2007/06/4  

8話 政治の世界へ

北新地は、大阪最大の飲み屋街。東京で言うと銀座のようなところで、高級クラブなどが立ち並ぶエリア。

時はバブル経済時代ということもあり、夜な夜なたくさんの人で賑わっていた。

 僕が働いた店はラウンジと言われる種のお店で、従業員は僕以外全て女性でした。僕はチーフと呼ばれ、つきだしやセット(氷やグラス等)の段取りや接客担当の女性従業員のシフトの管理などお店の運営に係わることの多くを担当しました。
 いろんな水商売をしてきたけど、脇役的な担当で、しかも女性社会での水商売は初めてでした。

 お客様は僕から見るとお金持ちばかり。隠れ家的なこのお店では、いわゆる社用族というより、一人で来られる会社のオーナーさんや経営者、役員の方々や、自営業の方などが、自分のお小遣で飲みに来る方がほとんどでした。
 働きはじめてしばらくして、そのお店の空気にも慣れ、次第にそういったお客様たちにも可愛がられるようになりました。

 

貧乏学生である僕のことを知って「学費の足しにし」と、チップをくださるお客様。

「就職の時は、うちの会社に来い」と言ってくださるお客様。

「女の子はいい。チーフと話がしたい」と、カウンターに来てくださるお客様。

いろんなお客様に、可愛がっていただきました。

 また、僕の父親くらいのお客様たちは、酔う度に、いろんなお話をしてくださいました。


 「チーフ、人生ってな〜、誰に出会うか、何をするかで大きく変わるんやぞ〜」や、


 「カローラのプラモデルも、フェラーリのプラモデルも作るのは同じだけ手間がかかるんや。そやけどな、出来上がってくると、プラモデルとは言え、カローラはカローラ、フェラーリはフェラーリなんや。人生も同じやぞ。だからな、大志を抱くんや。わかったな。俺も裸一貫でここまできたんや。選んだもんが良かったんや」などなど…、

 

 数々の試練を乗り越えて来た方々の生の説得力あるお話には、とてもインスパイヤされたものでした。大学で学ぶ経済学より、僕にとってはとても有意義な講義でした。

 

 そのように、いろんなお客様たちと関わっているうちに、ある時、ある建設会社の社長さんに出会いました。その方とは、お店に来られるたびに、主に政治についてのお話をしていました。世の中に対する疑問や怒りをその社長さんにぶつけ、僕は世の中を変えたいと言っていました。

 すると、ある日、その社長さんから「政治家になったらどうだ」って言われました。そして、「伸介の考え方は革新系で俺とは考え方が違うけど、俺は自民党員だから、自民党の代議士は紹介できる。だから、伸介の場合、血筋も学歴もお金も何も無いが、代議士の秘書として頑張れば政治家になれる可能性はあるから、こんど代議士に会ってみたら良い」と言われました。

 

 僕のような人間が秘書になれるかどうかは、全くイメージはできなかったけど、その社長さんのお話を聞いて、政治の世界を見たかった僕は、その代議士さんにお会させていただくことになりました。タイミング良く、その代議士のパーティーがあったので、そこにその社長さんと出席することになりました。

 

 まともなスーツを持っていなかった僕にその社長さんはスーツ一式を僕にあてがってくださり、パーティー当日、当時の大阪ではNo.1のホテル・中之島のロイヤルホテルへと向かいました。

 初めての体験でドキドキしました。宴会場に続くエスカレーターを上がると、左右一列に、その代議士さんの後援会の人たちがズラっと並んでお辞儀をしていました。その雰囲気に圧倒し、驚いてしまいました。天井の高い広い宴会場には、身なりの良い紳士たちがたくさん来ており、恐らく最年少であろう僕は、その場ではとても浮いていたように思いました。よくよく見ると、テレビに出てくるような関西を代表とする大企業の社長さんたちも来ていました。心の中で、「あの人も、あの人も、自民党なんだ」と確認していました。

 

 そして、いよいよその代議士さんが現れました。シルバーグレイの髪をしたそのダンディな紳士は屈託の無い笑顔で、来場の皆さんに挨拶して周っていました。それに合わせて、企業家の社長さんたちがドッと、その代議士さんを取り囲むように群がっていました。

 

 当時の僕はその光景を冷ややかに見ていました。それは、まるで、利権かお金に群がっているハイエナのように見えたからです。ここに来ている大人たちは、本当に日本を良くしたいと思っているのだろうか?自分たちだけ良ければ良いと考えているんじゃないだろうか?と見えるくらい、僕は寂しく感じました。

それは、政治の世界のほんの一片の一片だったのかもしれないけれど、ここに来ている大人たちのエネルギーの矛先が別のものに向かえば、世の中はもっと良くなるのに、もっと美しくなるのに…、もったいない、と感じました。

 

 しばらくすると、僕と一緒に行っていた社長さんが段取りしてくださっていたのでしょうか。その代議士さんは僕の目の前に現れました。手を差し出してくださり、「ようこそ」と。そして、挨拶もそこそこに、その代議士さんは僕に質問をしてきました。「君は何を考えている?」のような質問でした。

 

 そして、僕は、だだ一言だけ言いました。

 

「今日来て、余計に日本のことが心配になりました」と…。

 

 その代議士さんも社長さんも、顔色が変わってしまいました…(つづく)

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