
- 参加者の右手をすべて置き終えたら、次に再度、名前を書いた者の左手をおきます。
- そして、その手の上に、先と同じように、参加者全員の左手を重ねて置いていきます。
- 全員置き終えたら「たましずめの歌」を3回ほどみんなで斉唱します。
- 歌い終えたら、全員で「ウ」と発して、重ねた手を一斉に押さえて念を入れます。
- その紙を神様にお供えして、天津祝詞の祝詞を奏上します。
- 祈り終わったら、その紙を適当な大きさに折りたたんで、守護を願う者に渡します。
- 鎮魂(たましずめ)の歌
「アオウエイ」を繰り返すという、五つの音だけで構成された単純な歌です。心に不安を覚えたり、気持ちを立て直すときに静かに歌います。
アは、愛すなわち幸魂の音。
オは、親すなわち和魂の音。
ウは、省すなわち直霊の音。
エは、勇すなわち荒魂の音。
イは、智すなわち奇魂の音。
「やまとだましい」と言われる一霊四魂を表す音です。
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最後に・・・
以上に、和良久の技から割り出した様々なおまじないをご紹介しました。
稽古人の皆さんは、和良久を稽古していますので、まじないは必要ありません。
これらは、あくまでも人々に安心を与える一つの術として心得ていてください。
あまり、おまじないに凝るのは感心しません。
また、これらを専業にするのは間違っています。
このことによって金品を強要したりするなどはもってのほかです。
日ごろから神仏を敬い、信仰に励むことが大切なのは言うまでもありません。
信仰心をさておき、日々の稽古を怠ってまじないに入り込み過ぎると、魔道に落ち込む原因となります。
なぜなら、こうした「まじない」の力の元は神仏からの力あってのことなのです。
神仏を忘れて物だけに心をかけ過ぎることは、それこそ本末転倒です。
確かに以上のおまじないはよく効きます。
しかし「これは私のおかげです」などという恩を人に着せてはなりません。
それによって、まじないを施した者は道を踏み外すことになります。
あくまで、おまじないは神とつながる手段であり、より信仰心を厚くするためのきっかけだということを忘れてはなりません。