第16章ー1 規制大国と自由の国 その1
悪性胸腺中皮腫(Mesothelioma Lung Cancer)というガンを患い、米国(アメリカ)の通常療法の医師たちに1979年、治療不能と断定されたハリウッドの大スター、スティーブ•マックイーンはメキシコにわたり、1980年7月、自然療法の医師団による治療を始めた。ウイリアム•ケリー博士もアドバイザーのような形で、この医師団に参加していたようだ。 この医師団の中でマックイーンの主治医の役割を勤めた医師の証言によれば、 マックイーンのガンはこの時、腹腔(Abdominal Cavity)にまで転移していて、容体はかなり悪かったが、徹底した解毒、酵素やレートリル(いわゆるビタミンB17)などの栄養素による治療を始めてすぐに、病状は相当改善したそうだ。
ところが、アメリカに帰ったマックイーンは、腹部の腫瘍を取り除く手術をする決心をし、再びメキシコに行った。手術で腫瘍を取り除いてしまえばガンはすぐ治る、と耳打ちした医師がいたからだ。腹部の腫瘍のふくらみを取り去って、映画に少しでも早く復帰したかったマックイーンは、この医師の手術を受けるため、 メキシコの地方の町(Ciudad Juarez)の小さな病院に、偽名を使って入院した。
メキシコの医師たちは、マックイーンのその時の状態では、手術は非常に危険であるだけで治療の役には全く立たないから止めて、栄養素療法を続けるよう必死で説得にかかったようだ。しかしマックイーンは1980年11月7日に手術を受け、カリウム不足に陥って心臓が止まり、その日に亡くなった(<補足16-1>)。
政府組織のFDA(食料医薬品局)やAMA(米国医療協会)が目を光らせ、通常療法以外はがんじがらめの”規制大国”アメリカに対し、ガン治療の”自由の国”はお隣のメキシコだ。 このメキシコには一般の人に混じって、かなりの数の映画スターやスポーツ選手などの有名人、政治家とその子息、皇室の家族などが、ガンの治療に訪れている。また、ケリー博士など、FDAや医学会の追及をかわすために、アメリカを飛び出してメキシコで治療をする医師もいる。
メキシコには、ガン治療に通常療法以外の療法を手がける病院やクリニックが現在は30ほどあり、そのほとんどが、アメリカと国境を接する西海岸の町、ティワナに集中している。治療に訪れる人の大多数がアメリカからで、立地がいい、というだけではない。外国企業を誘致するために、メキシコの中でもこの町は特に規制が緩い。どの病院もアメリカと同じように、当局の監視を受けてはいるが、ガン治療にはほとんどすべての療法が認められている。
メキシコでガン治療に、ビタミンB17と呼ばれるレートリルなど自然の栄養素の使用を始め、自由治療の土台を作った最大の貢献者はアーネスト•コントレラス(Ernesto Contreras)医学博士だ(<補足16-2>)。博士の跡を継いだ長男のフランシスコ•コントレラス(Francisco Contreras)医学博士は、「治療に有効であると判断したら、どんな療法も積極的に取り入れる。アメリカでは、たとえその療法をFDAが認めるにしても、正式に認可されるまでに5年や10年はかかるだろう。ガンが、それを待ってくれるわけではない」と強調する。
ティワナの医師たちは、特に一つの療法にこだわっていない。 ワクチン療法(<補足16-3>)、温熱療法(<補足16-4>)、オゾン療法(<補足16-5>)、酸素療法(高気圧の高濃度酸素室、<補足16-6>)、音波光周波療法(<補足16-7>) 、幹細胞療法(<補足16-8>)などが、ガンの状態に応じて、続々と投入される。
さらに、ガン細胞を直接殺すか、増殖を止める”自然の薬”として投与するのは、レートリルを始め、大量のビタミンC(<補足16-9>)、イスカドール(<補足16-10>)、胸腺ペプチド(<補足16-11>)、アーテスネイト(<補足16-12>)、ユークレイン(<補足16-13>)など多種多様だ。やはりガンの状態によって、単独か、あるいは、いくつかを組み合わせて投与される。特にガン細胞を直接攻撃する”自然の薬”は、これをガン細胞内に効率よく運び込むDMSO(<補足16-14>)と一緒に投与したりする。
(次回に続きます)
<補足16-1>
メディアはスティーブ•マックイーンが亡くなった後、ウィリアム•ケリー博士が、マックイーンのガンは治ると公言したことばかりをとりあげ、博士の療法は無効だったといった論調の報道を展開し、博士を非難した。またメディアは、アメリカの医師たちがマックイーンに手術は危険だから止めるように説得したと書いているが、手術はアメリカの医師たちが使う方法であり、実際に止めようと説得したのは、アメリカの医師でなく、手術には最初から否定的な、メキシコの自然療法の医師たちだ。こういうときに限って、私は実は必死で止めたんだ、と言う人が必ず現れる。アメリカの医師たちがあからさまに止めたのは手術ではなく、メキシコで自然療法の治療を受けることだ。マックイーンの未亡人でファッションモデルだったBarbara Mintyは、メキシコの医師団に感謝する声明を出した。また、2006年に出版した自著の「Steve McQueen The Last Mile」(Dalton Watson Fine Books出版)の中で彼女は、アメリカの通常療法の医師や医学会を強烈に批判している。
<補足16-2>
1950年代からレートリルなどの研究をしていたアーネスト•コントレラス博士は、様々な療法でガンなどを治療するため1963年、ティワナにオアシス•オブ•ホープ(Oasis of Hope)病院を設立した。ガンなどの治療に通常療法以外の治療法を本格的に手がける病院としては、収容人数も医師、スタッフの数で見てもおそらく世界で最大級。博士は2003年に88歳で他界し、病院は息子たちが継いでいるが、アメリカで通常療法以外が思うようにできないことを考えると、メキシコにガン治療の自由を根付かせた博士の貢献は計り知れない。
<補足16-3>
ティワナのThe Rubio Cancer Center(院長はGeronimo Rubio医学博士)の主力のワクチン療法(Vaccine Therapy)は最初に、ガンを患っている人のガン細胞を採取し、ペトリ皿(シャーレ)の中で培養する。この培養液にタンパク質消化酵素を投与して、ガン細胞の周りを被うタンパク質の膜を引きはがしておき、同じ人の白血球からガンを攻撃する役割を持つT細胞を分離して、この培養液に投入する。防御膜をはがされたガン細胞は、T細胞の猛攻撃に、すぐにほぼ全滅するそうだ。これらのT細胞は、この退治したガン細胞の情報を記憶する。約1週間、この人にはタンパク質消化酵素をサプリメントで十分に与えておいて、培養液でガンを退治したT細胞をこの人の血液中に戻す。元の体に戻ったT細胞が早速、タンパク質の膜をはがされたガン細胞を攻撃するだけではない。免疫システムはチームとして働いているので、このT細胞が記憶したガン細胞の情報は共有され、この情報をもとに次々と、このガンを攻撃するためのT細胞が生産される。こうしてT細胞をワクチン化してガンを退治する、という療法だ。
<補足16-4>
Hyperthermia Therapy。遠赤外線などの熱によって体温を上昇させ、ガンを退治する療法。ガン細胞は高熱に弱い。体温が摂氏44度以上になると、人間の体のすべての細胞の活動は止まり、ほぼ死滅する、と言われている。体温が43度では、通常の細胞は生き残り、ガン細胞はほぼ壊滅するそうだ。ただ、この理想体温43度を維持するのは難しく、下手をすると44度に上昇して、通常細胞に大きなダメージを与える可能性がある。だから、普通は温熱療法によるターゲットは40度から42度だ。この範囲では、一部のガン細胞が死滅し、少なくともガンの増殖にブレーキがかかる、と言われている。この温熱療法の最高性能の機械はドイツ製だが、億円単位の値段で、ティワナでは今のところ、高すぎてとても手が出ないそうだ。
<補足16-5>
酸素原子3つが連結するオゾンの分子は非常に不安定で、すぐに酸素分子(酸素原子2個が連結)と酸素原子1個の単体に別れる。酸素原子の単体は極めて不安定で、場合によっては活性酸素(フリーラジカル)として害を及ぼす。オゾン分子が分解した直後の酸素分子と酸素原子単体に、不活発なミトコンドリアが出くわすと、単体の酸素原子の刺激を受け、酸素分子を早速使って熱エネルギーの生産を始める、という。オゾン療法の研究で知られるフランク•シャレンバーガー医学博士(Frank Shallenberger、ネバダ州カーソンでガンの治療に当たっている)は13年前(2000年)、体内に取り込まれた酸素がどれだけ有効にミトコンドリアで活用されたかを推定する装置を開発したそうだ。その装置によればこの13年間、「酸素を有効に活用している人でガンを患っている人は一人もいなかったし、ガン患者で酸素を有効に活用している人も今のところ一人もいない」と博士は打ち明ける。また、強力なフリーラジカルの一つである単体の酸素原子の刺激によって、細胞はフリーラジカルに対抗する最大の武器であるSOD(Superoxide Dismutase、フリーラジカルとしては最も強力なスーパーオキシドアニオンを水と過酸化水素水に分解する酵素)を盛んに製造する。シャレンバーガー博士は、「オゾンの投与は、ミトコンドリアの熱生産を促進することでガンの予防、そして治療につながるだけでなく、細胞を傷つけるフリーラジカルに対する防御体制の強化にもつながる、とても手軽で手ごろな療法だ。これを使わない手はないだろう」と強調する。
<補足16-6>
Hyperbaric Oxygen Therapy。高気圧の酸素室の酸素濃度をほぼ100%に上げる。血行が促進される上に、血液中に酸素が溶け込み、酸素呼吸をしていない嫌気性の微生物や、ガン細胞を退治するのに効果がある、と言われている。アメリカでは使用条件と酸素室の性能に規制がある(Undersea and Hyperbaric Medical Societyという団体が規制している)。このため、ドイツ製の最新鋭の高性能酸素室はアメリカ国内で使用が認められていない、という。
<補足16-7>
Sono-Photo Dynamic Therapy。特定の周波数の光と音波で化合物質を活性化させることによって、ガン細胞を退治する療法。もともとロシアで開発された、音光活性物質(SP-Activate)と呼ばれる感応物質(Sentitizer)は、藻類の葉緑素を基盤にした化合物質で、特定の周波数の超音波、特定の周波数のレーザー光、または全スペクトル光(全スパクトルの光を持つと言われる太陽光を模擬した、遠赤外線から紫外線の間のすべての周波数の電磁波を含む光)を受けると、活性化する。この感応物質は活性化すると酸素と化学反応を起こし、この酸素がフリーラジカルとなる。この感応物質は飲んで体内に入るとすぐに各細胞に吸収される。ところが、酸素呼吸が活発な通常細胞では24時間以内に細胞外に浸み出てしまうのに対し、酸素呼吸が不活発なガン細胞では浸み出ないでそのまま居残る、という。この感応物質を飲んでから24時間たったあとに、ガンの腫瘍が成長しているところに特定の超音波とレーザー光を照射すれば、あるいはいろいろな場所にガンが転移しているときは全身に全スペクトル光を浴びせれば、ガン細胞の中に残った感応物質が活性化して酸素のフリーラジカルが生み出される。こうしてガン細胞だけに的を絞り、しかも内側からフリーラジカルで攻撃する、という療法だ。全身温熱療法を併用すると、かなり効き目が上がるそうだ。メキシコのほか、ヨーロッパ25カ国でガンの治療に使われているようだ。
<補足16-8>
ティワナで行われている幹細胞療法(Stem Cell Therapy)は主に、成体幹細胞(Adult Stem Cell)を活用して、ガンによって傷ついた組織を修復し、回復を早めるのが目的だ。
<補足16-9>
通常は、主に点滴で一度に50グラム前後という大量のビタミンCを投与する。ビタミンCは、過酸化水素水を合成する働きがある。過酸化水素水は活性酸素(フリーラジカル)の一種だが、通常の細胞は過酸化水素水を分解して無害化する酵素(カタラーゼ、Catalase)を持っているのに対し、ガン細胞はこの酵素を持ち合わせていない。つまり、ビタミンCの大量投与はガン細胞に対しては非常に有害だが、通常細胞にはほとんど害を与えない。
<補足16-10>I
scador、西洋ヤドリギ(Mistletoe)の抽出物。ドイツではガン治療に使われ、そのドイツで生産されている。ルドルフ•シュタイナーも西洋ヤドリギのガンに対する治療効果を取り上げている。
<補足16-11>
胸腺のサプリメント。牛の胸腺のエキスが主成分。これによって、免疫システムの要のひとつである胸腺に必要な栄養が補給され、免疫力が強化される、と言われている。メキシコのほか、ドイツでもガン治療に使われている。
<補足16-12>
Artesunate、中国で大昔から伝わってきた薬草。毛細血管からガン細胞への血流を止める効果があるそうだ。レートリル(アミグダリン)、タンパク質消化酵素と併用すると効果が上がる、という。
<補足16-13>
Ukrain、薬草のクサノオウ(Chelidonium)を元にした半合成の薬品。
<補足16-14>
Dimethyl Sulfoxide。皮膚や細胞膜への浸透性が非常に高い有機化合物。特にガン治療には、ガンに対抗する物質を細胞内に運び込むのに使われる。メキシコのヘルベルト•アルバレズ医学博士はDMSOを、ガンに対抗する物質を細胞膜を通過させて運ぶだけでなく、血液脳関門(Blood Brain Barrier、脳の中枢神経の組織液と血液との間の物質交換を制限する機構)を突破して脳細胞に運ぶためにも使い、脳腫瘍の治療に実績を上げているという。