2016.06.28  

            第151話  「技は言霊の習得と同じ」

75剱の技を習得する段階は、人が言語を覚えるようなものではないかと思います。

例えば日本語を知らない人に「ありがとう」という言葉を教えるとします。

私たちはまず一つ一つの音を正確に発声させることから入ります。


「a」「ri」「ga」「to」「u」


各音の発音がはっきり出来たら、次にその音を滑らかにつなぐよう教えます。

「アリガトウ」


これでやっと言葉になります。

しかし「アリガトウ」という言葉はどういった意味で、どんなときに使うのかが解らなければロボットが発するように無味乾燥なものになってしまいます。

人は生きています。そして人は感情の生き物です。

「アリガトウ」というのは感謝の気持ちを伝える言葉ですから、謙虚な姿勢で、しかも嬉しそうに頭を下げて話さなければいけませんよ・・・と教えます。

そうすると「アリガトウ」という言葉に魂が吹き込まれ命が宿ります。

「有難う・・・」

感情のこもった一言が生まれます。

ここで初めて単なる音が「心の声」となります。

言葉に魂が宿る・・・これが言霊です。

嬉しいときは嬉しそうに語り。

悲しいときは悲しそうに語る。

心の色がそのまま音に乗って出てくるのです。

だから相手に伝わるのです。

声は心の枝です。その枝に葉があり花が咲き実がなるのです。


     〇


さて、剱の技もかくの如くです。

技を学ぶのであれば、まず八力の一つ一つを確かに出来るようにします。

75剱の「ア」の剱であれば、「凝・凝・解・解」と一つ一つ確実に八力が現せるようにします。

次に「凝凝解解」と線をつないで剱を滑らかに動くようにします。

そして、「ア〜〜〜〜」と声の波に乗せて剱を動かします。


     

声を出すと呼吸の働きがストレートに剱に現れ、剱に心がこもります。

声は人により色々と特徴があります。「声色」といって声にも色があるのです。

同じ声は二つ無いように、同じ「ア」の剱も二つ無いのです。

言霊は個性です。

言霊は光と言われています。

人それぞれにその光がいかに輝くか見届けてください。

八力は同じですが、八力から放たれる力の波は人によりさまざまです。

世界に一つしかない自分の中に眠る言霊の力を表に現す、これが稽古の目的です。

     

その昔、神々は言霊の秘密(天津宮言)を隠そうとされ、会議をされました。

心が荒んだ人々が言霊を悪用することを恐れたからでした。

「さて、果たしてどこに隠せばいいのだろう」

「深い海の底に沈めましょう」

「いや、高い山の上に隠そう」

神々たちは場所をめぐってさまざまの意見を出し合います。

思案に暮れるおりしも、ある神様が発言します。

「たとえどこに隠そうとも欲深い人々は必ずそのありかを見つけるに違いない」

「ならばどうすればいい」

「私は最も見つけにくい場所を知っています」

「それはどこか」

皆の目が一斉に一人の神に集中します。

「人の心の中です」

「心の中?」

「欲に目がくらんだ人はおのれの心の中を見ようとはしません」

「なるほど」


神々の意見は一致し、言霊の秘密を人の心の中に隠すことにされました。

その後、神は童謡や神話のなかに隠し場所のヒントをちりばめ、今に至ります。

「かごめかごめ・・・うしろのしょうめんだあれ・・・」

「青い鳥は遠い国にいるのではなく自分たちの鳥篭の中にいた・・・」