第17章―5 ガンの特徴と対策:番外編―豊かさの栄養学 2
前回は、穀類を精製(脱穀)して白米や白い小麦粉にしていることが、糖分の過剰を招くうえに、その糖分をエネルギーに変換する栄養素(ビタミンB群やミネラルのマグネシウムなど)が不足する原因ともなり、大きなアンバランスが生じる、ということを書きました。これと同じような極端なアンバランスを生じているのに、ほとんど無視されて、ずっと続いているのが脂肪です。脂肪は、エネルギー源だとしか捉えていない人が多いかもしれませんが、細胞膜を構成する材料になるなど、極めて重要な栄養素です。
この脂肪の極端なアンバランスをもたらしているのは、揚げ物や炒め物です。アンバランスだけにとどまらず、揚げ物や炒め物はさらに大きな問題、脂肪の酸化を引き起こします。
とんかつ、チキンカツ、魚のフライ、てんぷら、餃子、ポテトフライ、ポテトチップス、ドーナツなどは揚げ物、ハンバーグ、ステーキ、野菜炒め、焼き飯などは炒め物です。こうやって並べてみると、いかに揚げ物、炒め物が多く、油を過剰摂取しているか、よく分かりますよね。1970年ころにファミリーレストランが普及し始めてから、日本の食卓に急に揚げ物や炒め物が増えたと言われていますが、確かに外食のメニューには、揚げ物、炒め物がやたら多い気がします。家庭でも、揚げ物、炒め物料理がすごく増えました。何と言っても、調理が簡単で、時間がかかりませんから。
酸化を促す3大要因は、酸素、光、熱ですが、揚げ物、炒め物はこの3つがすべて揃っています。酸素は常にあるし、暗いところで料理なんてしませんよね。低温で揚げたり、炒めたりも無理です。そして、揚げ物や炒め物にわざわざ、サラダ油や天ぷら油など非常に酸化しやすい油を使っていることも決定的な要因です。
これらの植物油に多く含まれるオメガ6という種類の油脂は、人間の体では合成できないので、食事から摂取しなくてはならない必須栄養素であることが分かって以来、やっぱり植物の油が健康にはいいんだ、という考えが一気に広がりました。それまで揚げ物、炒め物に使っていた動物系のラードは植物系の油に、動物系のバターは植物系のマーガリンに次々と置き換えられました。ところが、オメガ6が非常に酸化しやすいことまで、考えが及びませんでした。
脂肪は細胞膜の主要材料で、そのひとつでも酸化されると、あるいは酸化した脂肪がひとつでも細胞膜に使われると、酸素を介在してまわりの脂肪が次々と酸化されるという連鎖反応が生じ、細胞膜はぼろぼろとなります。そうなると、細胞内に菌などが侵入しやすくなるうえ、発ガン性物質が細胞内に入ることによってガン化が起きる、という説もあるくらいです。
この酸化の連鎖反応を止めるのは、ビタミンE、タンパク質のグルタチオンなどの抗酸化物で、ビタミンEは細胞膜のところどころに埋め込まれています。しかし、オメガ6が多い油で揚げた物、炒めた物を多く食べ、酸化した油が次々とやって来ると、これらの抗酸化物ではとても防ぎ切れません。
また、酸化した脂肪がまずいことは私たちの体もよく分かっていて、これが血液中に入ってくると、体の免疫がマクロファージ(大食細胞)を送って、酸化した脂肪をまるごと食べてしまいます。ところが、酸化した脂肪があまりに多いと、それを食べ過ぎたマクロファージは、脂肪がぎっしりと詰まった泡沫(ほうまつ)細胞となり、血管の内側の壁にへばり着いてしまいます。これが次々と血管の内側にたまっていって、隆起状に盛り上がってしまうのが動脈硬化の最大の原因です。それが心臓発作や脳溢血などの血管系の病気の温床となります。
植物油の酸化を防ぐために、水素添加という方法があり、水素添加されている植物油やマーガリンが売られています。しかしこれは問題を解決するどころか、よけいややっこしくしてしまいました。水素添加すると、油脂の構造がねじ曲がってしまうのです。これがトランス型脂肪酸と呼ばれるもので、細胞膜に使われるとその部分が弱くなり、細胞膜が弱体化するなど、様々な障害をもたらす、と言われています。市販のマーガリンとショートニングはおそらく、ほぼ全部が水素添加され、トランス型脂肪になっていると思われます。
ですから、一番いいのは、揚げ物、炒め物を止めることです。そうすれば、油脂の過剰摂取、酸化、そしてこれから書くアンバランスという油脂の大きな問題がほとんど片付きます。それでも、どうしても揚げ物、炒め物がほしい場合は、できるだけ酸化しない油を使うことです。酸化しにくい油で揚げ物や炒め物に適していると思われるのは、オメガ6をほとんど含まないココナッツオイルです。また、パンにつけるのはマーガリンを止めて、バターにしましょう。
さて、オイルバランスと言っているのは、油脂には様々な種類があるからです。オイルバランスは、細胞膜の健全さ、アトピーや花粉症などアレルギー性の症状などに大きく影響します。ここからの説明は、私が苦手だった化学の教科書のようになってしまいますが、これが分かっていないと、油脂のバランスは理解できません。
飽和脂肪酸は規則正しく並んでいるため安定しているので、酸化しにくい油です。ココナッツオイルは90%以上が飽和脂肪酸です。これに対し、不飽和脂肪酸は水素が抜けて不規則なところが不安定で、酸化しやすいため、この不規則なところが多いほど酸化しやすい、と言えます。
この不規則なところに強引に水素を付け足すのが、水素添加です。水素添加すると、この不規則でやや曲がっているところが、まっすぐになる場合もあれば、よけいひん曲がることもあります。水素添加は、不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸にしようとしているわけですから、酸化がまずいのなら、わざわざこんなややっこしいことをしないで、最初から飽和脂肪酸を使えばいいと思いませんか。水素添加はもともと工業用で、不飽和脂肪酸の方が飽和脂肪酸より価格が安いために、その酸化を防ぐ必要があって編み出されたらしいのですが、食品にはそんなことはやめましょう。
この不飽和脂肪酸はさらに、水素が抜けて不規則になっている場所の違いよって、主にオメガ3、オメガ6、オメガ9に分類されます。オメガ9は不規則なところが1カ所ですが、オメガ3は3から5カ所、オメガ6は2から4カ所に、不規則なところがあります。これらの油脂すべてを使って、細胞膜は構成されています。
細胞膜を構成するのは、だいたい半分がタンパク質、残り半分が油脂です。油脂は、だいたい半分が飽和脂肪酸、半分が不飽和脂肪酸です。ここでの油脂の働きは、柔軟で頑丈な細胞膜を形成することです。飽和脂肪酸の形はほぼまっすぐ、不飽和脂肪酸は水素分子が抜けている不規則なところで曲がっていますので、オメガ3とオメガ6、オメガ9のそれぞれの形がすべて違っています。細胞は、この形の違う脂肪酸をパズルのように複雑に組み合わせて、柔軟で隙間のない膜を形成しています。
ですから、これらの数のバランスは極めて重要です。どれかが足りないと、パズルは完成しません。オメガ6を多く含む植物油を使った揚げ物や炒め物ばかりを食べていると、オメガ6ばかりが過剰となり、パズルがだんだんうまくいかなくなります。また、水素添加して本来はない形のトランス型が来ても、パズルにぴったりとはまりません。それを強引に入れると、隙間ができてしまいます。飽和脂肪酸とオメガ9は私たちの体で合成できますから、ある程度、調整できますが、オメガ3とオメガ6は食事から摂取するしかありませんから、食事中のオメガ3とオメガ6のバランスが決め手となります。
そのオメガ3とオメガ6はさらに細かく分類すると、アトピーや花粉症などアレルギー性の症状が理解しやすくなります。
(続く)