第17章―15 ガンの特徴と対策 その9
− ガンは遺伝子の狂いが
本当の原因か??? (4)
ガンはサバイバルするうえで様々なハンディキャップを背負い込んでいるうえ、私たちに発見されたら嫌悪され、直ちに切り取られたり、強力な毒(抗ガン剤)や破壊力のある放射線を浴びせかけられるなど、全くいいところはないようです。こう見ると、哀れみさえわいてきそうですが、ガンに同情なんてとんでもない、とあなたは言うかもしれません。でも、それを言われるなら、あなたはガンに対して同情以上のものを与えていませんか。
糖分の過剰摂取、100年以上前の人から見たら過剰どころか異常摂取は、ガンにとっては願ってもない大きな救いです。これだけ糖分を摂ってくれれば、エネルギー生産の大きなハンディキャッップは何の心配もいりません。
また、動物の肉を毎日せっせと食べるなどタンパク質をこれだけふんだんに摂取しているのも、おそらく人類の歴史上初めてだと思いますが、これもガンにとってはとても嬉しい援軍です。すい臓がタンパク質消化酵素を一生懸命に作りまくったとしても、ふんだんに摂取しているタンパク質の消化に使われきってしまっているでしょうから、余ったタンパク質消化酵素が血液に乗って自分のところに届き、免疫から身を隠しているタンパク質の膜を溶かされる(消化される)恐れはありません。マイナス(負)の電荷を帯びているこのタンパク質の隠れ蓑(みの)を溶かされたら、プラス(正)の電荷を帯びていることが免疫にばれてしまい、彼らの猛烈な攻撃を受けるのは間違いないでしょうから。
それ以外にも、たくさんあるガンのハンディキャップの穴埋めを、相当手伝っていませんか。とは言え、これらの手助けはあくまで、すでにガン化している細胞が増殖することの後押しで、細胞のガン化を引き起こすものではないようです。糖分を大量に摂取したから、タンパク質消化酵素が足りないからガン化するというわけではなく、いったんガン化した細胞がすくすくと成長するのをせっせと手伝っているだけです。では、ガン化を引き起こすのはいったい何か。それは遺伝子の変化、あるいは変異なのか。
ガンには、通常細胞にはない大きな特色があります。
(1) 周りの細胞との連携は無視して、細胞分裂を一方的に無制限に繰り返して増殖する。
(2) ミトコンドリアでのエネルギー生産が不活発、あるいは停止していて、非常に効率の悪い発酵方式でエネルギーを生み出している。
(3) 細胞膜の電荷がプラスであるため、免疫の攻撃を受けやすい。それを防ぐためか、腫瘍の周りをマイナス(負)の電荷を帯びたタンパク質の膜で覆(おお)っている。
この3つ以外にも、通常細胞が持っている酵素を持っていない、通常細胞が持っていない酵素を持っている、鉄を多く取り込み、鉄イオンが内部に多く存在する、などといった特色がガン細胞にはあるのですが、これらの多くは、ミトコンドリアの代わりに発酵方式のエネルギー生産をしているために生じた二次的な特色だと思われるので、私の知る限り、上の3つがガン細胞の主要な特色です(もうひとつ、体のほかの場所に転移するという大きな特色がありますが、ここでは省きます)。
このうち(2)の発酵方式のおそろしく効率の悪いエネルギー生産は、エネルギーが多く必要な細胞分裂には大きなマイナス要因です。また、(3)の細胞膜のプラス電荷のために免疫に叩き潰されやすいですから、やはりこれもガンの増殖には非常に不利です。つまり、どんどんと増殖しようとしているのに、それの足を大きく引っ張る要素を持っているという、かなりの自己矛盾をガンは抱えています。まるで、右足でアクセルを思いっきりふかしながら、左足はブレーキを強く踏んでいるというような、昔の自動車だったらすぐにオーバーヒートを起こしそうな運転の仕方です。
ガンの遺伝子説を唱えている人たちの多くは、(1)の特色ばかりに注目して、(2)と(3)はほぼ無視しているような気がします。もっとも、ガンを研究する人たちにとっては、(1)の無限増殖こそが緊急の問題で、それの足を引っ張る(2)と(3)はむしろ歓迎すべきことでしょうから、あまり研究の対象にはならないかもしれません。しかし、ガンが発生する原因を突き止めるのに、これらの特色を無視するわけにはいかないでしょう。
(1)が生じたために、(2)と(3)の特色が生まれたというなら、(1)を引き起こした原因こそが、ガンの発生原因だと言えるかもしれません。ガンの無限増殖は、細胞分裂をコントロールする遺伝子に変調(変異)が生じたか、無軌道な細胞分裂を促すいわゆるガン遺伝子が活性化されたかしたうえに、こうした変調や異常が起きた時に細胞の自爆(アポトーシス、Apoptosis)を促すいわゆるガン抑制遺伝子にも変調が起こって歯止めが効かなくなった、というのがガンの遺伝子説だと私は理解していますが、はたしてこれらの遺伝子の変化によってミトコンドリアのエネルギー生産が大きく鈍り(あるいは止まり)、さらに細胞膜の電荷がプラスに転じたのでしょうか。
この3つの特色がそれぞれ独立して発生したとは考えられません。それぞれ独立して発生したとしたら、例えば(1)の特色だけを持って、(2)と(3)のないガン細胞が存在する可能性があるはずです。エネルギー生産のハンディキャップを持たないうえに、細胞膜の電荷がマイナスで免疫の攻撃対象にならない無敵のガン細胞が出現したら、それこそ一大事かもしれません。ブレーキを全くかけずにアクセルを踏み続けるという、ものすごいスピードで増殖するまさに大暴走のガンです。ガン細胞に共通してこの3つの特色が生じるとしたら、この3つは連動して発生しているはずです。
細胞のガン化の原因が遺伝子でないとしたら、ミトコンドリアの不調が原因だという説が一番もっともらしく見えます。ミトコンドリアは、アポトーシス(細胞のプログラム死)と呼ばれる、細胞核の傷などの異変が修復不能だと判断すると自殺する機能にからんでいますから、ミトコンドリアが不調だと、このアポトーシスが機能しなくなるかもしれません。つまり、遺伝子が異変を起こした場合の最後の歯止めが効かなくなる可能性があるということです。
そして、崎谷博征(ひろゆき)医学博士のおっしゃる通り、発酵方式のエネルギー生産のスイッチとなる遺伝子が無制限の細胞分裂の引き金となるガン遺伝子であり、発酵方式を始動するためにこれらのガン遺伝子が活性化されたのだとしたら、ミトコンドリアの不調は、発酵方式によるエネルギー生産のスイッチを入れるために無制限の細胞分裂を誘発し、さらにアポトーシスも効かなくなって暴走の歯止めも効かなくなる、という筋書きが見えてきます。
ただこの説で私が引っかかるのは、細胞ひとつに数千個もあるミトコンドリアが、一体何が起こったら、一斉ではないにせよその大半が不調になるのか、ということです。何千個のうち、どのくらいが不調になったら発酵方式のエネルギー生産が始まり、どのくらいが不調になったらアポトーシスが機能しなくなるかが私には分かりませんが、ミトコンドリアは自分のDNAを持っていて、細胞分裂のような自己増殖ができるため、いざとなったら数を増やせますから、多少の数のミトコンドリアが不調になっても、自己増殖で調整できるはずです。と言うことは、多少の数の不調ではなく、数千のうちの多くが不調である、と考えた方がよさそうです。
どうなったら、何が起こったら千個単位のミトコンドリアがいっぺんに(あるいは徐々に)不調になるのでしょうか。ミトコンドリア説では、ミトコンドリアの不調の原因に酸素不足をあげる人が多いようです。
確かに酸素の少ない状況では、細胞は、酸素が必要なミトコンドリアでのエネルギー生産をあきらめて、発酵方式を起動させるようです。しかしこれは、酸素が相当少ない場合であり、酸素が戻れば、ミトコンドリアでのエネルギー生産が復活するはずです。また、ガン細胞が発酵方式のエネルギー生産をしていることを突き止めたオットー・ワールブルク(Otto Heinrich Warburg)医学・生理学博士によると、ガン細胞に十分に酸素を送り込んでも、発酵方式のエネルギー生産を続けるそうです。
ミトコンドリアの不調は、細胞の中に侵入してきた微生物のせいだ、と主張する人たちもいます。微生物がミトコンドリアに行くはずのブドウ糖を搾取し、さらに微生物の排泄物で次第にミトコンドリアの周りが覆いつくされ、ブドウ糖も酸素もミトコンドリアに到達しなくなり、ついに操業停止に追い込まれる、というわけです。しかし、ブドウ糖を微生物に搾取されたら、これがほぼ唯一のエネルギー源である発酵方式はもっと不利なはずです。それよりも、発酵方式を採用したために多くのブドウ糖を取り込まなければならないようになり、そのブドウ糖めがけて微生物がやって来た。つまり微生物のせいでミトコンドリアが止まったというより、ミトコンドリアが止まったおかげで発酵方式となり、細胞内のブドウ糖がやたら増えたために微生物がやって来た、とも考えられそうです。
何千ものミトコンドリアが揃いも揃って不調になった納得のいく理由を外に見つけるのは、どうやらとても困難なようです。それなら、ひとつの細胞の中で、千個単位ものミトコンドリアが不調になっているのは、なってしまったのではなくて、むしろ何かの目的で、おそらく何らかの事態に対応するために、体は、または細胞は、多くのミトコンドリアを意図的に不調にした、あるいは機能を止めた、と考えるのはどうでしょう。
さらに、ミトコンドリアを意図的に不調にした、あるいは意図的に機能を止めたのなら、細胞の無軌道な分裂もなってしまったのではなく、同じ目的をなしとげるために、細胞が意図的に起こした、とは考えられないでしょうか。
(続く)