2007/09/24  

27話 高度な審判が必要 (最終回)

あなたが危機的状況に陥ったときに限らず、あなたの経済的、精神的な力がつけばつくほど、つまり、あなたが成功し人間として成長すればするほど、「悪なる声」は、さらに巧妙に善の仮面を被って現われてきます。そうなると、あなたは、その声が善なる声なのか、悪なる声なのか、ますます見分けがつかなくなってきます。大きく三つの巧妙な仮面があります。

 

●自分は正しいという声

人間として精進し努力すればするほど、以前の自分と比べて適切な行動をし、仕事の結果も出るようになってきます。それと同時に、あなたには一生懸命やればやるほど、「自分は正しい」という声が聴こえるようになるのです。

 

つまり業績が上向けば上向くほど、自分のやっていることが正しくなり、自分を省みる「本当の自分」が弱くなってしまうことになります。

 

 「自分は正しい」「自分は全力でやっている」という大きな声が聴こえてきたとき、あなたは最大の危機に身を置いているのです。

 

このとき、実は、「悪なる声」が「善なる声」を圧倒し、「本当の自分」の審判をする機能が働かなくなっているのです。どんなに好調なときでも、いや好調なときこそ、自分の内なる声を「スーパーリスニング」で、常に省みる必要があります。

 

自分はダメだという声

 「自分は正しい」という声とは対極に、「自分はダメだ」「自分は間違っている」と反省ばかりしている人がいます。私の友人にも、このような経営者がいて、常に自分を反省し、ものごとがうまくいかないことを「自分の責任だ」と自分を責めていたのです。

 

 一見誠実で人の責任にせず、常に反省するすばらしい人と見えるのですが、不思議なことに、反省はするのですが仕事が発展していかないのです。「仕事や人間関係がうまくいかないので、常に反省だけはしている」というのですが、どこか覇気が感じられず、暗く感じるのです。

 

 私の主宰する道場では、悪なる声は「善の仮面」を被ってやってくるという話をし、さらにそれらを聴き分ける練習をしています。そのとき、彼は「自分は間違っている」「自分の責任だ」と自身を責めるばかりで、何も行動していないことに気づいたのです。なんと今まで自分が「善」だと思ってやってきた「反省」は、「悪なる声」に基づくものだったのです。

 

注目すべきは、二ヶ月後に彼に会ったときには、彼の顔は明るく爽やかで、仕事も上向きになっていたのです。

 

 自分を反省することは大切なのですが、その反省するという人間のすばらしさにも、悪なる声は訪れるのです。

 

●善も悪も無いという声

 ここまで読んできて、「善と悪など単純な分け方をすることなどできないよ。実際には、何が善で何が悪かなんて決めることはできない。真実は、善悪不二だ」という人もいるかもしれません。

 

 確かにそれは「真理」だと思います。しかしその「真理」にすら、悪なる声は「善の仮面」を被ってあなたに近づいてくることがあるのです。例を挙げて考えてみましょう。

 

 私はかつて新幹線のグリーン車に乗らないと決めていました。あなたは、このことは、善だと思いますか、それとも悪だと思いますか。

 

「難しいですね」「何とも言えないですよね」という声が聴こえてきそうです。

 

 当時、バブル経済が崩壊し、私の会社も大きなリストラをしていました。社員に大きな犠牲を強いているのだから普通車に乗って経費を節減するのは、私ができる当たり前のことだし、善だと思っていました。

 

しかし普通車の席に座りながら変な声が聴こえてきたのです。それは、グリーン車に乗っている人たちに対する私の内なる声でした。

 

「日本全体がバブル崩壊で苦しんでいるのに、こんなときにグリーン車に乗るなんて、経営者としておかしいのではないか」

 

私には普通車に座っているときに、「社員も苦しい思いをしているのだから」という声と「他の経営者を批判する」という二つの声が聴こえていたのです。

 

どちらが善でどちらが悪なのかは、ここでは書きたくありません。ただ言えるのは、同じような行動をしていても、その時どきで、自分の想念、あるいは意図が違うということです。つまり、同じ行動をしていても善の場合も、悪の場合もあるかもしれないのです。

 

私は、「善も悪も無い」というのは論理的にはあり得ると思っています。でも「本当の自分」、つまりあなたの魂は、自分の行動が善からくるか悪からくるかを知っていると思います。ただ、「スーパーリスニング」が未熟なために、惑わされているのではないでしょうか。

 

外的にそれを見分ける基準があります。人生は選択の連続であり無数の選択をしてきています。その選択の比率が、51対49で、善なる声>悪なる声になったときに、私たちの外見に、人生に結果が現われてきます。

 

その運命比率は、51:49です。

 

それを審判する基準は、「仕事がうまくいっているかどうか」「人間関係がうまくいっているか」「明るく爽やかかどうか」「姿や顔がその人らしく美しいかどうか」です。自分で鏡を見てみるのも良いと思います。また、あなたの友人や親もそれを指摘しているはずです。

 

「あれ、自分はおかしいな」と感じたら、この運命比率が崩れていると思ってください。そして、自分の声を「スーパーリスニング」で審判して、51:49以上に自分の選択をしてみてください。あなたの姿はあなたらしく美しくなり、人間関係や仕事は改善し、運が開けていくでしょう。

 

「本当の自分」がやるべき最も重要な課題は、善悪二つの声のどちらが正しいのかを、審判し、正しい決断をすることなのです。自分の耳を研ぎ澄ますために、四つの聴き方を修得する必要があるのです。四つの聴き方を日常で訓練することで、だんだんあなたは、「悪なる声」に惑わされなくなります。

 

これは魂を鍛えることを意味し、本当の自分を高めていくことに他なりません。いま私たちには、具体的に魂を磨き自分を高めていく方法を持っていると思ってください。私たちは、聴き方を訓練しスーパーリスニングを高めていく過程で、本当の自分を確立していけるのです。

 

 長い間、読んで頂きありがとうございました。

 

この「四魂の窓」を連載する過程で、中経出版より出版の話が持ち上がり、9月20日には、「人の心が手に取るようにわかる」という題で、大幅に加筆修正された形で出版されました。

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また、読者には抽選で100名を出版記念講演会にご招待します。

 

次には、私のライフワークである「サムライ時間」の執筆に取り掛かりたいと思います。

 

 

                                初秋  出口 光

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