2007/03/26  

16話 仕事を前進させる(3)

相手の聴き方は自在に創ることができる

 

どのように力づけられるのか

 人にさまざまな聴き方があるのなら、どのように言われると力づけられるのでしょうか。

あるいは、どのような意図から話せば、勇気づけられるのでしょうか。

 

勇 −「目標を達成したね!おめでとう!」

 勇の聴き方の強い人は、「がんばったね」と言われても嬉しくありません。達成するまでは、「まだまだできていない」と思っているからです。目標に向かって頑張るのは当たり前のことなのです。辛さに耐え、困難を乗り越えて達成することが喜びなのです。達成したときに、目標を達成したことを誉められることが無上の喜びとなるのです。

 

達成の途上では、「必ず目的は達成できる。どんな困難があってもやろう」、あるいは、「あなたの志、覚悟はすごい」と言われると力づけられます。勇の聴き方が強くなるにしたがって、大義のために自分が礎になること、さらには命を投げ出すことさえも辞さないと思うようになるのです。

 

親 −「皆が喜んでいたよ」

親の聴き方の強い人は、皆の平和や調和を求めています。皆のために役割を果たすためにいぶし銀のように地道に活動しているので、「君がいたからこの場が作れたよ。だから皆がうまく回っている」という意味のことを表現されることが喜びなのです。「この場を創り支えているのはあなただ」と言われると嬉しいのです。

 

自分があまり目立つことを好まず、さりげなく誉められたいのです。また、個人的に誉められるより制度に則って評価されるほうが嬉しいのです。

 

愛 −あなたといると幸せな気持ちになる

愛の聴き方の強い人は、一生懸命やっている想いを「あなたにわかってほしい」と思っています。モノをもらうのも嬉しいのですが、それに付随する気持ちが嬉しいのです。モノにカードが添えられ気持ちが表現されると嬉しいのです。

 

したがって、「あなたのおかげで助かった」「ありがとう」「感謝している」などの気持ちを表現する言葉に、感動するし、さらにあなたのために頑張ろうと思うのです。愛の人がいるからこそ、暖かい、思いやりや感動のある世界になるのです。

 

智 −さすが、よく知っているね

 智の聴き方の強い人は、自分の能力や技術、アイデアの巧みさを認められたいと思っています。自分が評価してもらいたいところを誉めてもらわなければ意味がありません。自分の工夫したところ、自分がこだわっているところに焦点が合わなければ、それほど嬉しくないのです。また、知っている分野を誉められたり意見を求められたりすることは、喜びなのです。

 

自分が認めている人から誉められると嬉しく、しかも認めている人であっても、その認めている分野で評価されたいのです。「あなたの情報によって結果が出た」「さすが工夫されているね」という意味のことを言われることは喜びです。智の人がいるから、物事が深まり、世界に深遠さと進歩がもたらさせるのです。

 

会議を進める

お互いに気持ち良く、生産的に仕事をするために、どのように話し合いや会議を運営したらよいのでしょうか。会議の席で、勇の聴き方の強い私が、「智」の人によく腹を立てたことがありました。

 

典型的な例でお話しましょう。それは、私がある計画を「実行に移したい」と言ったときのことです。すると首をかしげながら不満そうな顔をして、「もっと考えてから。慎重にするべきです」というのです。

 

このようなとき、私は、自分のやりたいことが邪魔されているように聴こえてしまうのです。「やってみないで初めから結果がどうしてわかる。理屈ばかり言うな」と、思わず机を拳でドンと叩いてしまいました。

 

「愛」の人たちは、「上司の私にやらせてあげたい」と思うか、「どうして自分に事前に話してくれなかったのか」と思います。「親」の人たちは、様子見をして大勢に合せるという図式になってしまうのです。

 

そうすると「智」の人たちは黙ってしまい、心のなかで「バカだな。何も考えないで無駄なことばかりしている。間違いなく失敗する」と思うのです。そして、私を軽率でモノを考えないダメな上司だと思うのです。

 

「智」の人は「それは成功するだろうかと吟味し、もっと他に効率的なやり方がある。こうすれば無駄がないのに」と考えながら聴いているのです。「智」の人は、さらには自分の考えを基本的には聴いてもらいたいのです。

 

これは笑いごとではありません。組織にとっては深刻なことです。

 

このようなことがわかるまで、私は自分の言ったことに対して、首をかしげられるだけでムカッとして、ときには怒鳴っていたのです。しかし、「智」の人が、自分なりの考えを検討しながら聞くという聴き方をしていると気づいたとき、私の会議の場は、劇的に変化したのです。勇、親、愛、智の全ての聴き方で吟味しないと、計画はうまくいくはずはないのです。

 

このようなとき、「どうしたらうまくやることができるのか、教えてほしい」と「智」の人たちに言うと、喜んで自分の考えを述べてくれます。つまり、「智」の人は、いつも「こうしたらうまくいく」「モット他にやり方があるはずだ」と分析しながら聴いているのです。

 

「智」の人たちからの意見は、私が達成したいと思っていることに役に立つことになるわけです。この聴き方を知ったことによって、以前は腹が立っていたことでも、腹が立たなくなってきました。本当に怒る回数が劇的に少なくなっていったのです。

 

 逆に、「智」の人は、「勇」の上司に常に「邪魔をしているのではない」という聴き方の構えを創って話をする必要があります。「私の意見は、目標を達成するために役に立つと思いますので、まず聴いていただけないでしょうか。さまざまな角度から検討すると、その企画の成功の確率は高まります」という意味の話をするのです。

 

また、「勇」は、黙って場を伺っている「親」の人には、「自分の意見はないのか!はっきりと言え」という代わりに、「「この計画を皆で成功させるために、どのような役割を果たせるのか聴かせてほしい。ここで自分の考えを言うことは皆が成功する道だ。役割に徹してほしい」という意味のことを伝えます。

 

「親」の部下は、場に適切かどうか、皆から浮かないかどうかと心配でなかなか意見がいえないのですが、自分の意見をもっと言うことが、むしろ「勇」の上司に歓迎されるのです。「親」が自分の意見を話すときは、恐る恐る話しがちで、そのため「親」の話し方は自信がないように聴こえてしまいます。自分が、どのような役割を果たすのかをはっきりと言うことが大切なのです。

 

「勇」の上司は、「愛」の部下の聴き方には、「あなたと一緒にやりたい」という意味のことを訴えます。事前に個人的に話しておくことも大切です。

 

また、「愛」の部下は、情熱的で上司のみに目が向いてしまいがちで、周りに何が起こっているのか、場を観ることが不得意なので、「勇」と「愛」だけで情熱的に盛り上がってしまい、場は白けたものになるかもしれません。場の空気を読みながら、ここぞというときに応援の言葉を発すればよいのです。

 

私の会議のやり方は、一変しました。なぜなら、相手の世界に訴える場を創ることができたときには、皆が積極的に提案し、お互いの仕事は協力的になり、結果的に、私の意図である目標達成を促進することになったからです。

 

もうあなたは、なぜ会議がうまくいかないのかのセンスがつかめてきたのではないでしょうか。

「愛」と「勇」だけでは盛り上がっただけで現実化しない。そこで「智」と「親」だけでアイデアや計画を練って「親」が取りまとめても、「勇」がいないなら、誰も責任をとって果敢に実行する人はいない。「愛」も論理だけで進められても応援しないでしょう。

 

「勇」がリードし、「智」がアイデアをだし、「愛」が情熱的に応援し、「親」が役割をまとめて実行の構造を創ることができたら、すばらしいですね。これは、なにも4種の人が必要だと言っているのではありません。自分の中にある勇親愛智を、場を観て、どれを出すべきなのかを判断し、適切に出すことができれば、話し合いや会議は大きく前進していくことでしょう。

 

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